16.クインテ=レーンスハイルとともに(5)
――コウタは、仲間二人の戦いぶりを観察していた。
聖羽リオロピオをまとったクインテは、手数で押す。
最大の奥義は、全身を一本の槍のようにして突撃する技。
剣の切っ先だけでなく、羽の一枚一枚が
後衛のグレジャンは、あらゆる属性の魔法を高いレベルで使いこなす。
中でも、聖杖インシグネの羽に溜め込んだ魔力を、幾筋もの光線として撃ち出す魔法が最大の威力を持つ。
これらの技を、どのようにして巨龍に叩き込むか。
そして何発、叩き込めるか。
そのために何度、隙を作れるか。
鋼翼幻龍インヴォカデオとの攻防は続く。
――
縦横無尽に飛び回るクインテをはたき落とすため、幻龍が右の前脚を大きく振りかぶる。
巨体が全身を使って動く様は、遠くから見る者には鈍重そのもの――に映る。
だが、間近で戦う小さな者にとっては、いつもの何倍もの距離を移動しなければ避けられない緊急事態である。
巨体が動くことで空気が
威圧の女神の顔に驚愕と焦りは――皆無。
さあ来た。好機だ――彼女の口がそんな言葉を吐く。
幻龍の右前脚が高く高く掲げられ、クインテ目がけて振り下ろされる。
――後衛でコウタは集中力を高めていた。
その隣でグレジャンは詠唱を続けていた。聖杖インシグネには、すでに十分な量の魔力が蓄えられていた。
待っているのだ。
――大地が、盛大に揺れる。
幻龍の脚が深々とめり込んでいた。
その様はまるで、怒りと悔しさに赤面した
ここ――だ。
がら空きになった幻龍の横面に、魔力の槍と化したクインテが迫る。
女神と龍の視線が交わった直後――。
聖羽リオロピオの切っ先と、純白の翼から生まれた無数の刃が、幻龍の右眼球を貫いた。
さらに抉り、そして斬り散らかす。
幻龍が長い悲鳴を轟かせる。
その声だけで十分な凶器であったが、すでに、クインテは幻龍の頭部から離脱していた。
がりぃっ、と幻龍が歯を噛みしめる。
小さき者に翻弄された怒り。
眼球に深手を負った痛み。
よくも。覚悟せよ。恐怖せよ。消し飛べ。呪詛の言葉が幻龍の思考を支配する。
ふつふつとはらわたが煮えたぎっている者がそうであるように――魔界の龍は、その場から動かない。
動かないのなら、的になるだけだ。
グレジャンが、冷静に、冷徹に、最大威力の魔法を解放した。
幾筋もの光線が、弧を描きながら幻龍の頭部に殺到する。
異変に気づき、幻龍がのっそりと顔を上げた瞬間、魔法は
幻龍の首が、がくんと下がる。
光が収まると、龍の頭部は
やや遅れて、閃光――体内に潜り込んだ魔力の塊が、内側から
目を
再び悲鳴を上げた幻龍の巨体が、ぐらりと、大きく傾く。
倒れる――。
あまりにも身体が大きいゆえに、
聖杖インシグネが、かちりと鳴った。
グレジャンが構えをわずかに解いたのだ。
「決まったね」
――そのとき。
鋼翼幻龍インヴォカデオとコウタは、目が合った。
即座に魔力を展開させたコウタは、転移魔法でクインテを強制的に呼び寄せた。
「……っ!? いきなり驚いたぞ、コウタ」
「コウタ=トランティア。どうした?」
「奴は自爆する気です」
クインテとグレジャンの顔にさっと緊張が戻る。
コウタの言葉通り、幻龍は倒れながら膨大な魔力を放ち始めた。
怒りの声とも、勝ち誇った笑い声とも取れる、幻龍の細く長い
コウタは両手を幻龍に向けた。
そして、言った。
「悪いけど、見飽きているんだ」
咆哮が止まった。
外に向けて暴力的に放たれようとしていた幻龍の魔力が、コウタの力によって内に向けて反転する。
コウタの手が閉じられていく動きに連動し、幻龍の魔力が、自身の体内で暴れ回る。
もはや悲鳴は上がらない。
そして――鋼翼幻龍インヴォカデオは、
――コウタたちは、何事もなかったかのように帰還した。
学園は平穏そのものだった。
由緒ある校舎を何十回も更地にできるほどの魔力の嵐は、コウタの結界によって完璧に抑えられた。
生徒たちは、クインテがもう帰ってしまう、ということだけに
コウタは、それで満足であった。
――出発直前。
クインテは学園長室にコウタを呼んだ。彼女の隣にはグレジャンもいた。
地位と実力を兼ね備えた
「目立つことなく終わって満足満足――といったところかい?」
学園長が言うと、威圧の女神も流し目を向けてくる。
「我ら二人にあんな姿を見せておいて、そうはいかんぞ。盛大に祝ってやるから、たっぷり困るといいさ」
コウタがげんなりした顔を浮かべると、グレジャンとクインテは軽やかに笑った。
「冗談だ。半分は、な」
グレジャンは学園長の顔に戻ると、改めてコウタの働きを評価した。
そして、コウタに四ツ星の資格を与えると宣言した。
これにより、コウタのパーティは胸を張って学園外で活動する自由を得ることになる。
去り際、クインテはコウタの肩を親しげに叩いた。
「アラードラに来なさい。歓迎するよ。君の
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