第9話 響side
―…午後三時半・郊外学園都市東皇寺学園正門前。
「響! もう帰るのか? 今日俺も部活ないから、息抜きに皆でカラオケ行こうって話し合ってたんだけど」
「ごめん。今日は家の用事あるから付き合えない」
「いや、こっちもごめん。響も最近忙しいのに声掛けてさ」
「大丈夫だよ、問題ない。皆と色々な話出来て楽しいし」
東皇寺学園の三年生・逢前響(あいぜん ひびき)は、校門前でいつもつるんでいるクラスメイトの友人二人と話をする。幼い頃に事故で両親を失った後、自分達を引き取って育ててくれた祖父が、数か月前に病で亡くなった。そして通っている看護学部の教育実習生として、今年から神在総合病院で研修生と兼任しながら、勤務する姉・奏(かなで)と二人暮らしになって数ヶ月立つ。
「また機会があったら誘ってよ。今度は差し入れに、蜂の巣入り羊羮(ようかん)持ってくる」
「いや。それ俺の口に合わなかったから遠慮しとく」
「本当に奇妙な食べもん好きだなぁ。どうせなら見た目マシな食べ物持って来てくれよ…」
珍しい物好きの祖父の影響で珍妙な食べ物を好み、それを平然と勧めようとする響に、友人達は困った引きつり笑いを浮かべる。通販で入手したバッタの空揚げを、ボリボリと食べていた所を見られた時は、大層引かれたものだった。
「そういや東皇寺周辺(ここ)も、最近は物騒になって来たよなぁ…」
「うん。この学校が都市の委員会に訴えられるのも、時間の問題だって噂」
「つか、この学校は一年坊主が生徒会やってる事自体おかしいんだよ。女子も女子であの一年のガキを『天使きゅん天使きゅん』って、キャーキャー騒いでさ」
「正直金と権力には逆らえないもんなぁ」
友人達と共に今だあくどい噂が立ち続ける、学園生徒会への愚痴を溢しまくる。東皇寺学園生徒会による腐敗は、響を初めとした一般生徒達にまで広がり初めている。
東皇寺のお偉いさん方。つまり生徒会に入っている生徒の親達が金や権力に物を言わせ、生徒や教諭達の不祥事を裏で握り潰しているのだろう。自分のこれからやる事を思えば、自分を棚に上げる事など欠片も出来ないのだが、自分達の悪行を親の権力で握り潰そうなどなんとも不愉快な話だ。
「そういや聞いてるか? 生徒会の連中が直々に、学園内で『異能力者狩り』するって話」
「あぁ知ってる。そりゃあ俺、異能力者の事は気味悪くて嫌いだけどさ…。いくら何でもあれはやり過ぎじゃないか? 異能力者に味方する一般生徒も、能力持たないもの問わず問答無用で処分するだなんて…」
「それ以前に俺、学校の中で血まみれの死体なんて見たくないよ。只でさえ血ぃ見るの苦手なのにさ…」
東皇寺生徒会がやろうとしている行為は、正に『ウチ』のやり方と同じだ。響は複雑な表情で友人達との会話を他人事の様に聞いていた。
「いけね、そろそろバス来ちまう。色々時間とらせちまったな響。また明日学校でな」
「うん。また明日」
響は校門前で友人達と別れ、何故か家とは別の方向へ歩き出す。今日姉は仕事が終わるとそのまま友人の家に泊まりらしく、明日の夕方まで家に戻らない。
『もう一つの顔』を持つ響にとって姉の不在はとにかく都合が良かった。この事だけは今を平穏に過ごしている姉にだけは絶対にばれてはいけない。ふと制服のズボンのポケットから携帯端末の着信音がなり、待ち受け画面に表示された名前を確認しすぐに端末を取る。
「もしもし、響だけど。……もう仕事の時間?」
『ああ、狩りの時間だ。南方面にBクラス異能力者を三体確認した。至急現場へ来い、さっさと潰すぞ』
「……分かってるよ、すぐに片付ける」
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