第4話 最初の覚醒


 報告会を済ませた翌日・・・。早速、私は任務についていた。「今日の任務は覚えてる?」ミアさんがそう聞いてきた。「えーっと・・・。確か、ナノマシン製造施設とその周辺の占拠だったわね。」私は、思い出して言った。


 「僕が正面入口で暴れるんでしたね。」ダンは、そう言った。・・・この紳士的な人が私と同じ年とはねえ?「そう、私はその援護。」ミアさんは、スナイパーライフルを持って言った。「で、僕がカヨさんと裏口から侵入っス。」鬼嶋くんは、そう言った。


 「そう言えば・・・。」ミアさんは、ダンをまじまじと見つめた。「・・・イメチェンしたのね?」そう言われて見ると、確かに白かった塗装が黒くなっている。「はい。僕も強化されました。」ダンが一瞬、光ったように見えた。こうして、私たちは任務を開始した。


 「ん?お前!何者だ!?」不審に思った下級兵がダンに銃口を向けた。「ただの通りすがりですよ。」ダンは、手を挙げた。「お前、怪しいな。身分を証明しろ。」「えー・・・。」「さっさと、見せろ!」言われるがまま、ダンは電子証明書を見せた。


 「リベルタ軍・・・!?お、お前・・・。」次の瞬間、ダンが振り払ったハンマーでその兵士は吹っ飛んだ。「お、おい!貴様良くも・・・!」ともう一人の兵士は、機関銃をダンに向けた。「グオ・・・!」ミアさんの銃弾が飛んできた。「お、おのれ・・・!」兵士は、気を失った。そして、ダンが正面から突入した。





 「よし、行くっスよ。」それを確認し、私と鬼嶋くんは裏口へ移動した。裏口と言ってもただの通気口だが・・・。通気口を抜けて、ナノマシンの製造されているであろう広い部屋に着いた。そこには誰もいなかった。ドアを開けるとそこには、大きな渡り廊下が広がっていた。「二手に分かれるっスか?」私は、部屋から見て左手に向かうことにした。


 とある部屋に入るとそこには、何故かとても広く、真ん中に机と椅子があった。机の上には、パソコンがあり電源が入ったままだった。何か違和感を感じたが、私はとりあえずパソコンを調べることにした。パソコンを調べていると、後ろに殺気を感じた。


 椅子は、派手な音を立てて壊れた。そこには、2メートル以上はあるであろう黒人の大男がいた。「さすがは、カヨ・グレイスと言ったところか・・・。」大男は、振り下ろした棍棒こんぼうを肩に乗せた。「我が名は、クロウ・ウェイバー!エスペランザ軍中尉である!」私は、その名を聞いて衝撃を受けた。ウェイバーとは、私が助けたカレンと同じ苗字だからだ。


 「・・・少し質問をしていい?」私は、冷静にそう言った。「・・・死ぬ前に聞いてやろう。」クロウは、腕を組んで言った。「あんた、エスペランザのやり方どう思う?」「・・・何故そんな質問をするのだ?」クロウは、鋭い眼光をこちらに向けた。「気になっただけよ。」私は、すました表情で言った。


 「・・・それは、国自体の話か?政策の話か?」「どっちもよ。」「素晴らしいと思うが?」(・・・やっぱりね。)私は、この時ロイの言っていたことを思い出した。ロイによると、ナノマシンを入れられた人間はエスペランザの政策を素晴らしいと、不満が全くないように言うらしい。





 「そんなことより、さっさと戦いを始めようぞ。」私は、冷め切った目で見つめた。「なんだ、その嫌そうな目は!」クロウは、大きなリアクションを取った。「あんた、いいリアクションするわね。」私は、笑いながら言った。「ま、まあよい。こちらから行くぞ!」クロウは、殴りかかってきた。


 棍棒を、布を巻きつけた右腕で受け止めた。「貴様、随分と余裕ではないか。」クロウも少し笑った。「あんたも・・・ね!」私は、クロウの右横腹を蹴りすぐさま後ろに下がった。「うっ・・・!」クロウは、一瞬よろめき顔が引きつったがすぐにニヤけた。


 「全然、効いてないわね。全力だったのに・・・。」私は、ため息をついた。「いやいや、とても効いたよ。」クロウは、余裕のある表情で言った。「嘘ばっかり!」今度は、私がクロウに殴りかかった。クロウは、それを見て棍棒を振り下ろした。


 それを私は、しゃがみながら横に避けた。クロウは、横に振り払った。それを私はしゃがみ込んで避けた。私はクロウにアッパーを入れた。それをクロウは、後ろにのけぞり避けた。(今だ!)私は、みぞおちに正拳突きを入れた。「うおお・・・!」クロウは、腹を押さえてうずくまった。。


 倒したと思っていると・・・。「はっはっはっ!」クロウは、腹を抱えて笑い出した。「なっ・・・!?」私は、冷や汗をかいた。「いやー!今のは、効いたぞ!」クロウは、何事もなかったかのように立ち上がった。「リン殿に気を付けろと言われたがこれではな・・・。」クロウは、ため息交じりに言った。「くっ・・・!」私は、改めて構えをとった。クロウは、再び殴りかかってきた。





