世界は廻る、傷が再生するように

男二九 利九男

第1話 繰り返された始まり

 いつもの日常、とあるカフェ・・・。私は、親友の由衣ゆいと話をしていた。


 「そう言えばさー。最近、けい君とはどう?」と由衣は、質問してきた。「どうって?」「上手くいってるかどうかよ。」私は数秒、考えた。「特には何も。」あっけらかんと答えた。「なにそれー。」由衣はつまらなさそうに答えた。「あとさー。」私と由衣は、ある程度話をしたあとに帰宅した。


 翌日・・・。「ふああー・・・。」私は、あくびをしながら携帯を手に取り、メールを確認した。「・・・慶君からだ。」メールの内容は、おはようと今日遊べるかどうかの確認だった。「もしもし、慶君?おはよう。」慶君に電話をし、遊園地で遊ぶ約束をした。


 「今日は、楽しかったな。」慶君の運転する車に乗り、今日のことについて話をしていた。「あのジェットコースター最高だったね。」「あれ怖かったなー。」と他愛のない話をしていると、私の住んでいるマンション前についた。「慶君いつもありがとう。」「気にしなくていいよ。それじゃ。」私と慶君は、キスをして別れを告げた。





 帰宅後・・・。「あ、そう言えば・・・。」慶君と別れたあと、買わなくてはならない物があったことを思い出し、買い出しに行くことにした。「・・・面倒だな。」と溜息をついて呟いた。


 目的のものを買いつつ、今日の夕ご飯を買った。「ん?」すると、帰り道の奥の方にフードを深く被った、異様な雰囲気の女性がいた。「えーっと・・・。」普段であればそんな人間は避けるのだが、何故かその女性にどこか懐かしさを感じ立ち止まった。「あ。」すると、その女性は突然後ろを向き歩き始めた。


 「待って!」そして、私はその女性の後を追った。しばらくすると、女性は人気のない場所で立ち止まった。「あの・・・。」と声をかけると突然、女性が振り向いてきた。「え?」と同時に手首に鋭い痛みを感じた。「イタッ・・・!」手首を見ると、刃物で切られたような傷があった。「え?なに?」女性を見ると手にはナイフが握られていた。


 (逃げなきゃ・・・!)逃げようとした瞬間、胸に激痛が走り、私は倒れ込んだ。「な・・・に・・・?」肺に穴が開いているのか声が上手く出せない。「・・・これでも思い出せないかしら?」女性はしゃがみ込んで、意味の分からないことを言った。「何・・・を・・・言っ・・・て?」意識が朦朧もうろうとするなか、女性の手に拳銃が握られているのが分かった。


 私は、状況を理解できなかった。「やっぱり、また駄目ね。」すると、女性は立ち上がり、フードをめくった。「まあ、私の顔を見てもあなたは思い出さないのだろうけど。」私は、驚愕した!「それじゃあ、さようなら。」女性は、銃口を私に向けた。「い・・・や!止・・・め・・・!」私は、また繰り返す。





 いつもの日常・・・?何か違和感を感じる・・・。「そう言えばさー。最近、慶・・・。」最近、変な夢を見る。そのせいで、寝不足気味だ。『変な夢』というよりは、『奇妙な夢』という方が正しいのかもしれない。その奇妙な夢というのは・・・。


 「佳代かよ?」一体、どいうことなのだろうか?「か?よ。」分からない・・・。「佳代ってば!!」私は、我に返った。「ああ。ごめん、ごめん。」佳代とは、私のことだ。「大丈夫?」由衣が心配そうに言った。「う、うん。大丈夫。で何の話だっけ?」私と由衣は、ある程度話をしたあとに帰宅した。



 ・・・結局、あの夢が気になって余り眠れなかった。夢の内容は、由衣と話をしているところ、コンビニでの買い物、慶君の車の中、無残に殺されていく私など・・・。記憶にない光景がまるで映画のフィルムように、流れてくるというものだ。


 それだけならば、こんなに悩まされることはない。ただの夢と気に留めない。しかし、奇妙なことに、普段の光景がどれも見たことがある様な気がするのだ。「何なのよ・・・。」溜息がこぼれた。携帯から着信音が鳴った。


