第43話 勇羅side



―同時刻・篠崎家勇羅の部屋


「あれ、メール?」


自室のPCで趣味を兼ねてのネットサーフィンをしていた勇羅は、無造作にベッドの上に置いてあった自分の携帯の着信音を耳にする。友人からのメール着信は、勇羅お気に入りの特撮番組の主題歌の一つだったので、取っても問題ないと判断し、すぐに携帯のメールボックスを確認する。


着信画面の相手を確認すると、メールの送り主は瑠奈からだった。瑠奈と琳は不審メール対策の為、携帯の機種を変更した後。探偵部の面々はすぐにメモ用紙へ書かれた二人の新しい携帯の番号と、変更したメールアドレスを茉莉から受け取った。東皇寺の事件が解決するまで瑠奈と琳のアドレスは、端末には完全に登録しないようにと釘を刺されてある。メールの内容を確認次第、瑠奈達のアドレスは履歴ごと消さなければいけない。


『To:新情報獲得!

文:彩佳先輩からの又聞きだよー。東皇寺の不良グループ御用達の『聖域』って、言う店があるんだって。もしかすると事件のカギを握ってる人が、店に居るかもしれない。 瑠奈』


友人からもたらされた思わぬ情報に、勇羅は思わず口元を緩ませる。すぐに机の引き出しからメモ帳を取り出し、メールの内容を簡潔に書き取ると、後は茉莉から言われた通り、瑠奈から送られたメールを履歴ごと削除した。瑠奈のメールを削除した直後、今度は通話の着信音が鳴る。電話を掛けてきた相手は泪であり、携帯の番号は普段勇羅がプライベートで泪へかけている番号だった。


「もしもし、泪さん?」

『ユウ君、丁度良かった。さっき瑠奈からメールが来たでしょう』


珍しく泪の方から通話をしてくるとは。しかも何故か泪は、勇羅が瑠奈からメールを送られていた事を知っている。


「う、うん。泪さん、凄いタイミングで電話掛けて来ましたねー…」

『ええ。瑠奈が話の最中に機種変更して数日も間もない携帯を、無我夢中で弄ってたので、話が終わった後で、瑠奈を問い詰めたらあっさり白状しました』


どうやら瑠奈は泪達と一緒に居たようで、話し中に泪の目を盗んで自分にメールを送ってくれたようだが、泪の様子からして即バレてしまったようだ。聖域連中からの不信メールを警戒し、機種を変えてから一週間も経たずにメールを送ったのだ。この手の件に詳しい者が相手だとすぐ怪しまれる。前探偵部部長和真の助手をしていて、かつ瑠奈や和真とも付き合いの長い泪なら、尚更この手の問題に気付くのも早い。


『まさかとは思いますが、その店へ行くつもりじゃないでしょうね?』

「え、えーとぉ…」


これはまずい。泪は勇羅の行動パターンを把握している、数少ない身内の一人だ。完全に勇羅の考えを読まれている。このままでは自分達の事情を、少しずつ把握仕掛け始めている麗二に、勇羅のお守り役と言う名の監視として付けられるか、最悪の場合。現在事件解決に協力している和真を召喚され、勇羅の返答と対応次第では、仕事で海外を飛び回ってる両親をも召喚されて、本格的に転校させられる危険がある。


「せ、せめて店の前だけでもー…」

『却下します。大体ただでさえ、部員全員が危険な橋渡ってるんです。貴方は自分から爆発の危険がある、地雷原に飛び込んで自爆する気ですか』


既に勇羅を『貴方』と言っている時点で、通話越しで泪が怒っているのが声から伝わってくる。泪の言っている事はまさに正論だ。今の現状、聖域や聖龍の全貌が掴めてもいないのに店に潜入すれば、下手をすると自殺行為になってしまう。


『聖龍の店の事は真宮先生や和真先輩にも報告して、外部側から情報を集めて貰います。とにかくしばらくは『絶対』に大人しくしていて下さい。『絶対』に、一人で店に行っては行けませんよ!』


泪は勇羅に反論する隙を与えず、絶対に店に行くなと言い切ると通話を切った。


「はああああぁぁ…」


これからどうしようか。行くな行くなと言われては、どうしても気になって行きたくなってしまう。しかし二回も『絶対』と強調する当たり、勇羅が何かをやらかすのを分かっているのを知ってるからあえて泪は発言したのだろう。泪が勇羅に対して取る対応で、一番マシなのは当然麗二の監視。しかし勇羅が親友である、麗二の行動パターンを知っているのは、泪の方も大方見抜いてる筈。下手をすれば自分への行動対処も、的確な和真を呼ばれるのは間違いなく避けられない。



「たっだいまー」



玄関横のインターホンが鳴らない呑気な声と同時に、家の玄関が開く音が勇羅の耳に入る。あの能天気な声は砂織が帰って来た合図。玄関のインターホンを鳴らさない姉の悪癖は、大学に進学しても相変わらず直っていない。勇羅は何かを思い出した様に顔を上げる。違う、むしろ今だけは姉の悪癖に感謝すべきだと。勇羅はすぐに出かける支度を始めると、部屋を出て自室の扉を閉め階段へ向かった。


「ちょ、ちょっと勇羅!? あんたこんな時間にどこ行くの!?」

「姉ちゃんごめん、先夕飯食べてて!」


いきなり階段から降りてきた弟を見て慌てる砂織を横目に、勇羅は篠崎家の玄関から飛びだし、庭に停めてある自転車のチェーンを外し、タイヤ周りに外してあった鍵を付けると一気にペダルを漕ぎ出した。


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