第55話 勇羅side
―午前十一時半・宝條学園正門前。
「瑠奈。もしかして琳ちゃん達待ってるの」
「勇羅」
事件発生以来。聖龍や学園内の情報漏れ関連に関わる、一連の解決の見通しが立つまでは、生徒の登下校時には常に教職員が正門に立ち、中庭にはバッヂを付けた、警備員の姿も見かけるようになった。
今日は郊外で起きた事件の説明も相まって、緊急の職員会議を開くことになった為、高等部中等部生徒共に、午前中で授業を切り上げる事になったらしく、会議に伴い全ての部活動も中止を言い渡された。午前中終了と言う事で正門前には同級生や上級生、そして別校舎の中等部生徒問わず、大勢の生徒達の姿が雑談をしながら歩いているなど、勇羅が普段見かけない生徒の姿も正門前に見かける。学園正門の近くの脇の壁に、もたれかかるように立っていた瑠奈は、別のクラスの琳達を待っていたようだ。
「ウチの学校これからどうなるのかな…」
「勇羅。逢前先輩には連絡出来た?」
勇羅達が知る限りでの、東皇寺学園の反生徒会派筆頭の逢前響や、反異能力者主義が極めて強い東皇寺学園で、異能力者である事を隠しながら、ひっそりと学園生活を送る彩佳。そして聖域の騒動で一時は夕妬達に連れて行かれたが、どういう訳か店から離れた、近くの公園で放置されている所を、捜査していた警官によって発見された友江芙海。発見直後の友江芙海は酷く衰弱しており、すぐ病院へ搬送する事になっていたが、娘の発見を聞き付け迎えに来た両親の強い希望で、周囲の多大な不安を残しながら、友江芙海は自宅へ帰宅したと言う。
一度は自宅へ帰宅したものの、翌日の朝。芙海は再び学園で騒ぎを起こした為、結局は検査入院の為病院へと搬送された。数日前とは全くの別人の様に変貌した友人を、目の前で目撃した館花二羽も今頃学校では大変な状況になっている筈だ。
「うん。向こうも学園内で何だか情報が錯綜してるらしくて。知人にも色々手伝って貰ってるって響先輩言ってたけど、追われてて大変だって……あれ?」
背負っている学生鞄に何らかの違和感を感じると、マナーモードにしている携帯から、何度も振動がしているのに気付き、鞄のポケットに締まっていた携帯を取り出す。振動がし続ける着信画面を見ると、全く知らない番号が表示されていた。
「どうしたの」
「着信。でも番号が俺のアドレス帳に乗ってないんだけど…」
携帯の振動は早く電話に出ろと、言わんばかりにまだ止まらない。ただの嫌がらせならば、速攻通話を切ってやろうと思い、勇羅はいやいやながら、携帯の通話ボタンをスライドする。
「……もしもし?」
『やぁ、篠崎勇羅君。久しぶり』
「!?」
勇羅と似たような甲高く、そして異質なまでの雰囲気を、漂わせる声を聞き表情を強張らせる。携帯からの聞き覚えのある声は、間違いなく聖域で出会った宇都宮夕妬だった。
『ふふっ、ごめんね。でも僕達は、何でも知ってるから…ね』
「……何で俺の携帯の番号知ってんのさ? つか、あんたらのやってる事、プライバシーの侵害じゃない? 大体俺達のアドレスやら何処で知ったんだよ?」
『何かいけないの? 僕はただ本当の事を知りたいから情報をもらってるだけ』
いちいち勇羅の勘に障る、言葉を機関銃のように放って来る。本当に彼は自分と同い年なのか。最も勇羅自身は見た目も含めて、同年代にしては幼すぎると思っているせいもあるが。
「うるさいよ。俺が聞いてんのは、俺達や宝條の個人情報をどこで入手してるのか。あの事件といい、あんたらどうせ悪いことに使ってるんだろ」
『そんなの簡単には話せないし、君達には関係ない事だよ。そうそう君。見た目の年齢だけでなく、精神年齢もかなり低いんだね。あぁ。あの怒りの沸点の低さから見たら、小学生くらいかな?』
「な、何が小学生だあぁっ!? つか、お前にだけは言われたくなかったね!! 大体身長だって、俺と大して変わらない癖に!!」