 「・・・慶君からだ。」メールの内容は、おはようと今日遊べるかどうかの確認だった。「もしもし、慶君?おはよう。」慶君に電話をし今日は、昨夜のことで体調が余りよくないので断った。あれから、ゆっくり休んだので体調がよくなった。・・・と言っても決してよくはない。「よいしょっと・・・。」私は、買い物に行くことにした。





 必要なものを買うついでに昼食も買った。「え?」突然、体が動かなくなった。というよりも、世界そのものが止まっているように感じた。そして、カラフルだった世界がモノクロに染まっていった。(あ、あれ?足が動かない!?こ、声が出ない・・・!)すると、何処からともなく足音が聞こえてきた。


 「やっと気づいたのかしらね?」フードを被った謎の女性が、何もない空間から現れた。「まあ、話しかけても喋れないだろうけど。」女性は、冷たい口調でそう言った。「・・・にしても、あなた珍しいことしてるわね?今まで、変わった動きなかったのに・・・。」女性は、私の顔を覗きながらそう言った。


 「でも、まだ思い出せていないようね。」すると、女性はフードをめくり始めた。(な・・・!?)私は、驚愕した。なぜなら、その顔は私の顔そのものだったからだ。その時、私は今の状況を理解した。(そ、そんな!?こんなことって・・・!)私はこの女の手によって、何度も死を繰り返している!?


 「やっと何か思い出せたようね。いいわ、今回は見逃してあげる。また、会いましょう・・・。」女は、また歩き始め空間に滲むように消えていった。と同時に世界に色が戻り、体も動けるようになった。しかし、私はその場でしばらく立ちすくんでいた。





 思い出した翌朝・・・。私は、少し思い出し納得していた。「ふああ・・・。」・・・まだ、ほとんど眠れていないが。すると、昨日の昼と同じ感覚がした。「・・・今度は、喋れるようね。」相変わらず体は動けない。「そのようね。すごい成長じゃない。」あの感情のこもっていない声が聞こえた。「本当に思っているの?」私も冷たく言い放った。


 「それよりも、何か用?そっくりさん?」私は、話題を変えた。「あら、意外と冷静じゃない。この状況には慣れたのかしら?」彼女は、話をそらす。「あなたは何者?何が目的?何であなたは動けて、私は動けないの?」話しを聞き流し言った。


 「・・・1つずつ答えていいかしら?」彼女は、溜息をつき話し出した。まず、1つ目の質問に返答しだした。どうやら彼女は、双子でもなく私と同じ存在らしい。・・・馬鹿げた話だが、そうと言うほかないらしい。まあ、元から信じていないが。


「2つ目は、あなたに記憶を思い出させるためよ。」一つ目の返答があるので余り信用していない。「どういうこと?さっきから、ちゃんと説明しているの?」私は、苛立っていた。「全て事実よ。」・・・即答だった。「・・・ああ、そう?続けて。」私は、諦めて最後まで聞くことにした。

 「あなたには、大事な任務があるわ。思い出さなくてはならないね。」「・・・ふーん。」・・・馬鹿馬鹿しくて聞いていられない。「思い出せば、私のように動けるようになるわ。」彼女は、そう言った。「どうだか・・・。」私は、痺れを切らして言った。「もう、質問はいいのかしら?」彼女は、相変わらず冷たく言った。


 「ええ。もうこりごりよ。」私は、もう聞き飽きていた。「ああ、そうそういい忘れていたけれど。」「今度は何?」彼女は、思い出すように言った。「あなた、今度は別の人間に命を狙われているわよ。」・・・何ですって?命を別の人間に狙われている?「・・・それ言い忘れたらだめよね?」私は、ため息をついた。


 「それじゃあ、また会いましょう。」「待って!まだ聞きたいことが・・・。」彼女は、また消えていった。「何なのあの女・・・。」溜息がこぼれた。「本当に全部止まっていたのね。」最初、体験したときは驚いていて、分からなかったが今理解した。私は、しばらく呆然としていた。





