第29話 泪side
「彩佳先輩。念動力の制御は大分慣れてきましたね」
「はいっ」
ここ数日間による、彩佳の思念の制御特訓は泪のアドバイスもあって順調に進んでいる。異能力者として着々と力を付けて来ている彼女の身の回りを危惧するとすれば、やはり彩佳が通う東皇寺学園内部の動き。彩佳が異能力の制御にこそ慣れて来ているが、知っての通り東皇寺学園周辺は異能力者への迫害が強い地域だ。異能力者である事が知れたら只では済まない。
「学園の方は何か変わりありませんか?」
「そうですね…念の制御が慣れてきましたから。今の所、私が能力者だと言う事はバレてませんし、変わった所があったとすればー…」
彩佳は少し俯き沈黙していたが、顔を上げて何かを思い出したように話をはじめた。
「例の学園内での異能力者狩りの事で何ですが…。実は数日前に、異能力の事件と関連していたウチの学園の生徒数人が、生徒会に呼び出されたんです。でもその時に呼び出されたのは、どう言う訳か異能力を持っていない普通の一般生徒」
「呼び出されたって、非異能力者が?」
東皇寺学園の生徒会による、異能力者狩りがますます活発化して来ていている。しかも学園の生徒会に呼び出されたのは、異能力とは何の関係もない非異能力者。これは何やらキナ臭い感じがする。
「え、ええ。呼び出された生徒達の中に、ウチのクラスの子も居たから」
「それから先は?」
「……それから先は、私にもわかりません」
これ以上は異能力者である彩佳が、個人で踏み込む事は非常に難しい。自分が学園内で異能力者だと、明かしに行くようなものだ。
「それで、その。呼び出された生徒達は今日、学園の近くの公園で発見されたんですが…」
彩佳は何か言いづらそうにしていた。よく見ると顔色も悪く青ざめている、発見された生徒達に何かがあったのは明白だ。
「せ、先輩。無理しないで、話さなくても大丈夫です」
「ごめんなさい……。結局私、何も出来ませんでした」
瑠奈と琳は肩を震わせる彩佳を心配する。東皇寺学園の生徒会は、異能力者と無関係の生徒までも異能力者狩りの犠牲にするものなのか。
「どうしようか…」
「学園の生徒達がどうなったのか気になりますが、これ以上彼女に無理はさせられません」
泪の言葉を聞いて、彩佳は申し訳なさそうに再び項垂れる。
「す、す、すみません。私では力になれなくて…」
「そ、そうだ! 気晴らしに異能力の練習しましょう! 彩佳先輩の異能力がどんなのかまだ見てません」
クラスの異変に何も出来ず落ち込む彩佳を何とか励まそうと、外部に対して必要以上に干渉が出来ない瑠奈なりの精一杯の気遣いなのだろう。
「あの祈祷、もう一度やりましょう!」
「彩佳先輩の異能力が具体的に分かれば…。そう! この事件が解決する何かのきっかけが、掴めるかもしれませんっ!」
「そ、そうですねっ! 今度こそ私の本当の異能力を、この手で発動させてみせますっ!!」
瑠奈の異能力が見たいとの言葉に、彩佳は気力を取り戻したのか、火が付きだしたかの如く奇っ怪なポーズを取り始め、先日行った怪しい祈祷を再び泪の目の前でやり出した。
「きええぇぇぇぃ! 我は求め訴えたりぃぃぃ!!」
しかも彩佳の祈祷は前回の祈祷とは異なり、より一掃気合いの入ったものとなっており、瑠奈もまた彩佳の祈祷を見ながら奇っ怪なポーズを取りはじめる。
「よ、よしっ! 先輩気合入ってる! 我は求め訴えたりぃぃぃ!」
「まだっ、まだですっ。まだ祈りが足りないぃぃ!! もっと力を込めてっ!! もっと激しくっ!!」
「訴えたりっ! 訴えたりぃ! 我は求め訴えたりいぃぃぃぃ!!」
いつの間にか瑠奈や琳までノリノリで祈祷をやり出し、興奮したのか角煮まで三人の周りを、飼い豚とは思えない速度でぐるぐると走り始めている。
「………またそれですか」
彩佳独自の異能力発現の為、女子学生三人とミニブタ一匹の奇行を、泪は更に冷えた能面の表情で眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます