第2話 気に食わない来客

 数日後・・・。「佳代ってあんなに強かったんだな。」「え?何のこと?」私は、聞いてなかったかのように言った。「それに・・・。」私の筋肉質な腕を見ながら、慶君は言った。「何よ?」私は、腕を組んでそう言った。


 「・・・何だったかな?」慶君は誤魔化すように言った。「イテッ!?」突然、慶君が首を抑えた。「どうしたの?」私は、心配しているように言った。「何か痛みが・・・。」慶君はよろめき、気を失った。「慶君!?」私は、慶君に駆け寄った。


 「・・・もう来たの?」私は、閑静な住宅街を見渡した。「意外と速いのね?」辺りはシーンと静まり返った。「・・・そろそろ出てきたら?」私は、溜息ためいきをついて言った。その時、私は臨戦態勢に入った。





 「へえー。そんなに記憶を取り戻したんだ?」黒い服にフードを被ったが、現れた。「おかげさまでね。・・・レイ・チェンチー。」私は、皮肉めいて言った。「じゃあよ。俺達と遊ぼうぜ。」同じ格好をした、大柄の男が現れた。「もう十分遊んだと思うけど・・・?ジン・クレイトン。」私は、空手の構えをとった。


 「レイ、それは新作かしら?」レイの持っている銃を見て言った。「ああ、その通り。最新の超小型弾丸拳銃だよ。」銃をポケットにしまった。「ちなみに、ケイを撃ったのは、この超小型ドロー・・・イッテ!」レイは、ジンに拳骨をうけた。「うるさいぞ。レイ。」「殴ることないだろう・・・?」レイは、頭を押さえてて言った。


 「・・・つまらない漫才は終わった?」私は、呆れたように冷たく言った。「・・・ああ。」ジンがそう言った瞬間、空気が変わった。「一応聞くけど、あんたたち何しに来たの?」私は質問をした。「嫌だって言ったらどうする?」レイは、鼻で笑いながら言った。「説明してくれるの?」私は、ジョークのように言った。





 しばらく、3人は静まり返った。「さて、そろそろ始めようか・・・。カヨ・グレイス。」レイとジンは、フードをめくった。そして、レイはアイコンタクトを取って構えた。「な!?」レイとジンは同時に驚いた。私は走って、二人の顔を掴んだ。そのまま、走り抜け路地裏へ曲がった。


 それをされている中、レイは銃を二丁、ジンはナイフを二本、それぞれ持った。それに気づいた私は、二人を地面に叩きつけた。二人は、頭から血を流したがひるむことなく持っている武器で攻撃した。私はそれをバク転で避けた。レイとジンはすぐさま立ち上がった。


 「強いな・・・。」「そうだね・・・。」二人は、額ひたいの血を拭って言った。「あんたたちもね。」私は、銃弾とナイフによるかすり傷の血を拭った。「そりゃどうも!」二人は、同時に言った。ジンは真っ直ぐ走り出し、それに追いかける形でレイが走り出した。


 ジンは左にレイは右に旋回した。ジンが切り付けてきたがそれを私は、全てしのいだ。一方でレイは、私の周りを回って撃つチャンスをうかがっていた。私は、ジンを盾に攻撃を防いだ。このコンビの得意戦術だ。私は戦いながら、自分の過去を思い出していた。





 私は、もともとアメリカ軍に入っていた。というよりは、極秘裏に作られた裏組織の元ナンバー3の幹部だった。その組織の名は、世界中立保全組織、WNMOウィンモ。名前の通り、世界中のありとあらゆる組織を軍事的、政治的、経済的に監視・保全・する中立組織だ。ちなみに、ジンはナンバー5、レイはナンバー4と慶君、本名ケイ・ロイドはナンバー6だ。


 隠しきれないほど強大になった時があった。それを利用したウィンモのトップは、これからの平和のために世界を一つにするという計画を実行し始めた。その計画によって実際に救われた人々、国々は存在した。しかし、人々の意見を無視するところがあった。それについて、組織内で何度も揉めていた。そんな時、事件は起きた。


 ウィンモの若い上級兵がアフリカで、クーデターを起こした人々を射殺したという事件が起きた。そこから、第三次世界大戦へと移行した。大戦は、1年以上続いた。これにより、ウィンモの幹部、他国の軍隊や犠牲者を含めれば世界の半数が犠牲となった。しかも、使用された衛星兵器、人工衛星による攻撃によってアフリカ全土は人の住めない土地となってしまった。


 信用を失ったウィンモは、その後も強行を続け、組織内でその強行を進めるトップ側と反対するナンバー2側に分かれ全面戦争をした。私とケイは反対側、ジンとレイは推進側についた。結果は、反対側の完全敗北に終わり、私とケイを省く幹部、下級兵や上級兵は、全て死亡した。ケイは重傷を負い、私は死亡した幹部たちのおかげでケイと共に撤退できた・・・。という、過去を思い出した。





 「・・・あんたたち、本気出してないでしょ?」ジンのナイフが私の首元で止まり、レイの銃口がひたいで止まった。「何故そう思うんだ?」レイが、そう言った。「あなたたちに殺意を感じないからよ。」ジンとレイは、お互いの目を見た。


 「で、あんたたちは何しに来たの?」私は、睨んで言った。「そう睨むなよ・・・。」乾いた声でレイは笑った。レイは私の前に移動した。「君を迎えに来たんだよ。」・・・は?「何を言ってるの?それ軽いセクハラよ?」私は、溜息交じりにそう言った。


 「うちのボスが世界を救って欲しいんだってさ。」訳が分からない。「ボスって、あなたたちのリーダーはウィンモの・・・。」「・・・そっちじゃねえよ。」ジンは、そう言った。「君の親父だよ。」レイは言った。「どうして!?ちょっと・・・え?」私は、さらに混乱した。「どうか、世界を救って欲しい。」ジンとレイは、深々と頭を下げた。





 翌日・・・。「嫌よ!」私は、はっきりと断った。「はああ!?」レイとジンは、口を大きく広げ驚いた。「あはは・・・。だろうね。」ケイは楽しそうに笑った。どうやら、ケイは気を失っている間に記憶を取り戻したようだ。「突然言われて、はい、そうですかってなる訳ないでしょ!?」かれこれ、2時間も揉めている。


 思い出した記憶によれば、この世界は私の弟ロイ・グレイスが作った仮想世界である。この仮想世界は、人の一番印象に残った記憶をもとに作られる。それを応用し、無機物、有機物をデータ化することに成功した。これは、世界に公開していなかった。


 それを利用し、重傷を負ったケイと彼を抱えたまま逃げていた私をデータ化し、この世界に送った。本来ならばデータ化に2年ほどかかる。それをたった1時間で済ませたため、完全に記憶を無くした私と記憶のあるグレイスが誕生してしまった。ケイは記憶を代償に、回復不可能の傷を治すことができたようだ。




 「・・・それに、そんな大事なことをなんであの人が教えてくれなかったのよ?」私は悲しそうに言った。「それは・・・。」レイは困ったように言った。「言っても、聞かないだろ?」ジンは冷静にそう言った。「そりゃそうだけど・・・。」私は、口をつぐんだ。


 私がいなくなってから2年が経過した。外の世界は、今二つの勢力に分かれているらしい。元ウィンモトップ、ジョン・クリード率いる独裁国家エスペランザ、私の一族グレイス家・現当主、ルイ・グレイスが率いる自由国家リベルタに分かれている。


 大事なこととは、ウィンモ世界統一推進派と反対派による闘争のあと、グレイス家が参戦したこと。レイとジンは推進側になった頃から反対側のスパイとして潜入していたこと。このことは、反対側のリーダー元ウィンモナンバー2、ジョンの双子の姉、レイチェル・クリードしか知らなかったことだ。『あの人』とは、レイチェルさんのことだ。




