第3話 新たな始まり

 数日後・・・。「うーん・・・。」カヨたちに仮想世界で保護された、独裁国家エスペランザ下級兵の1人が目を覚ました。「ここは・・・?」寝ぼけまなこで俺は、ベッドの周りを見渡した。(ここは・・・病室か?確か俺は、青髪のチビに・・・。ダメだ、思い出せない。)俺は、頭を押さえた。


 「おや?目を覚ましたか。体調はどうだい?」病室にいた40代くらいの男性医が笑顔で話しかけてきた。「え?あ、ああ、はい。大丈夫です・・・。」俺は、訳も分からず取りあえず返事をした。「あの先生、ここは何処ですか?俺は、どうしてここに居るんですか?」俺は、質問をした。


 「それは、彼女に聞いてくれ。入ってきなさい。」その声とともに、病室の自動ドアが開いた。「カレン?」カレンだった。彼女とは、黒人のトムと、カヨ・グレイスの仲間を抹殺せよという任務についていたはずだ。「おはよう、ジョージ。」ジョージとは、俺の名だ。


 「カレン。ここは・・・?」一番気になっていることを質問をした。「そう来るよね・・・。どう説明したらいいんだろう・・・。」カレンは、腕を組み考え込んだ。「・・・落ち着いて聞いてよ?」カレンは、真剣な表情で言った。「あ、ああ、分かった。」あまりの気迫に俺は、冷や汗をかいた。





 カレンによると、俺たちはエスペランザに見捨てられたそうだ。そして今、敵国だったリベルタにいるようだ。・・・聞いたときは、かなり動揺した。実際にガイさんは、俺たちを殺そうとしたらしい。・・・ガイさんいわく、用済みらしい。


 俺たち下級兵を含む幹部以下の人々には、ナノマシン、細胞よりも小さいロボットを幼い頃から体に入れられているらしい。それによって、記憶の改竄かいざん、再生能力の向上、思考・感情のコントロールをし、どんな命令にも従う人間を作り出していたらしい。


 人によっては、ナノマシンに耐性がある者もいるらしい。それが俺たち、3人らしい。ショックだが、それならば納得ができる。何故なら、俺が上司にエスペランザのやり方に疑問を述べた時、殺されかけた事があった。そのエスペランザに対する異常な執着も理解できる。


 リベルタはこうした人々のナノマシンを取り除き救出しているらしい。リベルタが誘拐のようにしている理由は、ナノマシンによって救助した人々が暴れて救出どころではないからだ。この活動のおかげで、数多くの人々が救われリベルタの戦力は、徐々に揃そろいつつあるらしい。





 「・・・これからどうする?」俺は、真剣な表情で見つめた。「取りあえず、この国のリーダーが挨拶に来てほしいって。」カレンは、そう言った。「そうか。」俺は、トイレに行き長い髪を束ねた。「よう、お前ら。」総督室の前で待っていたトムが陽気に挨拶をした。


 「失礼します。」それに続くように、トムとカレンは失礼しますと言って中に入った。「あなたがルイ・グレイスさんですか?」俺は、椅子に腰かけている老人にそう聞いた。「うむ、そうだ。」老人と呼ぶには、ふさわしくない程その人は筋肉質だった。・・・助けてくれた恩人とは言え、俺たちは元は敵国の人間だ。何と言えばいいのか分からない。


 「え?」すると、ルイさんが頭を下げた。「すまなかった・・・!」「いやいやいや!」俺は、ルイさんに駆け寄った。ルイさんは、俺たちに乱暴なやり方をとってしまって申し訳ないと思っていたそうだ。この状況に俺は、少しパニックになった。それをトムとカレンはただ眺めることしかできない様子だった。


 「・・・見苦しいところを見せたな。」ルイさんは、コホンと咳払いをした。「いえいえ・・・。」俺は、苦笑いするしかなかった。「助けてくれてありがとうございました。」今度は、俺が頭を下げた。「これで仲直りだな。」ルイさんは、満面の笑みを浮かべていた。俺は、満面の笑みでルイさんと握手をした。俺は、こうして敵国リベルタと和解した。





 「帰ってきたわね・・・。」久し振りに見た私の弟、ロイ・グレイスのラボを見渡した。「・・・相変わらず、散らかってるわね。」恐らく、ここは研究室なのだろう。整理されておらず、薬品の匂いがした。すると、入口の自動ドアが開いた。


 「やあ、みんなお帰り。」ボサボサ髪の、やせ細ったロイが現れた。「ただいま。・・・ていうか、あんた痩せすぎじゃない?」「そうかな?」と言ってコーヒーを飲んでいる彼の手は、振るえていた。「・・・大丈夫なの?」私は、ため息をついた。


