第8話 勇羅side



「やっぱり。その状況だと、向こうは最悪の事態に巻き込まれてるわね…」


あの後。幼少の頃から能力の制御に慣れている瑠奈と琳に、念動力の知識やその能力の制御を教えてもらうなど、少しながらも自信を回復した彩佳と別れ、事の巻末を茉莉に報告するべく学園へ戻った面々だが、結果的に一連の事情を聞いた茉莉の頭を、更に項垂れされる結果になってしまった。


「先生。い…『異能力者狩り』って、何ですか?」

「私もその異能力者狩りの事は聞いた事ない。ただ、異能力者にとっては良くない事になるのは確か」


雪彦と万里がそれぞれ似たような意見を出すが、二人とも異能力者狩りが『人間』にとっても良くないと言うのは直感的に理解している様だ。


「極端な話、異能力者だけをピンポイントに狙って殺す連中よ」

「……マジですか」

「それはそいつらが、今話題の『連続殺人事件』の犯人なの?」


いきなり爆弾発言をぶちかます勇羅を見ながら、部室に居る者達は一気に戦慄する。


「……篠崎君。貴方時々物凄い事言うのね」

「ネット上ではかなり話題になってますよ」


泪の言う通り、最初の殺人事件発生から約数ヶ月で、既に数人の犠牲者が出ているのに、今だに犯人が特定出来ない事などから。インターネット上のニュースサイト等では、あれやこれやと相当盛り上がっているのだとか。


「あの殺人事件の犯人、まだ捕まってないの?」

「犯行の手口が相当に周到らしいわ。現場の証拠もほとんど残さないそうよ」

「異能力者が犯人だって説も出てるしね」

「この手の不可解な事件だったら、得体の知れない奴へ擦(なす)り付けるにはもってこいだもんね…」


もはや全員殺人事件の話で盛り上がり捲っている、下手をすれば学園やその周辺も巻き込まれかねない話題なのに。その時茉莉がぱんぱんと音を立てて手を叩き、自分に視線を注目させる。


「はい! その話題は一旦後回し。最初に言ったでしょう? 余計なトラブルに口を突っ込むなって」

「で、でも」

「でもじゃないの。もともとは東皇寺学園の生徒の子の相談に乗ってたんでしょう」


事件の話題に夢中になっていてすっかり忘れていた。東皇寺学園の彩佳に相談を持ち掛けられた直後の話をしていたのに、探偵部の面々の中ではすっかり異能力者狩りの話題になってしまったのだ。


「それで、あの彩佳って娘はどうだったの?」

「大丈夫。念動力の制御はある程度出来るようになったよ」

「そうそう。彼女、学園が『異能力者狩り』をするとも言っていた」

「学園そのものが?」


学園自体が異能力者を狩る、これはさすがに茉莉にとっても初耳だ。


「詳しくは聞いてない。何でも学園の生徒会が、異能力者を学園全体から処分するって聞いて、それで恐くなったとも言ってた」

「普通、学園の生徒会にそこまでの権限はないでしょう? ゲームの世界じゃあるまいし」


勇羅の発言に雪彦は困った顔で苦言するが、泪が言葉を続ける。


「実は簡単な問題じゃないんです。これは和真先輩から聞いたんですが、東皇寺では生徒会が学園上層部…いえ、市の委員会に多額の寄付をして、不祥事すら揉み消してると噂も流れてます」

「何なのそれ。本当に良い噂聞かないわね…」

「ていうか、生徒会とは言え一生徒がそんなゲスい事して良いの?」


「正確には生徒の親です。彼らが自分の子ども達の悪評を流さない為に、学園や委員会へ多額の寄付をしてるんです」


東皇寺の陰湿な噂を聞いて茉莉と雪彦が悪態を吐き、泪は静かにため息をつく。


「あの人…彩佳先輩、大丈夫かなぁ?」

「明日もう一度連絡してみる?」

「今は大丈夫だけど、トラブルが動く前に解決するのが一番効果がある」


彩佳の事が気になる瑠奈と琳に対して、万里も同じ気持ちだ。それでも他学園生徒である自分達が、東皇寺学園の深刻な問題に介入する訳にもいかず、茉莉は一つの方針を口に出した。


「……わかったわ。ただし、東皇寺学園の全体に関しては必要以上に介入しない。貴方達は生徒個人の方の解決に集中する事。それで良いわね?」

「はいっ」


一先ず今後の行動などを全員でどうするか話し合った後、一行は部室から解散した。


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