第41話 瑠奈side



―午後三時四十五分・東皇寺学園正門前。


「二羽。今日は学校で何か変わった事は?」

「瑠奈」


学園の授業が終わった瑠奈は、泪と共に東皇寺学園を訪れていた。予め茉莉には昼休みに職員室へ出向き、東皇寺学園の二羽に会いに行っていいかと相談していた。泪と同伴ならば会いに行っても良いと言う事で許可を貰い、直後メールで二羽に連絡を入れ、彼女からの返信にて了承を貰った。現在は学園正門前で待ち合わせていた二羽と会っている。


「ちょっと、これはどういう事なのよ? 買い物するんじゃなかったの?」

「瑠奈…か、彼女は」


瑠奈のお目付け役でもある泪の他に、なぜか三間坂翠恋と言う現状的にありがたくない同伴者もいる。学園を出る約十分前。瑠奈と泪が廊下で二人で話し合っている所を見たのか、二人の会話に横槍を入れるかの様に乱入し、彼女は半ば無理矢理ついて来たと言ってもいい。ただでさえ瑠奈達は相当な面倒事に巻き込まれてるのに、自分から厄介事に巻き込まれようとするのも如何なものか。


「三間坂さん。少し黙っていて下さい」

「で、でもっ!」

「黙っていて下さい」


泪に強く言われさすがの翠恋も引っ込んでしまった。翠恋が引き下がり大人しくなったのを確認して、泪と瑠奈は改めて二羽へ向く。


「芙海さんの様子はどう?」

「それが…」


少し聞き耳をたてると、やけに学園の中庭の方が騒がしく感じる。泪の右斜め後ろで大人しくしていた、と思っていた翠恋が再び口を挟む。


「ちょっとさっきから何なのよ、校舎の方がやたら騒がしいわね。一体ここの学校どうなってんのよ」

「ここ毎日そうですよ。彼のグループがたわむってるんです」

「…ふぅん。随分と野蛮な学校なのね、教師の指導が全然なってないんじゃない?」


翠恋の嫌みを含んだ愚痴にも否定せず無言で俯く二羽。中庭の方から一人の男子生徒が泪達に気付いたのか、正門へ近付いてくる。


「館花さん。お待たせ」

「こっちです、逢前先輩。この娘が宝條に通ってる友達の瑠奈と三年の赤石先輩で、それからー…?」


翠恋は二羽を一瞥した後、新たに自分の目の前に現れた逢前響をつまらなさそうに睨み付ける。


「宝條学園一年の三間坂翠恋よ。まったく、冴えない女と話してると思ったら、またややこしい奴が増えたわね。あんたが何か知ってるの? だったらさっさと罪を白状しなさいよ」

「話に無駄な横槍を入れないで。三間坂さんは少し黙っていて下さい」

「わ、わかったわよっ!」


再び泪に叱責され、口を尖らせながらぷいとそっぽを向く翠恋。憧れの人に怒られている自覚があるのか、翠恋は瑠奈達に顔を逸らしてはいるが、何とも言えない表情をしている。


「館花さん、逢前君。ここでは色々問題もありますし、一旦場所を変えましょう」

「分かった」

「後、三間坂さんは神在駅前まで送って行きましょう。今回の件、彼女は完全に無関係ですから」


自分は事件に無関係、との言葉が翠恋の中に火を付けたのか、翠恋は再び泪達の会話に口を出す。


「ちょ、ちょっと! 一体それはどういう事なのよっ!? あたしだって、何か泪の役に立てるんだから!」

「三間坂落ち着きなよ」

「うるさいわね真宮! あたしはあんたには質問してないのよ! あたしは泪に聞いてるんだからね!

正直あんたも話し合いに関係ないじゃない! あんたこそさっさと家に帰んなさいよ!」


関係ないと言われ瑠奈は思わず反撃したくなったが、今回ばかりは口を引き吊らせながら堪える。泪に想いを寄せてる癖に自分が納得の行かない事があれば、好意を寄せている相手の言う通りにしないのも、本当に不思議で翠恋の悪い癖だと思う。この東皇寺学園の事件で、翠恋に出来る事はなにもないのだ。どんなに騒がれても、この場で素直にお帰り頂いた方が、翠恋にとって大いに救いになる。


「三間坂さん、遅くなりますから帰りましょう」


翠恋の納得いかないとの反論を封じるかの如く、泪は真っ正面から清々しい笑顔を見せ、切り捨てるかの如く言い放った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る