「ゆ、勇羅ったら…。抑えて抑えて」
『ふふっ……瑠奈ちゃん。其処にいるんだね』
瑠奈に宥められかろうじて冷静さを取り戻すが、どうやら瑠奈が聴いている事を、通話越しの夕妬に気付かれたようだ。しかも瑠奈は、聖域を警戒して携帯を替えたばかり。事件が解決するまでは、勇羅も瑠奈や琳の連絡先を、教えて貰うことが出来ない。
「…その様子だと他のみんなにも連絡取れなくなった?」
瑠奈達にメールを送れなくなったのを逆手に取り、敢えて夕妬を挑発する。相手は自分以上に頭が切れるのは知っている。現在通話している、夕妬には決して悟られないよう、勇羅は思考をフル回転させ慎重に言葉を選ぶ。
『僕も困ってるんだ。だって連絡がいきなり途絶えるから、瑠奈ちゃん達の個人情報を全て知っていても、突き止めるまでまた一からやり直し』
「そう……」
予想通りだ。瑠奈や琳が茉莉の指示で、携帯の機種と同時に、電話番号も替えたのが幸を総じて、連絡先を辿るのに手間取っている。
『篠崎君。お姉さんがいるよね……そぅ、僕の大切な砂織』
何故姉の事を知っている。いや、自分達の情報を把握しているから、自分の家族の事を知っていてもおかしくない。しかも『僕の』とまで言った。この場に和真がいたら、姉を心底愛している和真の事だから確実に暴れ狂う。
『今、君のお姉さんの所に僕の仲間が向かっている。僕達を止めて欲しければ、君と瑠奈ちゃんだけで聖域まで来て。その後は僕達聖域の思うまま……ね』
「ちょっ、おい!! どういう事だよ!?……っ」
―プツッ…―…ツ―…ツ―…。
勇羅達への宣戦布告とも言える発言を、一方的に告げた宇都宮夕妬は、携帯越しから夕妬の言葉を聞いて目を見開く、勇羅を余所にそのまま通話を切った。
「あ…あいつ、何だって?」
「ね、姉ちゃんの大学に…。聖龍のメンバーが向かってるって…どうすれば」
自分と瑠奈だけで来なければ、砂織の安全は保障しない。しかし夕妬や聖龍達の事だから、自分達だけで行っても止める気など更々ないだろう。これは完全に罠だ。
「待ってよ、それにしては変じゃないの。砂織さんには和真さんが付いてるから、聖龍だって簡単に手出し出来ない」
「あ……うん。そうだね」
砂織には和真が居ると聞き、勇羅はすぐに落ち着きを取り戻す。確かに夕妬が話した内容に、何故か和真の名前は出ていない。現在砂織は、自分が聖域にマークされている事を考慮し、砂織の恋人である和真が直接送り迎えをしている。勇羅は無言でアドレス帳から砂織の連絡先を開き、姉の安否を確かめるべく急いで砂織に連絡する。
『……もしもし、勇羅?』
「ね、姉ちゃん?」
数回の着信音の後、携帯越しから流れるあっけらかんとした、声の主はまさしく姉の砂織。聖龍に連れていかれた筈の砂織はまだ無事だ。
『どうしたのよ? あんたの方から、連絡してくるなんて珍しい』
「い、今何処にいるの!?」
今はこうして無事でも、勇羅との通話の隙を突かれて、聖龍のメンバーに捕らわれては堪ったものではない。
『な、何? そんなに慌てて。今、和真ちゃんと一緒にいるよ』
なんと和真は砂織のすぐ傍にいる。砂織が無事かつ和真と一緒ならば、こちらにもまだ機会がある。
「事情は後で話すから、すぐ和真兄ちゃんに変わって!」
弟の切羽詰まった声に、戸惑いながらも『わかった』と答えた砂織は、携帯越しから和真の名前を呼ぶ。数秒後に通話越しから、砂織と和真の話し声が聞こえてくる。本当に和真は砂織のすぐ傍にいたらしい。少しして砂織は和真と代わったようで、和真の声が携帯から聞こえてきた。
『勇羅。どうした? 砂織がなんか勇羅が慌ててるみたいだ、って困惑してたぞ』
「か、和真兄ちゃんっ! 良かったぁ。実は……―」
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