 一方その頃、ダンたちは・・・。「チ・・・ク・・・ショ・・・!」一人の一般兵が気を失った。「これで、最後でしょうか?」ダンは、ハンマーを背中に引っ掛けた。「建物の中に二人いるわね。二人共大丈夫かしら・・・?」ミアは、心配そうに言った。


 鬼嶋は・・・。「はあ・・・はあ・・・。」何とか敵の中尉を倒していた。「な、何とか・・・倒せたっス・・・。」その瞳は、赤かった。「カヨさんを探さないとっスね・・・。」鬼嶋は、ふらついた状態で中尉を引きずり、部屋を出た。


 「鬼嶋君!?大丈夫!?」ミアが鬼嶋に駆け寄った。「ああ・・・、ミアさん・・・。何とか・・・大丈夫っス・・・。」鬼嶋は、疲れ切った声でそう言った。「ボロボロじゃないですか・・・。」ダンは、鬼嶋を支えながらそう言った。「とりあえず、外に出ようかしらね。」中尉の男を拘束し、3人は外へ向かった。





 「惜しかったなあ・・・。カヨ・・・。」クロウは、倒れている私に何処どこか寂しそうに言った。「・・・でも、これで大手柄だな。」・・・また、ニヤついてる気がする。私は見事に敗北し、今まさにとどめを刺されるところである。


 (最悪ね・・・。)現実世界に来て早々、このざまである。ロイの言葉を思い出した。『CAACは、体に負担がかかるほど効力を発揮するんだよ。つまり、戦えば戦うほど強くなる。』・・・絶対に嘘ね。そんな、都合のいいものある訳がない。あったら、こんなに苦戦してないもの。


 クロウ強すぎでしょ・・・。こんな強敵に鉢合わせるとは、私はついてないわね・・・。これで、中尉って考えると・・・、先が思いやられるわね。それに、機械兵器も後に控えてるから、頭が痛くなりそう・・・。殴られたから、実際に痛いのだが。


 ああ・・・、私このまま死ぬのね・・・。これは、走馬灯なのだろうか?過去に経験したこと、記憶していることがまるで、映像のように目の前に写っている。・・・本格的にヤバくなってきたわね。まさか、こんなところで死ぬとは・・・。


 「頑張ったではないか・・・。」クロウは、棍棒を振り下ろした。死ぬ?私が?私は、スラム街にいた頃のように、人々が苦しまない世界を望んだはずだ。ナノマシンによる偽物ではなく、本当の・・・。それに、私が死んだら残された人々は、みんなはどうなる?立て・・・、立て・・・!!!


 私は、全身の細胞に電流が流れるような感覚がした―――。


 「な・・・!?」クロウは、地面を叩きつけていた。「こっちよ・・・。」私は、クロウを跳び箱のように飛び越えて後ろに回っていた。「ほう?そんなことができたのか、最初からそうすればいいものを・・・。」クロウは、鼻で笑って言った。「今できるようになったのよ。」私は、準備運動をした。


 「・・・確かに、さっきとはまるで別人だ。余裕がある。」私は、準備運動を終えた。「前置きはそこまでにして、さっさと勝負を始めましょうか・・・。第二ラウンドを・・・。」私は、構えずに戦いを始めた。「構えないとは・・・な!」クロウは、私に殴り掛かった。


 クロウは、真っ直ぐに突っ込んできた。それを、横に避けて横腹を殴った。それを、クロウは棍棒を握っていない方で掴んで防いだ。棍棒で振り払おうとしたが、私は棍棒を握っている手を掴んで防いだ。そして、私はクロウの腹に膝蹴りを入れた。


 「グホァ・・・!ぬうん・・・!!」血反吐を吐いたが、すぐさま私に殴り掛かった。それを、バク宙を数回して避けた。「惜しかったですねえ・・・?クロウ中尉・・・。」形勢が逆転した。「はあ・・・!はあ・・・!おのれ!」クロウは、私を睨みながら腹を押さえていた。




 「おのれーーーー!!!」クロウは、雄たけびを上げながら殴り掛かってきた。・・・ナノマシンは、この忠誠心まで操作するのね。私は、怒りと悲しみが湧いた。(クロウ・・・。今すぐ、解放してあげる・・・。)私は、拳を強く握りしめた。


 私は、避けずに棍棒を受け止めた。「なっ・・・!」すぐさま、クロウの手首を掴み背負い投げをした。「がっ・・・!」床にひびが入った。そして、クロウの腕を折った。「うああーーー!!」クロウは、余りの痛みに肩を押さえて悶絶した。私は、寝そべっているクロウに殴り掛かった。それをクロウは転がって避けた。


 「はあ・・・!はあ・・・!うっ・・・!」クロウは、頭を押さえて何とか立ち上がったが、片腕はぶら下がり、クロウ自身もふらついていた。私は、間髪入れずに飛びかかった。クロウの肩に乗りかかりそのまま、首を締めあげた。「ぐあ・・・!」クロウは、暴れたが気を失った。