 「そう言えば、どうやってその3人は仮想世界に?」ロイは、私に質問してきた。「・・・ジョン・クリードは、あの世界のこと知ってたみたいよ?」私は、そう言った。「情報が漏れてたってことかい!?」ロイは、驚いたように言った。「・・・こうなることを予想してたみたいよ。」私は、ため息交じりに言った。


 「・・・こんなことしてていいのか?」ジンは、そう言った。「そうね。久々の外を見に行こうかしらね。」私は、入口へ向かって歩き出した。「ルイさんに挨拶もしないとね。」レイは、そう言った。「ロイ君との話はもういいのか?久々の家族だろ?」ケイは、そう言った。「いいよ、ケイさん。親父も心配してたし。」ロイは、そう言った。


 「盛り上がってるところ悪いんだけど・・・。」ジンに担がれている、女はそう言った。「・・・早く解放してくれない?」女は、ため息交じりに言った。そして、女と男2人を床におろして拘束を解いた。「ところで、君の名前は?」ロイが女に質問した。「カレンよ。カレン・ウェイバー。」女はそう言った。3人は、ナノマシンを除去するために研究室においた。





 「・・・眺めがいいわね。」私は、久々の夕陽に目が眩くらんで手をかざした。眼下には、集合住居が建ち並んでいた。以前のアメリカらしい摩天楼は見当たらなかった。「・・・寂しい光景ね。」私がそう言った。「・・・そうだな。」ケイは、そう言った。しばらく景色を眺めたあと、親父のいるリベルタ軍本部へ向かった。


 「あら、カヨさんですか?少々お待ちください。」私は、受付嬢に許可を貰って親父の部屋へ向かった。「親父、ただいま。」私は、笑顔でそう言った。「・・・お帰り。」親父も笑顔でそう言った。「ケイ君、レイとジンもご苦労だったね。」親父は、そう言った。


 「親父、その手・・・。」私は、手袋を付けている右手を指差した。「あ、ああ。エスペランザの幹部と戦った時にな・・・。」親父は、右手を隠した。・・・私は、少し悲しくなった。「そう言えば、兄貴は?」親父は、しばらく無言になった。「・・・死んでしまった。」親父は、苦しまぎれに言った。「そっか・・・。」私は、沈黙するしかなかった。


 「そ、そう言えば、レイ。」親父は、レイの方を向いて話しを変えるように言った。「仮想世界から連れて来た子に薬使ったか?」親父は、そう言った。「は、はい。」レイは、何か察したようだ。「いつもより多めにか?」親父は、更に深く聞いた。「そ、即効性の高いものを・・・。」レイは、声が徐々に小さくなった。


 「いて!」レイは親父の拳骨をくらった。「馬鹿者!そのせいで治療が長引いているんだぞ!」親父は、顔を真っ赤にしていった。「す、すみません・・・。でも、義手の方で殴ることないじゃないですか・・・。」レイは、頭を押さえて涙目で言った。(この光景も久々だなあ・・・。)レイ以外は、恐らくそう思いながら温かく見ていた。


 長い説教を経て・・・。「見苦しいところを見せたな。」コホンと咳払いをした。「イテテ・・・。」レイは、頭を押さえて小声でそう言った。「いやいや・・・。」レイ以外は、そう言った。「今日は、疲れただろ?部屋は用意してある、積もる話もあるがそこでゆっくり休みなさい。」親父は、そう言った。「はい。」私たち4人は、そう言って総督室をあとにした。





 私は受付嬢からもらったスーツとフードを持ち軍本部の寮へ向かった。時刻を見ると、19時を回っていた。「ここね・・・。」私は少し寮の外観を眺めて寮へ入り、自分の部屋へ向かった。「ふうー・・・。疲れ?」部屋に入ると目の前には、先ほど会ったカレンがいた。


 「まさか、相部屋があんたとはね。」私は、そう言った。「私もビックリだよ。でも、カヨさんで良かった。」カレンは、にこやかに言った。「カヨでいいわよ。」私も笑顔でそう言った。「でも、一応助けてくれた恩人だし・・・。」私とカレンは、見つめ会って少し笑った。


 「そう言えば、カレンはもう大丈夫なの?」私は、そう聞いた。「うん。私、ナノマシンの影響ほとんど受けてなかったみたい。」なので、除去が早くすんだようだ。「あの2人は?」他の2人は、ナノマシンの影響を強く受けているのであと3日はかかるそうだ。


 「あの2人の名前は?」私は、そう言った。「銀髪の方がジョージ、黒人の方がトムだよ。」カレンは、そう言った。「あの2人とはどうゆう関係?」私は、また質問した。「兄弟だよ。」カレンは、そう答えた。「あまり似てないわね。」私は、そう言った。「母がイギリス系の人で、父がアフリカ系だからだと思う。目の色だけは、同じだけど。」カレンは、自分の青い目を指差して言った。


