第6話 勇羅side
-午後三時三十分・探偵部部室。
「まったくあんた達は……。泪君が予想してた通り、学園外でも問答無用でトラブルを起こすのね」
「いやはやこれ程のトラブルなど、前部長の大暴走で慣れましたわ。まさに私達を勇者軍団と呼んで頂いてもよろしい」
「…褒めてませんよ。大体そんな不名誉な称号欲しくないでしょう」
翌日の放課後。顧問の茉莉を通じ、勇羅達が起こした一連の騒ぎが結局泪にもばれてしまい、勇羅・雪彦・万里の問題児三人はいつもの部室で、部長の泪だけでなくなし崩しに、巻き添えをくらった茉莉にもこってり絞られていた。昨日の騒動を泪達から大方聞いたのか今日は瑠奈と琳もいる。
あの後茉莉は、万里から彼女のメルアドを知った異能力者の少女・上原彩佳(かんばら さいか)より、百件近くにも及ぶ大量のメール着信が届いたらしい。
当然後ろ向き発言メールを、毎分ごとに大量に送って来る少女・彩佳を宥めるのに必死だったらしく、昨夜はロクに眠れなかったらしい。そんな茉莉の目許にはうっすらクマが出来ている。
「そりゃあ和真先輩も、よく学園外で騒ぎ起こす人でしたよ…。しかもこの手の悪知恵にはとことん頭が回るのか、校則違反スレスレでやらかしてたくらいですし」
「あらあら~。私が探偵部の顧問になったの、彼が卒業した後だったからねぇ。そこまでの騒ぎだったなら、ちょっと興味あるかも…」
「いえ、先生は運が良かったですよ」
茉莉は和真が探偵部でどのような活動をしたのか詳しくは知らない。実際に探偵部における和真の行動を知っているのは、部活立ち上げ当時から和真と活動していた泪だけだ。去年の途中で入部した雪彦と万里もあまり知らない位だから。
「真宮先生の前の顧問って誰だったんですか?」
「…この学園の理事長です」
茉莉が前探偵部顧問への疑問を口を開く前に泪が口を開いた。
「和真先輩と理事長、何かとウマが合ったようで…」
泪は苦々しい表情で顔を窓の方へやる。その表情だけで和真が探偵部立ち上げ当初から、どんな風に何をやらかしたのかが見て取れた。
「これはー…。あんまり詳しい事情、聞かない方が良さそうだよね」
「そ、そうだね…」
これ以上和真の学園外での評判に追求したら、思っているよりも遥かにとんでもないものが出て来そうだと思った勇羅と雪彦。この一件は自分達の心の中にしまっておいた方が良い。
「そうそう。話変えるけど、昨日私にメール送って来た彩佳って娘。東皇寺学園の生徒なんですって?」
「あ、はい」
東皇寺学園の良くない噂はこの場の全員がある程度耳にしている。異能力者への迫害が周囲の学園と比べ頭二つ以上も酷く、更には異能力者だけでなく一般生徒へのいじめが、学園内で堂々と日常茶飯事で行われているとの噂も立っている。異能力者に対する偏見も迫害もない、この宝條学園こそが改めて『異端』なのだ。
「あの娘。自分の異能力(ちから)の事、学園にバレてなきゃ良いんだけど…」
「メールで何をやり取りしたんですか?」
「どうも学園には自分の異能力の事、隠して過ごしてるみたい」
「やっぱり」
「幸いなのは、彼女のご両親は彼女の力の事を受け入れてくれてることね」
自分の力の事を隠して過ごす、異能力者だって決して少なくはない。しかし力が強すぎれば強すぎるほど制御も難しくなり、自分の持ってる力の存在そのものを隠しきれなくなる。
「異能力者嫌いの東皇寺の事だし、力の事がバレたら退学なんかじゃ済まされないでしょうね」
「そんな…」
「正直、東皇寺学園の事は私も詳しく知らないわよ。他の学園の騒ぎに介入出来るほど、ウチの学校は偉くないわ」
異能力に詳しいとは言え茉莉も、結局は学園の一教師に過ぎないのだ。他の学園の異能力者問題にどうこう口出し出来るほど、偉い立場ではない。
「勇羅。もう一度、その彩佳って娘(こ)と会わないの?」
「えっ」
「メルアドは姉さんが知ってるし、一度その娘と連絡取って確認してみたらどうかな?」
瑠奈と琳が、疑問に思っている事を立て続けに口にした。茉莉が彩佳のメルアドを知っているのは、万里が茉莉のアドレスを教えたからだ。
「あ、それもそうか」
「そうと決まれば彼女にメール送って見よう」
「そもそも彼女。昨夜私にメール送って来たんでしょ?」
彩佳が連絡した相手は茉莉だ、いきなり知らないアドレスからメールが着信したら当然怪しまれる。
「先生っ。さっそくその娘に連絡取って貰えませんか?」
「まったく…今回だけよ。ただしコンタクトを取るのはあくまでも生徒本人だけで、東皇寺全体には必要以上に介入しない事。それだけは約束して」
「了解っ!」
乗り気な勇羅達へ半ば呆れた顔を浮かべつつも、茉莉は東皇寺学園の女子生徒・上原彩佳宛へメールを打ちはじめた。
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