第8話:二人の来客

 翌日、俺はリビングで目が覚めた。


 あの後、実夜が転がって俺の布団に入ってきたり、それなのに全く目を覚まさず耳元ですーすー寝息立てられたり、たまに寝苦しいのか喘いだり。それこそ誘っているんじゃないかとすら思い始めるレベルで。


 そんなわけでもう一度リビングへの逃亡を試みて、どうにか成功したわけだ。


 まぁアイツが起きるのは8時過ぎだろうし、朝は6時に起きる俺がここで寝てるのに気付かれることはないだろうと。



 そして実夜は今、俺に寄り添うようにしてソファーで寝ていた。


 何を言ってるか分からないと思うが、俺にもさっぱり分からん。


 とりあえず起こさないように抜け出そうとするが、まぁ思い切り腕を絡まれているわけでそう簡単には抜け出せない。そしてまた。


「んんっ……あれ? せん……ぱい……? なんでこんな近くに……っっ!?」


 そして周りを見回す実夜。とりあえず何故こうなったかを聞いてみる。


「なんでお前がここで寝ている……?」


「え、えーと。それはですね……たしか」


 そして少し躊躇いながら続ける。


「夜、お手洗いに行った帰りに、ここで寝ている先輩を見つけたんですよ。それで、先輩の部屋で寝るって言ったじゃないですか〜って思って、先輩を起こそうとして…………その後の記憶はございません」


 その行動につい溜息を吐いてしまう


「お前、女子の自覚なさ過ぎない?」


「違いますよ、先輩をそんなに男と認識してないだけです」


 それもどうかと思うんだが。


 暫くそんな会話を続けていると、途中で実夜が会話をぶった切った。


「それはそうとして、先輩! 朝ご飯はなんですか?」


「お前ほんと唐突に話題変えるのな」


「まーいいじゃないですかぁ。それで、今日は何を作ってくれるんですか?」


「うーん、オムライスでいいか? 昨日のご飯がまだ残ってるんだよ」


「はい! 先輩の作るオムライスは卵がトロッとしてるのに形が崩れることはなく、しっかりとご飯を包んでいますからね、アレ大好きですよ!」


「お、おう。ハードル高くね? 失敗しても文句言うなよ……」


 そして無事ふわとろオムライスを作り、二人で食べながら話す。


「そういえば先輩。今日の午後は莉奈ちゃんちが来る以外予定ありませんよね?」


「おう、特に無いな。NDOか?」


「昨日言ってたこと見せてもらわないといけませんからね。莉奈ちゃんちが帰り次第インしますよー」


「……別に午前中でもいいんじゃないか?」


「あー、たしかにそうですね。ならさっさと食べ終えてすぐ狩りに行きますよー!」



 ということで朝食を終えると二人揃ってダイブイン。始まりの街から西の森へ向かうとすぐに一匹のフォレストウルフと遭遇した。


 狼をギリギリまで引きつけてから、足を射抜き、狼がバランスを崩したことを確認してから距離を詰め、首を狙う。


 首を矢で一刺しされた狼はそのまま力尽き、地に伏せた。


「っと、こんな感じで死体が残るんだよ」


 インベントリに残った狼の死体を入れながら実夜にそう言うと。


「へぇ……『死体が残る』って、本当にそのままの意味だったんですか……。そして返り血が付くのは【惨殺者】と同じですね」


「普通の【惨殺者】の称号も返り血はあるのか。フィールドに残るくらいって聞いたから服には付かないと思ってたわ」


「私は基本遠くから射抜くだけなので血が飛んでくることは殆ど無かったですから、フィールドに残るくらいのイメージしか無いんですよ」


「そうなのか……。昨日は直接浴びることは無かったが、近づくとだいぶかかるな。手とか袖もそうだけど割とズボンの方にも飛び散ってやがる。これ洗わないと落ちないのか?」


「あっ、それなら便利な魔法がありますよ。ちょっと待ってくださいね。【クリーンヒール】」


 実夜がそう唱えると俺の足下に小さな魔法陣が現れ、癒しのエフェクトとともに魔法陣の位置が上がっていく。


「おおっ?」


 どうやら魔法陣が過ぎたところから綺麗になっているようだ。そしてその魔法陣は俺の頭を過ぎると消えた。


「便利でしょう? 始まりの街の『教会の手伝い』ってクエストをクリアすると教えて貰えるんですよ」


 へぇ……これは便利すぎる。洗濯の必要がないし、もしかしたら肉料理で出た血も綺麗にできるかもしれない。


「後で行ってみるわ。ありがと」


「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。……それよりも、なんでさっき弓使って倒さなかったんですか? 弓使ってたら返り血浴びずに済んだのでは……」


「ああ、こっちのが弓使うより確実に急所に当てられるし、すぐインベントリにしまえるからだ。あとやたらと傷を増やすと解体が面倒になったり買取価格が下がったりするらしいから、なるべく傷をつけないことを考えると絞殺か急所を一刺しがいいと思ってな」


「えぇ……? それメイン武器変えた方が良いんじゃないですか?」


「うーん、それも考えたんだが、せっかく最初に選んだ武器だし、変えたくないんだよな」


「まぁ……なんていうか、先輩らしいですね」


「そうか?」


 それから俺たちは11時過ぎまで狩りを続けた。ちなみにトドメが実夜なら普通のドロップ品が出て、通常通りパーティーを組んでいた俺のインベントリにも入った。なお死体は全部俺がもらったため、俺のインベントリに来たドロップ品は実夜に渡した。


