10 勇者と痴女の共同作業
どこからともなく耳障りな死神の声が聞こえてくる。
「……その子たちと遊んであげて下さい。私はしばし見物です」
死神の声に反応した
僕は背後にあった家屋の屋根に飛び乗り、リベリオンを空に掲げた。
「
リベリオンの穂先から放たれた覇気が光の弾となり、
無数の光の弾が
強力な自己再生能力を備えているのだろう。少し厄介だが、いくらでも対処方法は存在するので問題はない。
一体の
僕は崩れ落ちる家屋の屋根を走り、隣の家屋の煙突に飛び移った。
崩れた家屋の中にいた亡者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
『ヘカトが静かな理由はこいつらだな』
『ええ。亡者たちはこいつらに恐れをなして潜んでいるのね』
亡者を喰らう亡者か……そうだ、いいことを思いついたぞ。
『アクィエル、死者の愚弄になるんだ!』
『ああん、そんな乱暴な言い方されると興奮しちゃう! ん、くぅぅ』
左手に瘴気がまとわりつき、漆黒の魔法書が現れた。
『この魔法書、ところどころが湿っている気がするのだが……』
『ハァハァ……ボウヤのせいよ』
死神を恐れていたのではなかったのか? 不思議な女だ。
死者の愚弄は意識するだけで思ったページを開くことができるみたいだ。
様々な標本が描かれたページが走馬灯のように頭の中を巡っていく。
『そんなに速くめくられると──あああああああああぁ』
『……』
一人興奮するアクィエルを無視して、ページをめくり続ける。
あったぞ。アクィエルの
「〈
僕の左手から骸が滝のようにドバドバと流れ落ちていく。
「グオオおおおおおおおおおおおお!!」
動くものを見境なしに貪り食う骸たちが
対する
次々と遅いかかってくる骸に次第に埋もれていく
ナタを振り回すのを諦めた
爆食いと暴食の仁義なき戦いだ。
『この骸は何体ぐらい出せるんだ?』
『……数なんて考えたことないけど……ハァ……軽く数千万体はいけると思う、ンン……街一つ造ったこともあるわ』
『数千万か、それなら出し惜しみする必要はないな』
僕はもっと餌をあげようと、さらに骸を流し込んでやった。
馬鹿みたいに喰い続ける
「グガアアアあああああぁアァアア!」
風船のようにパンパンに膨らんだ腹が裂けて、そこから数体の骸が這い出ようとしている。丸呑みされた骸が腹を喰い破って出てきたのだろう。
さらにそこへ追い討ちをかける様に覆いかぶさる骸の群れ。
中からも外からも喰われ続け、さすがの
気がつくと
蛆のように蠢いていた骸たちは次第におとなしくなり、終いには動かなくなってしまった。餌が完全になくなってしまったのだ。
「おい、もう終わりか? こんな雑魚、遊び相手にもならないぞ」
骸をさらに生み出しながら、死神の反応を待った。
しばらくすると、死神の甲高い声が聞こえてきた。静寂の
「面妖な術を使う勇者ですね……」
しかし、一向に姿を現そうとはしない。
まだ血だまりの中──異空間に隠れているのだろう。
「出てこいよ、骸の海を泳いでみないか?」
今度はこちらから挑発だ。
僕は魔法書を持ったまま、家屋の下に広がる骸の海にダイブして泳いで見せた。
『ボウヤ!?』
骸の海を泳ぎながらも、左手から骸を生み出し続ける。奴のいる血だまりに骸を流し込むためだ。
突然、骸の海の中央に螺旋状の黒い閃光が走った。それに巻き込まれた骸が次々と消し炭になっていく。
その螺旋の中央──血だまりの上に死神が立っていた。死神の手には巨大な鎌が握られている。
『あれは魂を刈り取る大鎌。触れれば即死よ。ボウヤ、気をつけて』
大鎌には苦悶に顔を歪めた魂がいくつもまとわりついていた。
僕は骸たちに死神を取り囲むよう指示を出した。死神の周りの骸が互いに絡み合いながら何かを造っていく。
死神は何をするともなく、その様子を平然と眺めているだけだった。
やはり。思った通りだ。
骸により出来上がったのは巨大な箱──死神を閉じ込める牢獄だった。
「〈
牢獄の壁から鋭い骨の刃を出現させ、死神に向かって発射する。その数は数万発。
脱出するならばこの牢獄を破壊するか、もしくは血だまりから異空間へ逃げるしかない。
「オホホホホ、私にこんな脆弱な攻撃は効きませんよ?」
牢獄の中から嫌味な高笑いが聞こえてくる。
