第10話 勇羅side



「もしもし、雪彦先輩。あ、姉ちゃんじゃなくてごめんね」

『やっだ~勇羅ちゃん、当たり前の事聞かなくて良いよ~。ところでこんな遅くに何か用事?』


帰宅後。通ってる大学での友人の会話で、趣味の漫画か何かの話題が盛り上がったのか、上機嫌の姉・砂織との不毛な会話をしながらの夕食を終えた勇羅。自室に戻ると速攻通学鞄から携帯を取り出し、探偵部メンバーの中で、現状一番話を聞いてくれそうな雪彦に電話を掛け始めた。勿論今回の東皇寺関連の件で腑に落ちない所を話し合う為だが。


「東皇寺学園の事なんですけど。茉莉先生や泪さんは、学園はスルーして生徒個人だけに介入しろって言ったけどさぁ…」

『うん、やっぱ気になるよね。今周辺で起きてる連続殺人事件の事もあるし』


例の殺人事件は人間も異能力者も関係無く犠牲となっている。ネット上では異能力者が犯人だとの説が非常に濃厚なのだが、現状では何が目的で誰が何の為に殺人を行っているのか、動機も何もかも全貌そのものが不明なのである。


『ウチの家。大手企業とは言ってるけど、社長やってるお母様は不正とかには厳しいし、賄賂とか不祥事とかには無縁だからさ。あー言うブラックなのって実感湧かないんだよね』


基本自分の実力で勝ち上がるタイプの雪彦には、金や権力で蹴落とすと言う行為にはあまり関心が湧かないらしい。恐らく両親の影響も大きいようだ。


「和真兄ちゃん所もそうだったな。兄ちゃん自身も実力でのしあがるタイプだし」

『正に『弱肉強食』!…って奴ね。意志が弱ければ底へ叩き落とされ、這い上がろうとする強い者が上へとのし上がる。僕はそっちの方が好きだな~、どんな手段だろうが相手と正面からぶつかり合うの楽しいし』


雪彦らしい意見だった。自分好みの女子にスキンシップしようとして、茉莉を始めとした教諭達に説教されても全然懲りないだけある。説教を食らう理由の半分以上が雪彦の自業自得なのは黙っておく。


『おっと、話が逸れちゃったな。それなら一度、東皇寺学園へ直接行って見ない? いっそ自分達の目で、その東皇寺学園がどうなってるのか確めた方が色々都合良いし』


雪彦からまさかの学園殴り込み宣言。勇羅から話を持ち掛け、更に危ない橋に突っ込み掛けようとしているだけあるが故に、今回ばかりは難色示されると思っていたのに、雪彦の方から賛成するとは意外だった。


「ええっ!?」

『彩佳ちゃんの異能力関連は僕達三人じゃどうこう出来ないし、そっちは泪先輩達に任せて東皇寺や連続殺人事件の方を、僕達が直接調査した方が効率的じゃん』


「なるほど! どうせなら二手に分散して事件を解決しようって奴?」

『そう言う事。いざ危険になったらそっちの方は、跡形も残さず引き上げれば良いだけだし。勿論先生達には内緒でね』


電話越しの雪彦の声は何故か楽しそうだった、勇羅もその何かを企んでいる声を聞いてか、徐々にニヤケ顔になっている。


「先輩いい性格してる~」

『ふふふっ。こんな面白そうな事件を、易々と見逃したら色んな意味で勿体無いじゃん』

「言えてる~」


これ程までにテンションが上がっていれば、最早この二人は止められない。二人を止められるとすれば、あまりにも馬鹿をやり過ぎて、どうしようも無くなりかけたときくらいだ。それから携帯越しにて、雪彦と今後の打ち合わせを少し行った後。勇羅は何ともうきうきした表情で雪彦との通話を切った。


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