 「あの3人とカヨの関係は?」今度は、カレンが質問してきた。「私たちは、元々スラム街出身なのよ。」私は、そう答えた。「でね、小さい頃から一緒で、ある時親父が・・・。」と私たちは、消灯時間まで話をし、明日に備えて早めに眠った。





 ジョージが目覚めた2日後の朝・・・。「エスペランザのよりウメエ!」トムが食堂の朝食に感動していた。私たち7人は、すっかり仲良くなっていた。「大袈裟だよ、トム。」ケイは、そう言った。「生きてて良かった・・・。」トムは、目に涙を浮かべて言った。今日は、どうやら任務報告会があるようだ。


 食事を終えた1時間後・・・。「それでは、時間になりましたので任務報告会を始めたいと思います。」早速、リベルタ軍全員が集まる任務報告会が始まった。「現在、人類の総人口は2億となっております。その原因は・・・。」任務報告会の内容はこうだ。


 現在の人口になった原因は、第4次世界大戦時のエスペランザ軍が生み出した、巨大機械兵器によるものである。第3次世界大戦終了時の世界の総人口は40億であった。第4次世界大戦は北アメリカに存在したバイソン型の巨大機械兵器、マラクスを倒したことにより終了した。これにより、北アメリカの奪還に成功した。


 この時は、衛星兵器に次ぐ破壊兵器とされた兵器、超電磁砲“レールガン”を使用しマラクスの破壊に成功した。これは、まだ試作段階であったうえに資源不足と予算不足で1回しか発動できなかった。その発動によってレールガンは、故障し資源と予算を確保できず、修理も同じものを生産することもできない状況である。





 現在、世界には8体の巨大機械兵器が存在する。ユーラシア大陸に、旧ロシア領を住処とするオオカミ型、マルコシアス。旧中国領のトカゲ型、バジリスク。地中海を住処とするシカ型、フルフールの3体が存在する。アフリカ大陸には、サソリ型、オリオンの1体が存在する。南アメリカ大陸には、ワシ型ニスロク。ちなみに、ニスロクは世界中を飛び回る。


 海洋にも存在している。大西洋に存在するウミヘビ型、レヴィアタン。ちなみに、レヴィアタンは世界中の海洋を泳ぎ回っている。インド洋に存在するイカ型、クラーケン。太平洋に存在するクジラ型、ドルドンの3体である。ちなみに、海洋の彼らによってイギリス、日本、オーストラリア、アイスランドを含む全ての島、島国は沈められた。


 彼らには、共通点が5つある。1つ目は、全長が600メートルであること、2つ目は人間、特にエスペランザ軍元帥、ジョン・クリードを憎んでいること、3つ目は体内の中心部のコアを破壊しない限り再生し続けること、4つ目は核兵器以外では傷つかないほど、非常に硬い外殻を持っていること、5つ目は必要なエネルギーを睡眠によって得ることである。


 機械兵器は、大きさによって強さや知能レベルが変わる。性能の低い順から、全長2メートルの小型、全長7メートルの中型、全長20メートルの大型、巨大型の4種類が存在する。巨大型以外は、再生能力が存在せず、言語を話すこともできない。巨大型が機能を停止すると同じ種類が機能を停止させる。なお、大型のみ巨大型の命令に従う。





 エスペランザ軍は、この機械技術を応用し幹部たちに機械兵器化手術を施している。要は、改造人間となったのである。この手術により、身体能力、再生能力、耐久力などの全ての戦闘能力が格段に向上している。これは、エスペランザ軍の幹部、ゼル・クラークを解剖した時に判明した。


 このゼルとの戦闘により、私の親父、リベルタ軍総督ルイ・グレイスは右手を失い、肝臓に損傷を受けて人工臓器となっている。レイとジン、私の兄、グレイス家長男ユウ・グレイスは致命傷を受け死去した。その時、北アメリカ大陸の1部を奪還し、約1000人の人々を救うことができた。





 我々の目的は、こうした機械兵器を討伐することである。そのためには、エスペランザの人々を救いつつ戦力を整え幹部たちを倒さなくてはならない。そうして、最終的に彼らが持っているであろう機械兵器の情報を得る、というのが今後の大きな任務であり課題である。


 「今の戦力ではこの任務達成は不可能でしょう。そこで、皆様にはとある薬品を投与して頂きたいと思っております。」そこにいた者たちはざわついた。「その名も、戦闘能力活性薬、CAACカークです。」司会者は、青い薬液が入った注射器を全員に見せた。「これを投与することによって徐々にではありますが、身体能力や反射神経といった能力を格段に向上させることができます。」全員が静まり返った。


