第5話 勇羅side
「ま、魔法ってー…。さっき、雪彦先輩に使ってたの…『異能力』。ですよね?」
-【異能力】。
異能力と言うものがこの世に現れたのは、いつの頃なのかは誰にも分からない。
その力は突如として世界中に発現しだした、ありとあらゆる事象を人為的に発現させ、使う事が可能になる異質かつ異端の力。
火を出したり風を起こしたり、時には記憶を読み取るなど大小ありふれた様々な力を使い、そして人智を超えた力に覚醒した人間を人々は【異能力者】と呼んだ。
「えっ? え、え、ええええええっ?! さっきの力って、魔法じゃないんですかっ!?」
「えと、その、うーん…。何て説明すればいいのかなぁ」
先程雪彦に【異能力】を使っていたのは勇羅達と同じ年齢位で、焦げ茶のセミロングが印象的な少女。どうも彼女は異能力と言うものを魔法の類いだと思っていたらしい。勇羅達も異能力者の存在を知ってはいるし、身内や友人が異能力者なので実際に力を見た事はある。
だが実際に異能力を使った事はなく、それ以前に力そのものを使えない勇羅も雪彦も、異能力の存在を上手く説明出来なかった。電波発言が際立つ故に、普段から異能力者疑惑が持たれている万里も同様だ。
「わ、私。小さい頃から、魔法を使うのが夢だったんです…。やっと、やっと魔法が使えたと思ってたのにぃ~…」
異能力と言う異質の力が魔法ではないと聞かされた少女は、更に落ち込みが激しくなる。異能力に偏見を持ってないどころか、魔法と呼んで憧れてたというあたり色々な意味で大物だ。
「困ったなぁー…」
「異能力の事なら、茉莉先生に相談するしかないんじゃない?」
「困った時のピンクで男食いな保健教諭」
「万里はちょっと黙ってろ」
既に通常運転に戻った万里を放置し、勇羅と雪彦は俯いたままの少女へ話しかける。
「ねぇ。ところで、君は学校何処」
「と……東皇寺学園です」
よく見ると少女は紺色のブレザーに、深緑色とチェック柄のプリーツスカートが印象に残る制服を着ている。宝條学園の制服は白が基調な為、学園外で行動する時何かと目立つから、そのまま制服で行動する生徒をあまり見ない。現に勇羅達は私服に着替えて行動している。
「東皇寺学園って、この街から結構離れた場所だよね」
「あそこは……そうだ。異能力者の迫害酷いって話聞いた」
何の変哲もない普通の人間が突然と特異な力を操る異質さ故に、異能力者への迫害は今も一向に耐える事がない。友人に異能力者がいる勇羅はもとい、雪彦や万里も自分達の親族が、人間異能力者関係ない実力主義の家系であり、異能力者ともよく接している。
異能力者に対して何の疑惑ももたず、普通に接している勇羅達が実際の所異端であり、異能力者がこの世界で唾棄すべき存在と言う事が、実際の所世間では当たり前なのだ。
「そ、そうですっ。力が使えるようになったのはいいんですけど…。もし学校でこの力が使えるのバレたら、いじめられると思ったし…どうすればいいのか迷ってしまって」
「うん。色々問題ある学校だって噂も聞いてる」
珍しく神妙な顔付きで少女の話を聞く雪彦。
普段から万里とネジが飛んだ漫才してるが、こう言う時は真面目だ。
「じゃあさ、ウチの学校の探偵部に相談しない?」
「え? で、でも…」
「大丈夫大丈夫! ウチの部活、ボランティア活動みたいなもんなんだよ」
「困ってる人大歓迎、老若男女問わず何時でもお待ちかね。これウチの部のメルアド」
さっきまで大人しくしていた万里が、いきなり少女に自分の手帳から破ったと思われるメモ用紙を手渡す。
「ちょ! 万里、それは僕の役目っ?!」
「茉莉先生のアドレス直接渡した。雪彦のアドレスは危険すぎる」
雪彦のアドレスを少女に渡せば、雪彦の方が余計な事をやりかねないし、別の意味でトラブルを起こしかねない。
勇羅はこの件に関しては内心万里に同意した。
「ほ、本当に良いんですか?」
「東皇寺だと異能力関係のトラブル全然話しにくいだろうし、ウチの探偵部は珍事に寛容だから問題ない」
「あっ、ありがとうございますっ!」
いつもは珍妙発言が多い万里だが、こう言った非常時に対しなかなかシビアで適格な対応をしてくれている。
「何かあったら何時でもそのアドレスに連絡して」
「わかりました! 何かあったら是非報告させて頂きます!」
少女は嬉しそうな表情で三人に礼を言うと、飛ぶような勢いで走り去って行った。
「……先生にも盛大に泥を被ってもらおう」
「……茉莉先生には事後報告って事で」
「……そうだね」
結局。別れて帰るまで、三人は茉莉のメルアドを勝手に教えた事を、どう説明するか考える羽目になってしまった。
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