12.クインテ=レーンスハイルとともに(1)

 

 コウタ、エナ、イスナ――非公式だがサラァサも――がパーティを組み、アトロを担当官として登録して、間もなく。

 彼らに、学園長グレジャン=リーヴァから指令が届いた。


 要人の出迎えと案内役である。


 大都市アラードラの副市長が、メガロア高等魔法学園をひようけいほうもんするという。

 出迎えにはウェールの街の守備隊の他、学園代表の生徒が数人、従事することになっていた。

 学園代表に選ばれたのは皆、四ツ星以上の優秀な生徒ばかり。

 コウタたちは、その学生代表メンバーに指名されたのだった。


 副市長の名はクインテ=レーンスハイル。

 

 燃えるように波打つ赤い髪と、長身、豊満な身体付きが印象的な女傑じょけつである。

 一枚布を複雑に組み合わせた白いころもをまとい、胸を張って優雅に歩く様は、まさに地上に現れた女神。

 同じく女神と呼び親しまれるイスナと違うのは、その立ち居振る舞いに優雅さだけでなく、強者きょうしゃ相応そうおうの威圧感があるところだ。

 彼女はメガロアの卒業生で、学園長とも知己ちき間柄あいだがらである。


 そんな有名人がわざわざ訪問した理由のひとつに、今は退職したディスが関係していた。

 あの一件でディスと関わりを持っていた組織は、実はアラードラにおいて監視対象であったのだ。

 暗躍するなら、放置はできぬ。

 そのためメガロアと繋がりがあるクインテが直接出向き、学園長から詳しく話を聞くことになったのである。

 もっとも、半分はウェールとアラードラの親善友好のためであったが。



 ――学園の講堂が一夜限りのパーティ会場となる。

 四ツ星、五ツ星の生徒たちは、そうそうたる顔ぶれのパーティにすっかり萎縮してしまい、会場の隅で裏方に徹していた。

 いくら優秀であっても、学園のいち生徒が威圧の女神と対等に接しろと言われても、それは無理な話なのだ。彼らの役目はであって、場を盛り上げることではない。


 ただ、例外は何人かいる。

 その一人がエナ=アルキオンであった。

 彼女は普段の勇壮な姿からは連想できないほど、社交界に通じていた。

 ドレスを着こなし、しとやかな笑顔を振りまき、クインテとも落ち着いて話す。

 上品かつ堂々とした振る舞いを見て、学園の生徒たちの矜持きょうじは何とか保たれていた。



 ――エナが会場の隅に戻ってくる。

 彼女は腰に手を当てると、親友に苦言をていした。

「イスナ。私にばっかり相手させないで、あなたも来なさいよ。慣れてるでしょ、こういうの」

「あう……」

「あう、じゃないわよ。相変わらず卑屈ひくつ可愛いわね」

「褒めてないです……私、裏でお料理作ってる方が性に合っていますよお……」

「もう! せっかくそんな良い身体してるのに。勿体もったいない」

「あうぅ……」


 サラァサが出しゃばる。

「それじゃあ私が代わってお相手してあげましょうか。私が姿を現して力を使えば、ここの男性陣なんか一発よ。威圧の女神とやらにも負けないんだから」

「担当官としては許可できないな」

 アトロがちびりと酒を飲みながら言った。いくられいこうのパーティとはいえ、職務中に飲むなど真面目な彼女にしては珍しい。


 サラァサは口をとがらせた。

「アトロせんせー。いくらあの副市長サンがだからってぇ、こんな後ろにいたら意味ないじゃないですかぁ。任務の前はあんなにはしゃいでたのに、いまさら照れ隠しなんてぇ」

「……トランティア君。彼女を黙らせてくれ」


 エナは軽くため息をつく。

「……で? そのコウタは、ひたすらマイペースに料理を食べていると。ここの空気にまったく動じずに」

「美味しいよ」

「はあ……。せっかく学園長が私たちを指名してくれたのだから、ちょっとぐらい顔を売ろうとは――考えないわよねえ、あなたは」

「顔を売るつもりはないけど、後で副市長さんの部屋に話をしに行くことにはなってるよ」


 え!?――と仲間たちが驚く。学園長に頼まれた、とコウタはこともなげに言った。

 食べ終わった皿をテーブルに置く。


「あの人は、皆が言うような威圧の女神じゃないよ。きっと」

  


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