 彼女の説明から数日後より・・・。私は今、慶けい君とデートをしている。繰り返していることを思い出してから、あの夢を見なくなった。見なくなったのはいいのだが、何故かとても嫌な予感がする。「佳代かよ、どうした?」慶君が心配そうに話しかけてきた。


 「ああ、ごめん。何でもない。ちょっと、考え事してた。」私と慶君は、カフェに居る。ちなみに、今の時刻は四時である。「・・・そうか?大丈夫ならいいけど。」慶君は、拍子抜けしたように言った。「で?ええっと、何だったけ?ああ、そうそう・・・。」すると、カフェの入り口から明らかにいら立っている男が現れた。


 「お客様、ご注文はござ・・・。」と店員が話しかけた瞬間、悲鳴が上がった。「テメエら全員、動くな!」店員は撃たれ、私たちは男にテープで縛られ人質となった。私と慶君が店に入ってから、約三十分後のことである。





 数時間後・・・。男は、イライラしていた。どうやら男は、政治のことに熱心で、警察に総理大臣に代わるように電話しているようだ。だが、警察が応じる訳もない。それに、男はイライラしているようだ。「クソッ!ふざけんな!」男は、店のテーブルを蹴り上げた。


 男は私たちを睨んだ。「・・・こうなったら、あれをするしかないな。」男は、何か思いつめたように言った。男は、警察に電話をした。そして、自分の提案を飲まなければ三十分置きに射殺すると言い始めた。言葉通りまた一人、射殺され悲鳴が上がった。。「次は、三十分後だ。人質が全滅するまで続ける。」男は、携帯を切った。


 (このままじゃ、慶君も私も死んでしまう・・・!)すると、また世界が止まった。「私の出番かしらね?」彼女が現れ、相変わらず感情のこもっていない口調で言った。「あ、あなたは!?」私は、驚いたように言った。「グレイスでいいわよ。」私は、唖然とした。「私の名前よ。」唐突にグレイスは言った。「あ、はい。よろしくグレイス。・・・じゃなくて!」私は、首を横に振った。


 「あなた、この状況でよく冷静で居られるわね。」「ええ、誰かさんのおかげでね。」私は、皮肉たっぷりに言った。「で、何か用?」私は話を戻した。「あなたを助けようかと思ってきたのよ。」と男に触ろうとしながら言った。すると、グレイスの手がすり抜けた。


 「なっ!?」「私あなた以外は、触れないのよね。」グレイスは、私のほうに近づいてきた。「だから、あなたに頑張ってもらうためにきたのよ。」グレイスは、しゃがみ込んで言った。「それはどういう・・・。」「言葉通りの意味よ。」グレイスは、私の顔を撫でながら言った。


 「あなたは、救われて欲しかった・・・。」グレイスは、心なしか悲しそうな顔をしたように見えた。「何を言って・・・。」と同時に失っていた記憶の一部を思い出した。悲しく、残酷な記憶を思い出した。





 「はっ!?」気がつくと世界が元に戻った。(あ、今捕まってるんだった。)記憶をもとに、男がこちらを見ていない隙にテープをほどいた。「おい!何してんだよ!」慶君は小声でそう言った。「大丈夫。私にいい考えがある。」そして、テープを半分にちぎって両手首、両足首に巻き付けた。


 わざと、男に聞こえるように音を立てた。「静かにしろ!ぶっ殺すぞ!」男は、予想通り私に近づいてきた。「次はお前だ。」と銃口を向けた瞬間、銃を握っている腕をつかみ、掴んだまま男の後ろに回った。「な!?」男の肩に乗り首を両足で締め上げた。


 「どう?少しはさっきの二人の気持ちわかったかしら?」「ガァ!!」男は、もう片方の手で殴ろうとしたがそれを掴んだ。「まあ、こんなものじゃないけど・・・。」そのまま、後ろに倒れ気絶した。人質は解放され男は逮捕された。



 その一部始終を見ていた者達がいた。「・・・やっとお目覚めか。」フードを被った大柄な男が鼻で笑いながら言った。「全く悠長なもんだねえ。」同じ格好をした、しゃがみ込んでいる少年が嫌味を言った。佳代に危機が迫っていた―――。

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