第42話 瑠奈side
―午後四時半・水海探偵事務所。
あの後。何としてでも自分は泪の役に立ちたいとごねて騒ぐ翠恋を、泪本人が何度も説き伏せたのだが翠恋は全く聞く耳を持たず。結局半ば無理やり泪は、翠恋の腕を引きずりながら神在駅前まで送り届けた後。一連の行動を見届けていた響・二羽と共に、泪が住む水海探偵事務所へ移動する事になった。
泪の事務所なら建物の中だけでなく、周辺のセキュリティもしっかりしているし、万が一連中に監視がバレても、事務所本来の所有主はあくまでも水海家に在るが故に、宇都宮達もこの場所へ安易に手は出せない。万が一どこかでこの事務所を監視していたとしても、正面切って水海の一族と殴り合いを避けたいのは、宇都宮の方も理解しているだろう。
「さっき二羽が言いかけてた中庭の騒動。あれ何だったんですか」
「あれは、一年の友江さんが起こした。騒ぎの方は僕も遠目でしか見てないんだけど…彼女、かなり錯乱してた」
「芙海…」
先程東皇寺で起きた騒動の内容を響は淡々と告げる。二羽はやっぱりと言った表情で静かに俯く。
「それでも彼女。あそこまで周りが騒動になるような、大騒ぎを起こす娘じゃなかった」
「う、うん。私も何度か芙海を止めた事あるんだけど…。今回ばかりは、私の話にも全然耳を貸さなかった」
俯きながら何か思うような所がある表情で話す響も二羽に対し、泪と瑠奈は神妙な面立ちで二人の話を聞いている。
「それと東皇寺の友江継美副会長。中庭で騒ぎ起こした友江さんのお姉さんの事」
「彼女が何か」
「宝條学園の生徒が妹の事件に関わってるのかって、かなり疑ってる。彼女自身生徒会や学園教諭の贔屓にされている生徒だ。下手すればこっちを探られるかもしれない」
芙海の姉の継美が、宇都宮と関係の深い生徒会と繋がりを持っている事が濃厚となり、瑠奈も二羽も複雑な表情をしながら黙っている。
「それに宇都宮夕妬は、友江副会長にも目を付けてる。自分に従わない女性はあいつにとって格好の獲物だから」
「従わない相手が獲物?」
「あいつの周りにいる女子生徒は、大概上っ面でしか宇都宮を見ていない。普段から奴に纏わり付いてる女子連中は、大体宇都宮の見た目と家柄ですり寄ってる。男子の中でも生徒会の権力で、自分達が好き放題出来るのを良い事に、生徒会内のお堅い雰囲気とは逆に、生徒会派の奴らは実際見てくれが派手な生徒もかなり多い。
正直あいつ自身、見た目と家柄と権力だけでいとも簡単に媚を売ってくる相手を、単純につまらないんだと思ってる。宇都宮は自分の権力目当てに、すり寄って来る連中の性質を理解しながら、敢えてそいつらを駒として利用してる。これは…僕個人の意見になるけど。宇都宮は自分と同じ位かそれ以上に力と人望があって、尚且つ自分に頑として歯向かってくる生徒を従わせたくて、自分の手元に置いておきたくて仕方ないんだと感じてる」
響の話が一通り終わると同時に、響の会話に繋げるようにして二羽もまた言葉を続ける。
「…継美さんも気付いてたんだと思う、宇都宮君の裏の本性。表面上では普通に宇都宮君に接してたけど、前に学園の外で話してくれたんです。継美さん。彼の事、気味悪くて恐いって言ってた」
やはり気づく者にはしっかり気付くのだ。宇都宮夕妬の歪んだ本性と本質に。
「だから彼の本質に気付いた継美さんは、芙海の怒りを買ったんだと思う。『お姉ちゃんが私の邪魔するのは、お姉ちゃんは私の事が大嫌いなんだ』って」
「二人の間に何かあったのは確実ですね」
「芙海は最近神在周辺にも一人で出向いて、宝條学園の生徒数人と何度か揉めたって聞いて…」
泪達が話し込んでいる間、瑠奈は一人思索する。瑠奈の新しい携帯に着信が届いている。確認すると彩佳からのLINE(ライン)だった。物騒な事件に巻き込まれている以上、知り合いと言え第三者に情報を漏らすのを戸惑われるが、誰にも漏らさない事を条件に、彩佳にだけLINEのアカウントを教えたのだ。
『数日前から東皇寺一年の生徒が数人登校していません。消息を立った生徒は全員、友江芙海さんと接触した生徒です』
瑠奈が彩佳の呟きを見ていると、更にもう一つの呟きが追加される。
『芙海さんは東皇寺周辺で、噂の聖龍が頻繁に出入りしている『聖域』と言う、店の周辺で姿を見た生徒もいます。何もなければいいんですが』
「……(これってまさか。ねぇ…)」
友江芙海と関わった生徒が、次々に消息を立っている。そして聖龍と言うグループが出入りしている店で姿を見かける。これは何かあるに違いない。休み時間の時遠くで聞いただけだが、勇羅達も聖域について色々知りたがっていた筈。自分達だけ事件の暗部に入り込んで深みに嵌まっても、いつかは詰まってしまうだろう。
泪達はまだ友江姉妹の事で話を続けている。瑠奈は泪達に悟られないように勇羅へとメールを送った。
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