第11話 響side



―…某所・郊外裏通り。



「ぐああぁぁぁっ!」


「…化物が」

「こ、の…あ…悪、魔……っ……」



自分の身長位の長さはあるシンプルな青色の仕込み棒を、躊躇うことなく相手の異能力者を狙い、その腹部を正確に突き刺し止めを刺す響。何らかの力によって、毒物や劇物に耐性を持つ異能力者だとしても、数滴撃ち込まれれば数時間で息の根を止めることが出来る特製の毒針が仕込まれた棒。


先端に猛毒の針を仕込まれた棒を、勢いよく腹へ抉り捩じ込まれるように突き刺された異能力者は、勢いよく仰向けに倒れ、口から血の混じった泡を噴きながら何度か痙攣すると、やがて全身に毒が回ったのか、能力者はそのままピクリとも動かなくなった。


相手が動かなくなったのを再度確認し、響は大量の返り血が付着した棒を一振りして血液を取り払う。

異能力者に『人間』としての価値などない。異能力者狩り集団・ブレイカーに入った時からずっと教えられて来た。それでも『人を殺す』行為自体がやはり慣れない、狩りをする対象が異能力者とは言え、響が対峙しているのはあくまでも『人間』である。『人間』に止めを挿す度に自分の中から、少しづつ大事なものが無くなっていく感じがして怖いのだ。


ふと携帯端末の着信音がなり、響は少しため息を尽きつつも、着信画面の相手を確認したうえで通話画面表示を指でスライドする。


「もしもし。こっちは今片付けたよ」

『響。何故もっと派手に戦闘を展開しない?』

「ここの現場、時緒に任せると無抵抗の人間までやるだろう」

『異能力者に味方する奴は、例え異能力者でない人間だろうが全て始末する。それがブレイカーの掟(おきて)だ』


「……僕の任された場所、女の異能力者も居たもんね」

『なんだ、分かってるじゃないか…』

「だから余計時緒に任せたくなかったんだよ。あんたがやったモザイク処理全開のスプラッタ死体なんか、目の前で拝みたくないし」

『その女の異能力者は?』



通話相手の苛立った声がスマホ越しから伝わって聞こえてくる。相当自分の担当した現場をやりたかったのだろう。


「…言われなくても、もうとっくに始末したよ」


この愚痴は仕事が終わった後で沢山して欲しいと思い、響は疲れた声で相手が望んでいる返答を吐き出す。響と携帯から話している相手は浅枝時緒(あさえだ ときお)。響にとっては七つ上の直属の上司である。普段から不愛想であるが戦いに出ない分は普通に聞き分けの良い上司。しかし戦闘で組む際には、如何せん問題がありすぎる男だった。時緒はとにかく女性の異能力者を殺したがる。

しかも任せたら任せたで、対象は必ず原型を留めない状態で見る羽目になり、時緒が始末した能力者の死体を見たショックで、入院者まで出したとの噂も立った位だ。その為女の異能力者は極力他の者達が担当するよう、仲間内でも暗黙の了解となっている。


いや。ブレイカーの人間は元から問題の多すぎる連中が居すぎるのだが。

元も子もない。ブレイカーの構成員は皆大小関係なく、異能力者の被害を受けた者達なのだ。正直普段から平穏な学生生活を続け、数年前より裏で異能力者を狩る事をやり始めた響が異常なだけである。


「時緒の言う事は理解出来る。異能力者に味方する人間だってそれなりにいる」

『お前だって両親を異能力者に殺された筈だ』

「そうだ。僕と姉さんの両親は異能力者の力に巻き込まれて殺された」


絶対に忘れはしない。響が幼い頃に、響と奏の両親は異能力者によって殺された。

幸い周りの環境にも友人にも恵まれ、今まで不自由自体はしなかったものの、両親を殺した異能力者への恨みだけはずっと消える事はなかった。


そして両親を殺した異能力者が、のうのうと生きている事を知ったのは数年前。亡くなる前の祖父が入院していた、神在総合病院で浅枝時緒と知り合い、彼から異能力者狩りの存在を知った。そして響は時緒の反対を圧して異能力者狩りの道へと進んだ。

ブレイカーに入ったのも異能力者への恨み自体もちろんある。両親を殺した異能力者を探し仇を取りたい気持ちも強かったが、その能力者からなぜ無関係の両親を殺したのかを、能力者へ直接聞きたいのも何割か混じっているのだ。


『そっちが済んだなら早くこっちへ来い。こっちの異能力者共意外としぶといんでな』

「わかった」


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