第45話 瑠奈side
「くそっ、放せよっ!!」
「お前が暴れたら、一緒に来た瑠奈ちゃんがどうなるか分からないぜぇ?」
「ぐっ…っ」
男達に拘束される前から、容赦なく暴れまくっていた勇羅だが、異能力者でもある瑠奈がいる以上、派手に抵抗する以前に、目の前の相手一人殴る事すら叶わず、すぐに暴れるのを止め縄による拘束を許した。しかし拘束されても尚、勇羅はお前たちの言いなりにはならない、といわんばかりに足掻いている。
「放してよっ! あんた達、男の癖に化粧臭いし煙草の煙も臭いし…後、酒臭い!!」
「このガキ…っ! 胸と尻は一丁前に出てる癖に、生意気すぎだろ」
瑠奈も瑠奈で勇羅同様に拘束されても足掻きまくっている。瑠奈の小柄ながら肉付きの良い身体を、瑠奈の両手首が縛られている事を良い事に、隙を狙って触ろうとしてくる何人かの男達を、縛られた両腕を器用に、振り回しながら容赦なく跳ね退けている。瑠奈の予想以上の抵抗っぷりを眺めながら、夕妬は悪戯っぽく微笑む。
「僕、君のそんな所が好きだな」
「あんたみたいな奴に、好かれても全然嬉しくないよ。自分から進んで何にもしない癖に」
「ふふっ…君も京香と同じ事言うんだね」
夕妬の言葉と天上から舞い降りた天使を思わせる、甘く蕩けるような微笑みに対しても、瑠奈は全く動じる事なく威嚇するように睨み付ける。所詮自分で汚れ役などせず、顔と家の権力で周りや自分に逆らうもの全てを、懐柔しようとする愚かな男。二羽や京香の言っていた通り、天使の皮を被った悪魔を体現した見たいな男だった。
「…芙海さんは何処にいるの? この店に入り浸ってるんでしょ」
「あぁ、芙海ぃ? あの幼稚園児みてぇなバカ女?」
「あいつもバカだよなぁ。薬欲しさに姉貴を夕妬に差し出したんだぜ?」
男達の不穏な態度や発言に、勇羅達は本能的に嫌な予感を感じ取るが、ここで怯む訳にはいかない。自分達はあくまで、この店のどこかに居るとされる、友江芙海を捜しに来たのだから。
「と、東皇寺学園の友江芙海さん。最近聖龍ってグループとつるんでる。…こ、この店で何かしてるって」
相手に余計な情報を与えないよう、瑠奈は慎重に言葉を選びながら質問する。瑠奈のたどたどしい質問に対して、夕妬から返ってきた答えは、二人が思っていた以上に、予想もつかない返答だった。
「友江芙海? あぁ。あの娘全然つまらないし、もう飽きちゃったからさ…この店の皆にあげちゃった」
「飽き、た…?」
夕妬は芙海を飽きたと言った。芙海は姉にも家族にも反発しながら、あくまで夕妬の為に動いていたのに、当の夕妬は芙海を飽きたと言って捨てている。
「でもね。あれは芙海が望んだ事なんだよ。『夕妬は私の楽しいものも気持ち良いものも、なんでもくれる。ここは私が欲しいものをなんでもくれるから』…って」
夕妬の言っている事は、勇羅も瑠奈もまるで理解出来なかった。彼らは何が気持ち良いと言っている?
友江芙海が望んでるものを、なんでも与えると言っているこの場所。いや。この聖龍と言う場所では、一体何が行われている?