 「・・・しかも、何であんたたちが襲ってきたのよ?」私は、二人を睨んで言った。「そ、それは、ルイさんがついでに強さを見て来いって・・・。」ジンは、苦しまぎれにそう言った。「ふーん・・・?」私は、疑いの目線を向けた。「グ、グレイス家って強さを大事にするでしょ・・・?」レイは、声が徐々に小さくなっていった。「あはは・・・。」それを見て、ケイは楽しそうに笑っていた。


 グレイス家は、親父の計らいで私を死んでも守るという契約のもと、この推進派と反対派の戦争で反対派が絶望的に劣勢になった場合、レイの連絡で増援を送るという手はずだったらしい。それを実行に移し、結果は引き分けに終わったらしい。その後、停戦協定を結び現在の国に分かれた。


 その後も、エスペランザは人工知能を搭載した巨大機械兵器、昔で言うロボット?を用いた第4次世界大戦が始まったらしい。エスペランザの圧倒的優勢だったが、機械兵器たちが暴走し始めた。暴走というよりも、意思を持ち始めたという方が正しい。


 彼らは、言語を放ち、人類に憎悪を抱き、自然を愛するというふうに人間に近づいた。しかも、彼らはコアを破壊しなければ再生するという特性を持っていた。そのせいで、世界の総人口は40億から2億にまで減ってしまい現在は、北アメリカ大陸で東と西に分かれたエスペランザとリベルタに全人類が集まっている。





 「・・・言い争っていても、仕方ないと思うけど?」ケイは空気を変えるように言った。「ケイ?」私とレイ、ジンは同時に言った。「レイチェルさん達のおかげでこうして生きてる訳だし。それに、こんなところでダラダラしてていいのか?」それを聞いた途端に、喧嘩していた一同は吹き出して笑った。


 「な、なんだよ?」ケイは驚き、動揺したように言った。「お前が言うセリフかよ!あはは・・・!」ジンは大声で笑った。「はぁ・・・、はぁ・・・。あなたにそんなこと言われるなんてねぇ。」私は涙を拭いながら言った。「まったくだね。」レイは静かに微笑んだ。


 「いつも、頼りないくせに、こういう時に限って役に立つのね。」私は腹を押さえて言った。「ど、どういう意味だよ?」まだ、良く分かっていないようだ。「そのままの意味よ。」「うーん・・・?」納得していないようだ。


 「君の言う通りだね。こんなところで、喧嘩をしている余裕なんてない。」レイは納得したように言った。「ああ。」「そうね。」私とジンは同時に言った。「あ、ああ。うん・・・?まあ、いいか。」ケイも納得したように言った。





 「で、カヨは気持ちの整理はできたのかい?」レイは話を元に戻した。「ええ、何とかね。考えても仕方ないからね。」私は納得して言った。「それはそうと、これからどうするの?」「レイがロイに連絡したから、そろそろ外の世界への出口が開くはずだ。」ふーんと、私は興味がないので適当に返事をした。


 「ああ、あと、これ。」レイは、ケイと私に何かを渡してきた。「あら、これ私の・・・?」それは、私が昔使っていた、特殊繊維でできた黒い布とそっくりだ。第三次世界大戦で、無くしていたのだが・・・。「それは、前の物より僕とロイが強度を上げといたよ。」レイは、得意気に言った。


 「んで、ケイのは・・・。」ケイの武器は、前にも使っていた片手斧そのものだ。「ケイの斧も強度を上げたのと、新機能を搭載しておいたよ。」そこから、ケイの武器の説明が始まった。その後、出口が開く予定時刻まで4人で過ごすことにした。





 一方、太陽が沈み完全に闇に染まったころ。カヨたちを観察する者がいた。「クックック・・・。楽しそうだなあ♪」男は、楽しそうに笑った。男は立ち上がった。「さて・・・、仕事を始めるか。」男は、電柱から飛び降りた。何処かへ歩いていった。


 すると、「おい!お前、何をしている!」パトロール中の中年警察官が声をかけてきた。「何って、お巡りさんと一緒で仕事中だよ?」フードを被ったまま喋った。「ほお・・・?その格好でか。」警察官は、男をまじまじと見た。


