23.エナとイヴ(1)


 ――それから。

 一行は村を出て、アラードラへ向かった。シャンテも一緒であった。


 アラードラに到着すると、シャンテを婚約者のもとへ送った。その後クインテにアポを取り、市庁舎で面会した。



 ――市庁舎。応接間。


「メガロアで約束した通り、君に特殊専用品スペシャルを創るつもりだ。コウタ、君はどんなものが欲しいかな?」

 クインテの言葉に、エナたちの視線が集まる。


 コウタはしばらく考える仕草をしていたが、結局困ったように笑って肩をすくめた。

 クインテはあらかじめその反応を予想していたのか、意地の悪い微笑みで応える。


「あくまで君自身のものだから、君の希望が最優先だ。しかし……この私が目を掛けた男。全員が度肝を抜くような素晴らしい特殊専用品を発案してくれると期待している。もちろん、世界のお偉方えらがたから目を付けられないよう、だ。いやあ、楽しみだなあ」

 コウタは天を仰ぐ。


 エナたちは、「クインテ様ってこういうお人だったのか……」と驚いていた。



 ――面会終了時間となった。


 クインテが思い出したように言う。

「そういえば、エナ。君の家の別荘がアラードラにあったはずだな」

「はい。郊外に。私は久しく訪れていないのですが……それが何か?」

「いや、数日前にアルキオン家のご当主が訪れて、『我が娘をよろしくお願いします』とおっしゃられたのでな。久しく戻っていないのであれば、ご家族に少し顔を見せてはどうか」

「……」

「アラードラ滞在中は私の方で宿を用意させるが、無理に利用しなくてよいぞ」

「……お心遣い、感謝致します」

 淑女しゅくじょの仕草でエナが腰を折る。クインテはうなずいた。



 ――郊外の別荘に向かう道の途中である。


「ねーえエナ。アンタの父親って、こんなに耳が早いものなの? 娘をよろしくお願いしますって、タイミング良すぎじゃない?」

 手を頭の後ろで組みながら、サラァサが言う。

 エナは小さくため息をついた。


「きっとクインテ様は勘違いされているわ。お父様がおっしゃったのは、妹のこと」

「アンタ、妹がいたの? へぇー、初耳。じゃあアンタと違っておしとやかなのね」

「何でそうなるのよ?」

「反面教師でしょアンタ」

「殴るわよ」


 まあまあ、と間に入ってなだめながら、イスナは言った。

「でも、私もお会いするのは初めてです。どんな方なんでしょう。少し緊張しますね」

「だーから、ぜったいおしとやかだって。こう、キラキラのお姫様みたいな奴よ」

 そう言って、ちらりと横を見るサラァサ。エナから拳骨が飛ぶことを予想してさりげなく防御姿勢を取る。


 だが、エナは何もしなかった。

「こっちよ。皆、付いてきて」



 ――アルキオン家の別荘に到着した。

「……思ってたよりもっさいわね。でも、人間にしては品の良い造りだわ」

 めているのか、けなしているのか――サラァサが「ほお……」とばかりつぶやく。


 守衛に来訪を伝えると、彼は慌てて館にかけこんだ。

 しばらくして館の主が出てくる。

 

 細身の身体にフィットした純白のチュニックに、ゆったりとしたフレアスカート。腰には宝石をあしらったチェインベルト。

 衣服の白と髪の金が、脳裏まで貫くような鮮やかさで目に飛び込んでくる。

 楚々そそとした歩き方。わずかに伏せられたまつげ。とても年下には見えない。貴婦人の姿がそこにあった。


 イヴ=アルキオン。

 エナの実妹じつまいである。


「お久しぶりです。エナお姉様。三年ぶり……ですわね」

「……イヴ。成長したわね。見違えたわ」

 エナはゆるりと微笑んだ。コウタは、彼女の横顔にどことなく哀しげな色を見た。


 イヴはコウタたちに会釈をした。

「皆様、初めまして。エナ=アルキオンの妹、イヴと申します。姉がいつもお世話になっております」

「いっ、いえっ! こちらこそっ」

 イスナがガチガチに緊張して応える。イヴはくすりと笑った。

「お疲れでしょう。よろしければ、私どもの屋敷でおくつろぎになってください。お姉様とも、久しぶりにお話ししたいですし」

「そうね……アトロ先生。いいですか? レーンスハイル様には私から連絡しておきますから」

「それは構わないが。アルキオン君こそ、いいのか? しばらくこの街には滞在するのだ。姉妹水入らずで過ごす方が」


 コウタがアトロの肩を叩く。

 ここはお邪魔しましょう、と彼が言うと、アトロは軽く息を吐いた。


「では、皆で世話になることにしよう」

「はい。こちらへどうぞ」

 別荘の玄関へイヴは案内した。



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