せいぜい笑っておくがいい。君のカラクリは大体想像がついている。
「〈
僕は全身に覇気を流して、虫一匹の羽ばたきさえも捉えられるほどに意識を研ぎ澄ました。
僕の周りに時が静止したような別空間が広がる。
背後の骸が一瞬動いた。
「〈
血だまりから出ようとした死神の背後へ跳び、脳天にリベリオンを突き刺した。
「ぐっ!!」
手応えあり。
死神の脳天にリベリオンを刺したまま血だまりから引きずり出した。
「な、なぜわかったのです……」
「骸の牢獄は僕が気づいていないと見せかけるカモフラージュ。君があそこにいないことは見抜いていたよ」
「読まれていた……というのですか」
「虚像の君は何もできない。僕を攻撃するには実体でないといけないんだろ? その実体がどの血だまりから出てくるかすぐに察知できるよう、骸の皮膜を張っておいたんだ。この骸を出した真の狙いは
「くっ!」
死神が動こうとしたので、その首を
仮面の下には
「君と隠れんぼで遊ぶのには飽きたよ」
「私が人間ごときに──」
なおも喋ろうとする髑髏を問答無用で踏み潰した。バリンと小気味の良い音があたりに鳴り響く。
突っ立っていた死神の体が赤い砂となり、さらさらと崩れ落ちていく。
死神の武器の大鎌も砂となり消え失せようとしていた。
「おっと、君には消えてもらっては困るんだ、〈万物武器化〉!」
とっさに死神の大鎌を握り、武器化を試みる。
あたりの骸が瞬時にして消え去ると、大鎌が黒い瘴気に包まれた。
瘴気が晴れると、そこには完全な姿に復元された大鎌があった。
柄の長さは僕の身長の二倍ほど、鎌の刃の部分は僕の身長ほど。改めて見てみると、とてつもなく巨大な鎌だとわかる。
大鎌を持ちあげてみた。
手に吸い付くように馴染んで、すごく持ちやすい。そして軽い──いや、適度な重さといったほうが良いか。
今度は片手で振り回してみた。
ヒュオンヒュオンと空気を斬る音がして、鎌が描いた軌道に黒い閃光が走る。
何て扱いやすいんだ。
普通、こんな大きなものを扱おうとしたら力で制御せざるを得ないが、竹刀のように簡単に振り回せる。
武器化により、僕だけの仕様に仕上がっているのだ。
武器マニアの僕にとって飛び上がるほど嬉しい能力だ。
では、肝心の能力の方はどうだろうか。
力を込めて振り回したら……すごいことになりそうな予感がする。
僕は大鎌を両手でしっかりと握ると、遠心力に身を任せて、ぐるぐると回転しながら振り回してみた。
大鎌から放たれる黒い閃光が数ブロック先の家屋まで届いた。
力の込め方次第で、いくらでもリーチが伸びる。広範囲攻撃用の武器として重宝しそうだ。
手元に大鎌を引き寄せると、鎌の刃の部分に数え切れないほどの霊魂が絡みついていた。
こいつらは……僕が斬った家屋に隠れていた亡者たちの霊魂だろう。
一方、僕が斬った家屋には傷ひとつ付いていなかった。
これは霊魂だけに作用する魔法武器なのだ。
ネーミングはどうしようか、「死神の大鎌」、「魂の誘拐犯」、「ブラックエンジェル」……考えたらきりがない。
これも武器マニアのささやかな楽しみの一つなのである。
『ボウヤ、なんだか楽しそうね。そんなにその武器が気に入ったのかしら? 私、嫉妬しちゃう』
『これも君の力のおかげさ。ありがとう、アクィエル』
『うふふふふ……ボウヤと私の愛の結晶ってことね! じゃ、その武器の名前は「肉欲の権化」なんてどうかしら──』
肉体の欲望からの解放、という意味か。なかなかいい線ではないか。
『よし、この武器は「ソウルセパレーター」にする!』
『なんか私のアドバイスと違う気もするけど……』
武器化の能力のおかげで素晴らしい武器を手に入れることができた。
この調子で冥界を掃除しながら、神や邪神を討つ準備を進めていこう。
『女神たちが気になるが、このまま冥界を散策してみようと思う。ナビゲートを頼むぞ、アクィエル』
『任しておいて。一心同体の私とボウヤなら冥界の深層にだってたどり着けるわ。クソ女神なんてもう放っておきなさい』
僕は冥界散策の準備のため、街外れの隠れ家へ戻ることにした。
女神を武器化して世界の全てを敵に回す @Yupafa
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