 ダイブアウトしてから少し早めの昼食にする。献立はチャーハンと中華スープという、これまた簡単なものではあるが実夜は満足しているため問題ない。


 昼食を終え、実夜と話しながらお茶をしているとインターホンの音が響いた。


 ピンポーン


「おっ、来たみたいですね」


 そして玄関へ行き扉を開けると騒音男子こと白金嶺二と黒髪ポニーテールの美少女こと白金莉奈がいた。


「うーっす。時間通り来たぜ」


「こんにちはー!」


「よく来たね、さあ上がって上がって!」


 そう言って実夜が莉奈をリビングへ連れて行く。


「何でお前が自分の家の如く対応してるんだよ……。ああ、嶺二も上がってくれ」


「お、おう。……で、なんで実夜ちゃんがお前の部屋にいるんだ? まさか……もう同棲してるのか?」


「いや、ちげぇよ。ただ暫く泊まりに来てるだけだ」


「女子が一人暮らしの男の家に泊まりって、「だけ」で済まされるものじゃねぇだろ……」


 たしかにそう聞くとアウトな気がしないでも無いが今更なためスルーして実夜と莉奈が先にリビングへ向かったのを確認してからUSBを嶺二に渡す。


「じゃあこれ返すわ」


「おう、サンキューな」


「まあその分昼飯奢って貰ったからな」



 とりあえずお茶(冷蔵庫で冷やしてある水出し緑茶)を出し、俺と嶺二は雑談。莉奈と実夜はテレビでクラッシュシスターズ(通称クラシス)で遊んでいる。


 途中で会話に区切りがついた時、嶺二が莉奈に聞く。


「そういや莉奈は奈月んちに実夜ちゃんがいること知ってたのか?」


「うん、昨日聞いてたからね。……さすがに驚きはしたけど」


「昨日? 実夜ちゃんからCIRCLEで聞いてたのか」


「ううん、NDOの方で実夜と先輩と会って話したからその時に」


「なん……だと……!? おい奈月、どういうことだ? 莉奈みたいに予約抽選に当たったのか? 超幸運系女子スーパーラッキーガールであるお前の正妻実夜ちゃんと同じようにβ版からやってたとは言わないよな?」


「うん? ああ、どっちも違うな。懸賞で当たったんだよ。β版はやってなくて正式版からだ」


「くっ……それもまた運が良いなぁ。妬ましいほど羨ましい。俺は大人しく明後日の火曜日に配信されるダウンロード版で始めるつもりだよ……」


「やっぱりお前もやるのか」


「おうよ、いくら俺がソロゲー専門のRTA走者だといっても、それ以前にゲーマーだからな。世界初のVRMMOと聞いてやらないわけが無いだろ」


 "Real Time Attack"通称RTA。海外ではSpeed runと言われている。その内容は「あること」を成すまでのリアルタイムを競う、言わばゲームの遊び方の一つだ。

  嶺二コイツ曰くRTAにはやってみないと分からない独自の楽しさがあるのだとか。

 側から見ていて、たしかに凄いとは思うが……やりたいとは思えない。だって一人で黙々とリセットをし、ミスったらまたリセットしてを繰り返してるんだぞ? 正直怖い。


 まあ、嶺二はそんな変態(褒め言葉)の一人なわけだ。


「お前ならすぐにトッププレイヤーに入りそうだな……この間VRアクションゲームのRTAで世界取ったとか騒いでなかった?」


「おうよ。『サント・リオン』のany%な。アレは神ゲー」


『サント・リオン』というのはVRのアクションゲームなのだが、求められる技術スキルの難易度が余りにも高く、匙を投げる人が続出。二年前、フツロ発売と同時に売り始めたが、クリア者が購入した人の2%にも満たないという、最近には珍しい鬼畜ゲーだ。


「あのゲームしてる時点でpsプレイヤースキルはトップレベルだろ? やっぱりキャラメイクは高機動な感じか?」


「もちろん! サント・リオンで培った木渡りやら崖走りを駆使する忍者型を目指すぜ!」


「じゃあやっぱりソロか?」


「レイド戦とかには参加するだろうし、どこかしらのクランに入るかもしれんが……まぁ基本はソロだろうな。お前は実夜ちゃんと二人か?」


「いや、今は時間が合うから二人でやってるが、たぶん基本はソロになるだろうな。武器の相性もあるし」


「そうですねー、先輩が前衛武器だったらまた違ったんですけど。私は莉奈ちゃんと組みつつ、β版の頃のパーティメンバーで引き込めそうな人探すかなー」


 実夜がそう言うと莉奈も「ですね〜」と返した。



 その後、嶺二と莉奈は特別何かするわけでもなく、帰って行った。……そういえば莉奈が来るって聞いた時、莉奈は実夜がいるって知らなかったわけだよな。何か用事があったわけじゃないのか?  

 そんな疑問も抱いたが、まぁ大したことじゃないだろうと思い直し、夕飯を食べたり風呂に入ったりを一通りし、寝るだけの状態になってからNDOへダイブイン。

 ちなみに実夜は「明日までの宿題忘れてました……」だそうでリビングの机で勉強・・中だ。



 とりあえずさっき実夜に聞いたクエスト受けようと思い、ギルドへ足を運び入り口横にある依頼版を見る。


「えっと、これかな?」


 現れた受注可能なクエスト一覧のウィンドウの中から一つを選択し受注する。すると、受注した旨の通知が入る。


 《『教会の』を受注しました。》


 さてと、場所は……第二の街の教会になってるな。実夜には始まりの街で受けられるって聞いたけど、受注はどの街の依頼版でもできるってだけか? 

 少し疑問に思いながらも、始まりの街の教会から第二の街の教会へ転移した。



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『教会の手助け』

種別:護衛クエスト

報酬:???? 

クエスト開始位置:ウルディアの街・教会


推奨平均レベル:10

推奨パーティー人数:4人


※この依頼は時間限定クエストです。


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