第17話 勇羅side



「あれ。君、昨日ウチの学校の前に来てた…また会ったね」


放課後。

いつもの時間なら、速攻情報目当てで探偵部の部室に行くのだが、昨日雪彦と携帯で話したホームページの一件もあってか、今日は部室に行く気が起きなかった。偶然にも教室の前で自分を待っていた麗二を誘い、下校がてら神在駅前のショッピングモールへと寄り道しようとした矢先。昨日東皇寺学園の正門前で雪彦達と一緒に出会った男子生徒と鉢合わせた。


「あっ。こ、こんにちは」

「何だユウ、知り合いか?」


東皇寺学園の一連の出来事を知らない麗二は、勇羅と男子生徒を見ながら首を傾げる。相手は東皇寺学園の制服を着ているので訝しげに男子生徒を見ている。


「うん、昨日初めて会った」

「ふーん…。あ、ど、どうも。宝條学園一年の榊原麗二、です」

「僕は響。東皇寺学園三年の逢前響」

「さ、三年生…」


まさか泪と同じ三年生だったとは。口に出して言えないが顔立ちが童顔気味だし自分達と同じか、もしくは彼よりやや身長が高い雪彦と同じ学年位だと思っていた。最も麗二は大人びすぎていて、制服着ていなければ間違いなく大学生扱いだが。


「あ…あっ、俺も一年の篠崎勇羅です」

「ちょっとびっくりした。君の友達僕より年下だったなんて」


自分より年下と言われ麗二はみるみる渋い顔になる。初見で麗二と会って年齢聞いた相手は大半が驚くか、えっ?と言った顔になる。


「お…俺。そんなに老(ふ)けてる…?」

「毎日クラスや同級生女子の黄色い声浴びまくってて、靴箱の中に入ってる靴が見えなくなるくらいにラブレター貰いまくっては、その恋文を俺の目の前で堂々と破って捨ててる麗二が老けてる訳ない」

「……遠回しにしか告白出来ない女はパス」


普段から麗二に対して思ってる事を堂々と良い放つ。中学からの付き合いである勇羅自身が言うから、確信するが麗二はとにかくモテる。それに反して麗二は日本人離れした見た目や家柄に言い寄ってくる女子にうんざりしていたのか、中学の頃から自分や男子と一緒に居る事が多かった。


そんな麗二の待遇について『榊原の依怙贔屓反対!!』を掲げる男子軍団と、麗二君は特別だと言わんばかりに特別扱いしようとする、自称麗二親衛隊の女子集団の対立が酷かったのもしっかり覚えてる。対立のとばっちりを食らったのは、あろうことか当時麗二と一番仲が良かった勇羅なのだから。


思えばあの時。瑠奈は今でも麗二とそこそこ仲が良く、麗二にとっては彼女は数少ない女友達だが、以前は麗二と仲良くなった女子は、尽く親衛隊(笑)共の嫌がらせを受け牽制された。それなのに瑠奈はよく女子共の陰湿な嫌がらせを食らわなかったと思った。考えれば瑠奈の方も麗二の容姿や家柄に、全然関心が無かったと同時に、自分の友達に『付き合うなら年上の人が良い』と断言していた事から、幸いにも親衛隊のマークから逃れていたのか。


本人から色々と聞かされているが、麗二の家庭事情も色々複雑らしい。母親側の親戚の家で居候させてもらってるのも、家庭の事情が落ち着くまでは、実家と距離を置いた方が良いと父親と兄から言われたらしい。


二人のやり取りをのん気に見ていた響だが、何かを思い出したかの様に勇羅に話しかける。


「そういや、学園の掲示板の方は?」

「掲示板?」

「あっ…そ、それなんですけど」


学園の掲示板とは、東皇寺学園の不気味な掲示板の事だろう。

本当の事を話すとヤバそうなので、ホームページは見つかったけど入り口前で操作を誤って、ブラウザを閉じてしまったと響に話した。


「もしかして、見つけちゃったのか…」

「東皇寺学園の掲示板って何だよ? また探偵部で、何かどうしようもない事やらかしたんだな」


麗二もまた、勇羅の問題行動に対して心配している友人の一人だ。ぶっちゃけ麗二とは中学時代からの付き合いなので、勇羅の突拍子もない行動は他の探偵部メンバーよりも見抜いている。


「あははっ…」

「正直掲示板の中を見なかっただけでも正解だよ。下手したら大事になってたかもしれない…」

「全く、お前はトラブル起こすのだけは得意だよなぁ」


響の話を聞いて大方予想が付いたのか、麗二はため息を吐く。


「そうだ。もしそっちの学園の方で、東皇寺の件で何かあったら何時でも連絡して。これ僕のアドレスとお近づきにこれ。ちょっと癖はあるけど慣れれば美味しいよ」


アドレスの書かれた一枚の紙切れと一緒に、響が勇羅達に手渡した品物はと言うと…。




【 世 界 一 不 味 い 飴 】




「………なかなかユニークな先輩だな」

「こ、この飴。先輩何時も持ち歩いてんのかな……」


これは噂に聞いたことがある有名な奴だ。以前和真が里帰りのお土産に、と持って帰って来て酷い目にあった。甘いものは超が付くほど大好物な勇羅だが、さすがにこの飴だけは食べられない。あの化学物質染みた強烈な味のする食品だけは二度と食べたくない。


先輩ごめんなさい。アドレスは登録しますが、飴の方は気持ちだけ受け取っておきます。手を振りながら去って行く響を、勇羅と麗二は生暖かな笑顔で見送った。


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