 「最後にもう1つ報告があります。この度、エスペランザとの戦闘に備えて精鋭部隊を4チーム編成することにしました。」第一部隊にはケイ・ロイド、第2部隊にはレイ・チェンチー、第3部隊には私、第4部隊にはジン・クレイトンが入ることになった。報告会が終了し精鋭部隊の者以外は会議室をあとにした。


 私に3人の人物が近づいてきた。「カヨさん、初めまして僕はダン・ガーレンと言います。」頭部が機械となっている、礼儀正しい男がそう話しかけてきた。「俺、鬼嶋隼人きしま はやとっス!よろしくお願いしますっス。」18歳くらいの男の子は、元気に言った。「日本人なのね。」私は驚いて言った。「私は、ミア・フュラーっていうの。よろしくね。」30代くらいのスレンダーな女は、そう言った。「よろしく。」私はそう言った。しばらく、チームメイトと話をして会議室をあとにした。





 「では、これより会議を始める。」エスペランザ元帥、ジョン・クリードは、手を組みそう言った。リベルタの任務報告会と同日にエスペランザの幹部4人は会議をしていた。「まずは、先日のカヨ・グレイス討伐任務についてだが、ガイ・チャコブスキー・・・。」俺は、困ったように頭をかいた。「失敗したようだな。」クリードは、鋭く静かにガイをにらんだ。


 「何だと!?」NO.2フェリド・ドレイクは、顔を真っ赤にして立ち上がった。「この幹部が1人、倒されているというのに貴様は・・・!」そして、図太く大きな声で怒鳴り散らした。NO.4リン・クレアフォードは、白けた目でそれを見ていた。「・・・戦闘データは、得たんだよ。」俺は、カヨの戦闘データの入った記録器を見せた。「また、貴様はそうやって言い訳を・・・!」ドレイクの説教は続く。


 「・・・ドレイク、話をそらすな。」クリードは、ドレイクをまた静かに睨んだ。「しかし、元帥殿!」クリードは、無言で睨んだ。ドレイクは、悔しそうに席に着いた。「・・・カヨ・グレイスが倒されていないという不安要素はあるが、データはこちらにある。故に今回は罷免ひめんとする。」クリードは、そう言った。





 「さて、続いてこれからどうするかだが、こちらを見てもらおう。」クリードの背後のモニターに何やら映った。よく見ると、俺たちの制服と同じ配色のアンドロイドが映っていた。「これは・・・?」普段から、資料を確認しているリンも知らないようだった。


 「これは、カヨ・グレイスと我々4人の戦闘データを元に機械技術を用いて作り出した人型機械兵器、ヒューマノイドだ。」俺たちは、困惑した。「何故、今更こんなものを?」俺は、そう言った。「また、あの反乱がおきるのでは?」リンは、不安そうに言った。きっと、第4次世界大戦のことを言っているのだろう。


 「・・・そこは、ナノマシンが入っているから問題ないのだそうだ。」ドレイクは、そう言った。ドレイクは、NO2かつ副元帥なのでそういった情報が入ってくる。「その通りだ。それに脳は、コンピューターで制御できるようにしてある。安全性に問題はない。」クリードは、相変わらず冷静に言った。


 「・・・今更だけど、何でそこまで機械兵器にこだわるんだ?」俺は、疑問に思い質問した。「私も気になっていたのですが?」リンは、興味深そうに言った。「・・・ある一族の話を知っているか?」クリードは、重い雰囲気を出しながら言って続けた。





 一通り、説明を聞いた頃・・・。「そ、その話が本当ならば世界は大変なことになりますぞ。」ドレイクは、冷や汗をかいて言った。「・・・俺が言うのは変だが、何故そんな話を俺たちにしたんだ?」俺は、また質問をした。「・・・お前たちを信じているからだ。」その口調は、信じているというにはあまりにも重いものだった。


 「我が一族は、この罪を償わなくてはならない・・・!」その声には、強い覚悟と責任感を感じた。「・・・だが、これは一人で達成することはできないだろう。」クリードは、悔しそうに振り下ろした拳を強く握りしめた。「だからこそ、ここまでついて来てくれたお前たちにこの話をしたのだ。」俺たちは、しばらく沈黙した。


 「・・・そこで我々は半年後、敵国リベルタに宣戦布告する。」クリードは、またいつものように静かにそう言った。「これは、恐らく人類最後の戦争となるだろう。」クリードは、俺たちを見回した。俺は、この時激しい戦闘を覚悟した。


 「今更、逃げれないしな。」俺は、椅子に背もたれた。「元帥に何処までついていきますよ。」リンは、微笑んで言った。「お任せください、元帥殿。」ドレイクは、そう言った。半年かけて、俺たちに強化手術を施すらしい。ヒューマノイドも11体量産し精鋭部隊を編成するそうだ。こうして、会議は終了した―――。

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