陽太と一郎

常磐ひたち

家出

第1話 家出~山奥へ~

大都会の雑踏ざっとうの中、東京にも夏がやってきた。

朝、今日も陽太は有楽町線に乗って小竹向原から池袋の学校まで行く。

満員電車は次第に速度を落として池袋駅に進入していく

陽太の学校は今日が終業式だが全く嬉しくはなかった。

学校では通信簿と大量の宿題が渡された。

「ほとんど8だな・・・はぁ」

重い荷物と心を背負って有楽町線に乗る・・・

そして家に帰り通信簿を親に見せた途端、親は大激怒

成績はそこそこだったがオール10でないと

親には認められない厳しい家庭に住む陽太は

もう家にいるのが嫌になりついに家出を計画した。

夕飯もこの日は食べなかった。

次の日の朝早く、陽太は1万円札と共に家を抜け出した。

もうすぐ5時だと言うのにもう暑かった。

いつもよりたった90分違うというのに

いつもの駅の雰囲気とはまた違った何かがあった。

1番線の始発にひとまず乗り、池袋をひとまず目指す。

ガラガラの始発電車、走行音が車内に響く・・・

「ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・」

池袋に着いた。

JRのどこまでも続く発車標を眺め、

一番遠そうな日光駅行きの特急に乗ることにした。

「北関東か・・・」

ひとまず下今市という駅まで行ってみることにし、きっぷを買った。

その後、昨日夕飯抜きのせいでお腹が空いていたので

ひとまずキヨスクでいつものおにぎりを買った。

「うめぇ、こんなの初めてだ」

いつも帰りに小腹が空いたときに買うおにぎりとはまた違った味がした。

JRのホームでの朝飯、食べている間も人々は増えていく、

右からも左からも列車が絶え間なくやってくる。

そんな毎日使っている駅の本当の姿を今日、初めて陽太は知った。

「まもなく、三番線に特急日光1号、東武日光行きがまいります。

危ないですから黄色い線までお下がり下さい。Please behaind the yellow line.」

「この列車は特急です。ご乗車には特急券が必要です~」

地下鉄でもないのに駅の案内放送が盛大に響いている。

「二号車12番A席か・・・」

席に座った瞬間、列車は動き始めた。

大都会を駆け抜け、住宅街を抜け、田園地帯を走り抜けて、

大宮を出たらもう次は栃木駅だった。

周りは観光客で賑やかだったが、陽太ただ一人寂しそうに車窓を眺めていた。

次第に山々が車窓に迫ってくる、

そしていつの間にか東京では晴れの天気だったのに雨が降ってきた

「折りたたみ傘持ってきて正解だったな」

陽太はリュックの中を見て安堵した。

そして、下今市に到着・・・

列車を降りると、雨の音だけが聞こえる。

あの大都会池袋の雑踏の音の影は一つも無い。

ただ、雨の音と改札の誘導音が響いていた。

そして、隣のホームの普通列車でどこかを目指す。

きっぷは降りる駅で乗り越し精算しようと考えていた。

田舎臭漂うローカル線で山奥を目指す。

「うわぁ、これが鬼怒川かぁ」

鬼怒川が眼下に迫る。

列車はうねるような急カーブを突き進み数々のトンネルに入っていく。

"そろそろ降りようかな"そう思った。

「まもなく~龍王峡~龍王峡です。お出口は右側です」

"よさそうな駅だ、ここで降りよう"

そう陽太は決心した。

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