 「俺、これでも有名人でさ。この格好じゃないと安心できないんだよね。」と男は、50センチほどの黒い金属の棒を見せた。「・・・マジックでもするのか?」警察官は、棒をじっと見つめた。「ここをこうすると・・・。」男は、棒を警察官へ向けた。





 突然、棒が変形し、警察官の喉元に突き刺さった。警察官は驚き、後ずさりをした。喉元を押さえた手を見ると、血がべったりとついていた。変形した棒をよく見ると、2メートルほどの槍のようになっていた。「クックック・・・。オッサン引っかかったな♪」男は、楽しそうに言った。


 警察官は、拳銃を取ろうと腰へ右手を回した。「おっと!」が、目に見えない速さの槍の一撃で手首ごと切り落とされた。「危ない、危ない・・・。」男は、ほっとしたように言った。警察官は、逃げようとしたが、足を刺された。


 「逃げられると面倒だからな。」警察官は、そのまま倒れ込み、胸を突き刺された。「悪いな。今日はついてなかったんだよ。」と男は、槍についた血を持っていた白いハンカチで拭いた。「・・・さっさと、失せるか。」槍を元の長さに戻した。男は、足速く暗闇の中へ消えていった。





 翌朝・・・。「ふああ・・・、おはよう。」私は、あくびをして言った。「おはよう。」男3人は、同時に言った。ケイは料理を作っていた。「悪いなカヨ。冷蔵庫勝手に開けた。」レイとジンは、テーブルの椅子に腰かけていた。ジンは眼鏡をかけタブレットを見て、レイは相変わらず銃を点検をしていた。


 「ふっ・・・。」それを見て私は、少し微笑んだ。「どうした?」ジンは、こっちを向いて言った。「いや、スラム街にいた頃を思い出したのよ。」私たち4人は、同じブラジルのスラム街の出身だ。「・・・もう一人いたけどね。」レイは、呟いた。もう一人の名前は、ガイ・チャコブスキー。・・・現在は、エスペランザに入っている。「まさか、敵側につくとはねえ。」私は、寂しく言った。


 「よし!出来たぞ。」ケイは、作った料理を運んできた。「そう言えば、ゲートはいつ開くの?」朝食を食べ始めた。「予定では、この世界の時間で今日の午後だよ。」レイが答えた。「そっか。」と他愛のない話をゲートが開くまで続けた。





 そこから、9時間後の午後5時・・・。「あと、2時間か・・・。」ケイは、ため息交じりに呟いた。「ん?」チャイムがなった。「郵便でーす。」モニターには郵便配達員が映っていた。「・・・郵便なんて頼んでたのか?」ケイは、何かを感じたかのように言った。「・・・頼んでないわよ?」私がそう言った瞬間、空気が一変した。


 私は、玄関前で例の布を左手に持ちもう片方の手でドアノブを握った。他の3人は、私の少し後ろで武器を構えていた。私は3人とアイコンタクトを取って、3人はうなずいた。そして、ジンは眼鏡を外した。ドアノブをゆっくりと回した・・・。


 突然、ドアを刃物が貫いた.「!?」今度は、窓ガラスの割れる音と共に3人の軍隊のような格好をした男が入ってきた。4人に襲いかかってきた。各々、窓から出ていった。それを軍服の男たちは追いかけていった。玄関の前にいる男は、ドアを切り裂いて室内に侵入してきた。。「お届けに上がりました~♪」男が陽気な声で入ってきた。





 入ってきた男は、すぐさま私に向かって槍で攻撃してきた。それを布を巻き付けた左手で受け止めた。「その声は?」私は、嫌な予感がした。「あらら、バレたか・・・。」男は帽子をとった。「ガイ!?・・・何であんたが来るのよ。」私は、舌打ちをした。(しかも、前より強い・・・!)私は、冷や汗をかいた。