 しばらくして・・・。「ああ、来た来た。」ミアさんは、そう言った。私は、クロウを引きずって出てきた。「ただいま・・・。鬼嶋君、ミアさん・・・。」私は、疲れてひきつった笑顔でそう言った。「今気づいたのだけど、あなた達の瞳ってそんなに赤かった?」私と鬼嶋くんは、見つめ合った。


 「あ!?」私たちは、指をさした。「ホントっスね・・・。」鬼嶋くんは、首をかしげながら言った。「・・・CAACの影響ですかね?」ダンは、もう一人の中尉を背負って帰ってきていた。「これは、ロイさんに聞いた方がいいっスね。」鬼嶋君は、そう言った。


 「まあいっか。それよりも・・・。」私は、持っていたロープを取り出し、気絶した研究員、兵士を縛り上げた。「よしと・・・。」これにて、ミッションは完遂した。「ええ・・・。任務は、無事に完遂したわ。うん、よろしくね・・・。」ミアさんは、ヘリを手配した。こうして、私たちは任務から無事帰還した。





 一週間後・・・。「はっ!」クロウさんは、目を覚ました。「おはよう、クロウさん。」私は、笑顔でそう言った。「き、貴様は!?」クロウさんは、起き上がろうとした。「うっ!」骨折した腕を押さえた。「まだ、繋がってないから止めた方がいいわよ。」私は、素っ気なく言った。


 「・・・ここは何処だ?」クロウさんは、壁に寄り掛かって腕を組んでいる私を睨んで言った。「・・・リベルタよ。」私は、クロウさんを見つめてそう言った。「な、何いい!?」クロウさんは、相変わらずのテンションだった。「相変わらずいいリアクションね。」私は、クスクス笑った。


 「何いい・・・?」クロウさんは、拍子抜けしたように言った。「・・・では、我は何故ここにいるのだ?」クロウさんは、ため息交じりに言った。「話せば長いわよ?」私は、そう言った。「その為に見舞いに来たのだろう?」・・・話が早くて助かるわね。





 「なるほど・・・。我は、ナノマシンに・・・。」長い説明を終えた。クロウさんは、やはりショックを受けていた。・・・無理もない。信じていた国が、自分の意思や記憶を操作していたのだから。「・・・色々、思い出したんじゃない?」私は、そう聞いた。「・・・うむ。色々とな・・・。」クロウさんは、罪悪感と悔しさが湧いている様子だった。


 「気分転換に外、見に行かない?」私は、話題を変えた。「・・・そうだな。」クロウさんは、少し疲れた様子で言った。「おお・・・。」私とクロウさんは、屋上に上がった。「絶景ではないか!」クロウさんは、出会ったばかりの楽しそうな笑顔になった。


 「やっぱり、エスペランザよりは綺麗?」私は、少しホッとした。「うむ。天と地ほどの差があるな。」・・・そんなに酷い環境なのね。私は、クロウさんから目を離し、リベルタの街並みを見下ろした。「・・・そう言ってもらえると嬉しいわね。」私は、また笑顔でそう言った。





 「そう言えば・・・。あんた、中尉だけど・・・。」私は、クロウさんの方を向いた。「エスペランザの階級ってどのくらいあるの?」私は、それが気になっていた。「・・・元帥と司令官を入れれば11種だな。」クロウさんは、説明を始めた。


 エスペランザ軍の階級は、3等兵、2等兵、1等兵の下級兵。少尉、中尉、大尉の中級兵。少佐、中佐、大佐の上級兵。そして、司令官、元帥の最上級兵に分かれている。ちなみに、司令官とはガイたちのことだ。


 「大尉ってどのくらい強いの?」私は、そう質問した。「我など相手にならん。」・・・聞くんじゃなかった。「・・・そう。」私は、ため息をこぼした。「恐ろしいだろ?ナノマシンの力は・・・。」クロウさんは、皮肉たっぷりに言った。「そうね・・・。」私は、この先が不安になった。





 「・・・これからどうするの?」私は、再び質問した。「もちろん、こちら側につくとも!」クロウさんは、また笑顔でそう言った。「心強いわね・・・。」私も笑顔で返した。「・・・せがれたちの面倒も見なければならんしな。」クロウさんは、ため息をついた。「兵士たちも鍛えてもらわないとね。」クロウさんは、困ったように頭をかいた。


 「・・・カレンたちは、いい子よね。」私は、そう言った。「自慢の子たちであろう?」クロウさんは、自慢げに言った。「あの子たち、あなたの着替えとか持って来てたそうよ。」私は、ニヤついて言った。「そ、そうだったのか・・・。」クロウさんは、照れくさそうに言った。


 「じゃあ、これからよろしく。」私は、クロウさんに手を伸ばした。「うむ。よろしく頼む。」私とクロウさんは、硬い握手をした。こうして、私は新たな心強い仲間であるクロウさんと和解した。・・・この先のことを考えるとかなり不安だが、まあ覚醒もあるから問題ない。・・・と思っていたい。

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世界は廻る、傷が再生するように 男二九 利九男 @onikurikuo

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