「おい夕妬ぉ。もしかしてこいつら、芙海の事何にも知らないんじゃないのか?」
「ギャハハハハハッ!! 何せ神在の宝條の連中ってのは、世間知らずの脳ミソお花畑な、お坊ちゃんお嬢ちゃん揃いだからなぁ!!」
「こういう真っ白なモノを、俺達聖龍が、滅茶苦茶のぐちゃぐちゃにするのが楽しいんじゃねーか!」
「ふふっ。あんまり彼らをからかっちゃダメだよ?」
あまりにも現実味のない、この『聖域』と言う荒廃した世界の事実に、呆然としている勇羅達を後目に、聖龍のメンバー達は勇羅達を、おかしなものを見るような目で見ながらゲラゲラと笑う。
「待ってよ…。じゃあ、芙海さんは…」
「今頃店の地下の部屋で、アレキメてお楽しみじゃね? おおっと、世間知らずのお金持ち様には。ちょぉ~ってキツかったかぁ?」
「夕妬ぉ。今日はこの娘を使って、『パーティー』しても良いんだよなぁ」
「やっぱりこの娘。見れば見るほどむちむちしてて良いねぇ~」
「くぅぅ~! 早く楽しみてぇ~!」
男達は生け捕った獲物を、舐め回す様に瑠奈へと視線を合わせだす。男達の獣じみた視線に対し、瑠奈は男の視線の『何か』に気が付いたのか、顔がみるみる真っ青になり始める。
「お、おいっ!! お前ら瑠奈に何すんだよ!?」
瑠奈に対する男達の視線を見て、聖龍の目論みを瞬時に察した勇羅は、すぐにでも手首の拘束を破らんと、火が付きだしたように暴れだした。振り回した両腕が、勇羅を拘束していた男の顎の下をギリギリ掠める。
「うおぉっ!? ちょ、お前っ。こいつ抑えてろ! チビの癖してやたら力つえーわ!」
「言いやがったな!! こんなものぉ…うぐ、ぅっ?!」
体格のコンプレックスを刺激され、男から逃れるべく勇羅は更に暴れようとするが、一回りも体格の大きな男複数に床へと抑え込まれてしまい、勇羅はあっという間に身動きが取れなくなった。
「勇羅っ!! あ、あんた達、なにすんのよ!?」
男達に押さえつけられた勇羅を見ると同時に、瑠奈は気丈にも夕妬達を睨み付けるが、僅かながら声は震えている。男達に抑え込まれても、尚放せと言わんばかりに、男達による拘束の中暴れ続ける勇羅だが、小柄な少年の予想以上の抵抗に煮をもやした、一人の白髪男が勇羅の頬に一発の拳を飛ばした。
「―っっ!!」
【―…こ―……·殺す…っ―…】
突然、瑠奈の脳内に誰かの声が聞こえる。その声の主を考える隙もなく頬を殴られ、呻く勇羅を抑えた数人の男達を合図に、残りの男達は瑠奈に近寄り始める。
「へへへっ…大人しくしてなよ、お嬢ちゃん」
「ダメ。君達は手を出しちゃダメ。瑠奈ちゃんは…この僕が彼女を聖域に染める。彼女の事は僕が初めに目を付けたんだから…ね?」
「待てよ夕妬。またお預けかよ? てめぇいい加減にしろよ」
「…夕妬。お前、誰が宝條の情報集めたのか分かってんのかぁ? 俺達にもこの娘を味わう権利は、沢山あるんだぜぇ」
黄色い歯をむき出しにしながら、ニタニタと笑う男に瑠奈だけでなく、夕妬もまた男への不快感を露にする。
「この聖域の支配者は宇都宮である僕だ。僕が居るから君達は自由に動ける、僕達宇都宮一族の存在があるからこそ、君達は例え囚われてもすぐに解放出来る。それを忘れないで。それとも君達は宇都宮である僕を怒らせたいの?」
「てめぇ……」
夕妬の自分だけが瑠奈に手を出すと言う発言に対し、勇羅を取り押さえてる男達は、あらかさまに不服な顔をする。どうも夕妬や彼の取り巻き達と、聖龍古参との間に溝があるらしいが、じりじりと男達に囲まれかけている瑠奈に、それを考えている時間がない。
「うっ…このっ」
「瑠奈ちゃん、おいで…僕が君を、聖域に迎え入れてあげる。僕の愛で君を満たしてあげる」
夕妬がゆっくりと、瑠奈の方向へ足を進めようとした瞬間。瑠奈の頭に再び思念が流れ込んでくる。
【―…お……お前…―…っ――………殺す!!!!!!】
「!!?」
次の瞬間。
夕妬を含め瑠奈に近付こうとした周りの男達が、一斉に壁際へと吹き飛ばされた。
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