 (これで遠慮なく戦えるわね・・・。)私は、ガイに左手で殴りかかった。それをガイは、私の左こぶしの軌道の外にすり下がり避けた。「どうした?いつもの余裕がないぞ♪」ガイは、楽しそうに言った。「・・・相変わらず舐めた口調ね。」私は、鼻で笑った。「お前も相変わらず口が悪い・・・なっ!」ガイは、彼から見て左足で膝蹴りを入れてきた。それを私は、右手で受け止めた。


 「なっ!?」私は、ガイの驚いた顔を左手で掴んだ。「ここは狭いでしょ?」そのまま、窓の外に出て屋上に片手で上がった。屋上についたとき直ぐさまガイは、恐らく刃渡り30センチあろう槍で刺してきた。それを予測した私は、すぐさま布を両手で広げ刃を受け止めた。(さすがに頑丈ね・・・。)私は、感心した。


 ガイも予測していたように槍を縮こませた。左手に持ち替え、そのまま私に振り下ろした。私は、それを左手でガイの手首をそらして凌しのいだ。だが、「なっ!?」左手に縮こませた槍がなかった!棒は、右手に握られていた。「しまった・・・!」棒を槍に変形させた勢いで、私に攻撃してきた。





 一方その頃、3人は・・・。「やれやれ・・・。力仕事は苦手なんだけどな・・・。」レイは、麻酔銃で気絶させた軍服の男を拘束した。「これで下級兵だったけ?こりゃ、大変だな・・・。」この先のことを考えて、ため息をついた。立ち上がり、空になった弾倉を捨て新たに装填した。「さて、今の時刻は・・・。」18時30分だった。レイは、ゲートが開くカヨの付近へ軍服の男を引きずって向かった。


 「クソッ!!」拘束された軍服の女は、歯を食いしばってジンを睨んだ。「・・・悪いな。うちのボスに殺すなって命令されてんだ。」ナイフに仕込んだワイヤーを外し、刃と持ち手を装着した。「ふざけるな!殺せ!」女は、大きな声を上げた。「・・・周りに聞こえたら面倒だぞ。」女は、顔を真っ赤にした。


 「それに、お前たちは今回の作戦で捨てられたそうだ。」ジンは冷静に言った。「何を・・・!」女は、荒げそうな声を抑えながら言った。「本当だよ。」と言ってジンは、女を担いだ。「おい!何をする!?」女は暴れまわった。そのまま、カヨの元へ急いだ。


 「便利だな、この斧。」ケイは、2つに分けた片手斧を見ながら感心したように言った。「これで、電気流れたり、両刃になったり、ワイヤーで鎖鎌みたいにできるもんなあ。」ケイは、2つに分けた斧を1つに戻した。「よし、こいつを運ぶか・・・。」ケイは、斧の電流で気絶した軍服の男を担いだ。「・・・意外と重いな。」カヨのもとへ向かった。





 一方、カヨは・・・。「はぁ・・・!はぁ・・・!」私は、左腕に出来た刺し傷を押さえていた。「俺がマジシャンだったの忘れてただろ?」ガイは、槍についた血を振り払った。「えぇ・・・。とんでもないミスね・・・。」私は、息を切らしていった。(しかも、体がなまってる・・・。)自分に嫌気がさした。


 さっきほどの、フェイントは何とか防げたのだが、そこからガイが少し本気をだし猛攻撃が始まった。あまりにも速い攻撃を防ぐのがやっとだった。そうしてやっとできた隙をついて殴りかかった。そこまでは良かったのだが、フェイントにつぐフェイントをされ、今の状況に陥おちいった。


 「・・・ガキの頃は、お前と喧嘩するといつも負けてたなあ。」ガイは、懐かしそうに言った。「・・・ウィンモの時も私の方が上だった。」私は、傷口の近くで布をくくり付けた。「その状態で冗談言えるか?普通?」ガイは、呆れたように言った。「さて・・・、続きを始めましょうか。」私は、深く呼吸をして空手のように構えた。ガイは、槍を両手で持ち、刃を自分の前方下に構えた。





