第27話 勇羅side



「こんにちはー…って。響じゃない」

「こんにちは、奏さん」


東皇寺学園の響と共に宇都宮夕妬の動向を探る事になった勇羅は、一日の授業が終わった放課後。

駅前で待ち合わせをしていた響と会い、その途中偶然にも家族の見舞いに行く途中だった琳と合流し、丁度いいという事で三人で神在総合病院を訪れた。


目的は看護学部の看護学生であり、現在神在総合病院で研修生としても勤務している響の姉・奏に東皇寺学園周辺の話を聞くためだ。勇羅達が病院一階中央口の待ち合わせロビーに入ると、すぐに目的の人物と出会わせた。白の看護服に【研修中】の札を付けた白い看護用エプロンを、同じ色のナース服の上に身に付け、響と同じ水色の長い髪をポニーテールにまとめた女性が逢前響の姉・奏だ。


「琳ちゃん、今日は友達と一緒?」

「うん、隣の子は同級生の篠崎勇羅君。奏さんに用事があるって」

「仕事で忙しい所ごめん。姉さんに一つ聞きたい事があるんだ」

「今休憩中だし、少しなら大丈夫よ。どうしたの」


「姉さんの看護学科に、姉さん以外でこの神在総合病院を、研修先に選択して受けてる学生っている?」

「私以外に?」


響の話では奏の通う看護学校は、東皇寺の生徒会役員の生徒の一人の親族管轄らしく、もしかすると東皇寺学園の卒業生。もしくは学園都市周辺の人間が、奏と同じ看護学校に通っている可能性が高いと言う。


「……実は、ここの病院の研修を希望した学生は私だけなの」

「えっ、奏さんだけって?」

「この病院。患者だけでなく就職出来るなら、異能力者だとしても積極的に受け入れてるでしょ」

「あ…」


表沙汰には見える事は無いが、実際異能力者の受け入れを拒否している病院は、医者患者問わずとにかく多い。それ以前に異能力者と見なされた人間は、異能力者と言うだけで試験に落とされる為、国家資格を取る事すら難しいとも聞いている。異能力者嫌いの東皇寺周辺の者なら、異能力者を受け入れているこの病院での研修そのものを敬遠するのも納得が行く。


「私。ここは医療施設も研修内容自体も十二分に整ってるし、率先してこの病院を希望したわ。普通なら設備やサポートの整った研修先で、研修を希望してもおかしくないのよ」


奏の意見は理にかなっている。医療施設も実習・研修内容も十分に整っていたら、双方共に研修先として学生の受け入れを歓迎してもおかしくない。


「そうですか…。ありがとうございます」

「そうだ! 響が友達連れて来たの久しぶりだから、丁度作ってた手作りの健康ドリンクご馳走しちゃう! うん、今回は自信作だから絶対大丈夫よ! 高麗人参、黒にんにくー、赤マムシにスッポンの生き血ー…後は、蜂の幼虫に馬の心臓と蠍(サソリ)とそれからー…」


「ね、姉さん……。何、それ…」


弟も弟なら姉も姉か。聞いただけで吐き気がしそうな材料を、笑顔ですらすらと語り出す様は、すぐ隣を見ると以前食べる人を選ぶ飴を進めてきた、響ですらも固まっている。


「え、遠慮しておきます…っ」

「わ、私! そろそろお母さんの病室行かなくちゃ! 面会時間終わっちゃう」


あまりにも衝撃的過ぎるドリンクの材料を聞いて、同じく勇羅の隣で引きつっていた琳も我に返り、慌ててエレベーターの方へと早歩きで歩き出す。ここの病院に入院していた琳の家族は母親だったのか。


「篠崎君、奏さん、響先輩。またね」

「いけない。琳ちゃん、また後でね」

「あ、お、俺も今回はパスで。ま、また…今度。時間がありましたら、お願いします」


正直これは、前に和真や響が進めた珍味以上に遠慮したい。ゲテモノ材料のオンパレードでは、何の副作用が待ち構えているか分からない。小走りでエレベーターへ向かう琳を見送った後、奏は二人へ向きなおす。


「東皇寺の件はこれくらいかな」

「色々ありがとう、姉さん」

「また機会があったらアレも飲んでいって。琳ちゃんにも宜しくねー」


『健康に良い』と言うワードがあっても、呪いのアイテムの如き怪しい材料が並んでいる以上、アレは絶対飲みたくない。勇羅は苦笑いを浮かべ、同じく隣の響も似たような苦笑いを浮かべながら、神在総合病院を後にした。


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