立春
拝啓、猫先生
今年は明治三十年以来、百二十四年ぶりに二月二日が節分の日になりました。
おまけに、立春の日は国立天文台の観測によって規定されています。
そのため、二〇二一年の立春の瞬間は、二月三日の二十三時五十九分だそうです。あと一分遅ければ、今年の立春は二月四日になっていたのです。
私達人間たちが取り決めたことなので、猫先生たちとしては「それがどうした?」とお思いになることでしょう。
暦の上ではもう春ですが、まだまだ寒く、寒気が吹き荒れています。
暦と季節がずれるのにも理由があります。
私達人間が決めた、二十四節気が関係しています。
二十四節気とは太陰太陽暦で正しく季節を示すための指標で、太陽の動きに基づいて一年を二十四等分したものです。
「冬至、小寒、大寒、立春、雨水、啓蟄、春分、清明、穀雨、立夏、小満、芒種、夏至、小暑、大暑、立秋、処暑、白露、秋分、寒露、霜降、立冬、小雪、大雪」とそれぞれ名称が与えられています。
立春はその四番目です。
なぜ実際の季節とズレているのか。
簡単なことです。
日本で使われている二十四節気は、古代中国の黄河中流域で作られたものだからです。
黄河中流域は大陸性気候の日本より早く季節が変わります。
暦と季節にズレが生じるのは当たり前なのです。
日本気象協会は、日本版二十四節気を作ろうと決めましたが、反発の声を上げた人たちがいました。
俳句界や日本語研究者たちです。
彼女彼らは「歴史的、文化的意義を無視するな」「日本の農業とも密接に関わっているんだぞ」などなど声を上げたのです。
この星を我が物顔で席巻しながら、自分たちで決めたことを自分たちで変えるにも苦慮している、それが私達人間なのです。
猫先生たちから見れば、ひどく滑稽で哀れに見えていることでしょう。
此度の新型コロナウイルス蔓延における騒動にしても同じです。
生命以上の価値がある考えの一方、生命に勝るものはなしという考えを天秤に乗せて揉め続けているのです。
ろくでもない争いですが、だからこそ乗り越えなくてはなりません。
目的を明確に持ち、乗り越える算段をして、達成したら執着せずに離脱し、次へ移行する先生の姿を、私達人間はぜひ見習わねばならないと思います。
朝夕はまだまだ寒い日が続くと思いますが、着実に暖かい春へと近づいています。どうか、温かくしてお過ごしください。
敬具
追伸
今年の旧正月は、二月十二日です。
ちなみに旧暦とは、七世紀に中国から伝来した暦を、日本の気候風土に合わせるために幾度となく修正が重ねられて完成した「太陰太陽暦」のことで、明治五年の改暦まで使用されていました。
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