 私とガイの間にワイヤーでつながれた斧とナイフが飛んできた。私とガイは、動きを止めた。「助けに来たぞー。」ケイが棒読みで言った。ケイとジンは、斧とナイフを元に戻した。「・・・意外と来るの早いな。」ガイは、笑顔でそう言った。「・・・どうする?この状況で戦うのか?」ジンは、相変わらずの真顔で言った。


 「ああ言ってるけど、どうする?」私は鼻で笑いながら言った。「そうだな・・・。確かに分が悪いな。」ガイは、槍を棒状に変形させた。「ガイさん・・・!申し訳ございません・・・!」ジンに担がれている女はそう言った。「別にいいよ。もうお前たちは用済みだし。」ガイは、冷たい表情で言った。「なっ!?ガ、ガイさん?」女は、呆然ぼうぜんとしていた。


 「何?あなたたちのやり方だと殺すの?」私は質問した。「それもありかなあと思ってたけど・・・。」溜息ためいきをついた。「・・・お前たちが保護したみたいだし、帰るよ。」と言った瞬間、ガイは走り出した。「待て!ケイ!」ガイを追いかけようとしたケイをジンが止めた。ケイは、ジンを不満気に睨んだ。「・・・気持ちは分かるが、今の俺たちじゃどうしようもないだろ?」ジンは、そう言った。ガイは家々の屋根の上を駆け抜けて行った。。





 ガイは、右耳に付けているマイクを走りながらオンにした。『・・・何?』エスペランザ本部いる女が無愛想に言った。「何って報告だよ。」ガイは、不機嫌そうに言った。『どうだった?任務は?』女は、確認するように言った。「任務は、完了した。あの3人は連れていかれたが・・・。」ガイは、そう言った。『そうなんだ。良かったの?殺さなくて・・・。』女は、そう言った。「メインじゃないからいいんだよ。」ガイは、冷たい口調で言った。


 『メインの方はどう?』女は、話を変えた。「ああ、カヨの戦闘データの採取は成功した。」ガイは、カヨの戦闘データが記録された記録器を取り戻した。『お疲れ様。大変だったでしょ?』女は、同情したように言った。「まあな。カヨの本気は、撮れなかったけど。」ガイは、記録器の立体ホログラムを展開した。『問題ないわね。これでカヨをある程度攻略できる。』女は、安心したように言った。


 「そろそろ、目的地に着く。リン、ゲートを開けてくれ。」ガイは、そう言った。『はい。はーい。じゃあ、また後で・・・。』リンと呼ばれた女は、そう言って通信を切った。ガイも切れたのを確認し、マイクをオフにした。「・・・何でこんな汚れ仕事ばかりなんだよ。」ガイは、不満気に呟いた。





 「レイのやつ遅いな・・・。」ケイは、ため息交じりに呟いた。「聞こえてるよ!」私たちは、マンションの下を覗いた。「・・・あなたって意外と地獄耳なのね。」私は、嫌味に言った。「・・・いいから、こいつを上げるの手伝ってくれよ。」レイは、息を切らしながら言った。「お前、運動音痴だもんな。」ジンは、3階建てのマンションから飛び降りた。「おかげで筋力超増強剤を使うハメになったよ。」やれやれといった感じで、首を横に振った。


 「よいしょっと!」レイは、マンションの屋上によじ登った。「ふう・・・。やっとついた。ん?」ジンを見つめてレイは、止まった。「・・・どうした?」ジンは、聞いた。ジンの担いでいた女は、うつむいていた。「・・・そっちも、ちゃんと拘束しないとね。」拘束用のロープを取り出し、ケイが担いできた男に近づいた。「・・・そういう趣味?」「ほっとけ!」カヨの鋭いツッコミにレイは、少し怒りながら言い返した。


 それから数分後、外の世界へのゲートが開いた。私たち4人は、ゲートの中に入り消えていった。ゲートを通り過ぎながら、私は後戻りできないことを実感した。と同時に、この先に巻き起こる闘争を覚悟した―――。

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