3.イスナ=ルヴィニを助ける(2)


 ――数日後の夜。

 コウタは、以前と同じ川のほとりでイスナを見つけた。

 隣には見覚えのある少女の姿もあった。


「……ごめんなさい、エナ。貴女もパーティが解散して大変なときなのに、こんなことに付き合わせてしまって」

「いいってことよ。練習して、少しでも失敗を取り戻すつもりだったんでしょう?」

 あの森で出会った、聖剣使いのエナ=アルキオンだった。


「けど、イスナ。いつも思うけど、あんたは無理しすぎよ。何でもかんでも自分で何とかしようとしてるんだから。今日だって、私が止めなきゃ朝まで練習してたでしょ?」

「あぅ……」

「あぅ、じゃない。可愛いな。ま、そんなだから放っておけないんだけど。親友としてね」

「エナ……私……私……貴女の隣にはもういられないかもしれません。大事な課題を失敗しただけでなく、無関係な方々に怪我までさせてしまいました……。それに、杖も……。こうなっては、四ツ星から降格となるのも時間の問題……。私はもう、あなたと共に頑張るという約束が守れなくなるんです……!」

「イスナ……」


 コウタが一歩踏み出す。

 がさりと下草が鳴り、エナが鋭く反応する。

「誰ッ!? って、あ!」

「コウタさん……」


 お互いの反応に、エナとイスナは顔を見合わせる。

 どうして彼のことを知っているのだろう――と、瞳が語っていた。


 コウタは、持っていた麻袋を解いて、中のものを取り出した。

 聖杖ヴァーリヤ――。

 魔法使いから預かったのだ。再びイスナに託すために。


 悲しみや苦しみを隠すため、イスナは無理矢理笑顔を作った。

「ありがとうございます、コウタさん。先日初めてお会いしたあなたに、このようなことを頼んで申し訳ありませんでした。それで……あの方は何と」

 魔法使いの伝言を伝える。

 やはり杖には呪いがかけられていた。だが、わしではどうにもできなかった。申し訳ない――と。

 コウタの話を聞いた彼女は、泣き笑いの表情を浮かべた。

「そう、ですよね。やっぱり、私にはまだ……四ツ星なんて早かったのかもしれませんね……」


 親友が深く落ち込む様子を、エナは見ていられない。

 コウタ……と、恩人の名を呼ぶ。けれどすぐに彼女は首を横に振った。

「ううん……。何でもないわ。いくらあなたでも、賢者様にできなかったことを頼むわけにはいかないよね。ごめん」

「心配しないでいい。から」


 え?――と二人の少女が聞き返す。


 コウタは穏やかな微笑みを浮かべたまま、聖杖ヴァーリヤを差し出した。

 イスナは戸惑いながら手に取る。

 直後、愛用の杖から魔力が溢れ、彼女の黒髪をふわりと波打たせる。


 コウタは言った。

「頑張ってるところは見てたから、応援したかった。手伝いができてよかった」

「まさ、か……。解いた……のですか? 賢者様ですら手が付けられなかった呪いを……コウタさんが……?」

「うん」

 イスナだけでなく、エナも驚愕きょうがくの表情で固まった。


「コウタさん……。あなたは、一体何者なのですか……?」


 コウタは微笑むだけで、何も答えなかった。



 ――その後。

 エナとコウタが見守るなか、イスナは改めて課題を完遂した。それは四ツ星どころか、エナと同じ五ツ星の実力と言ってもまったく遜色そんしょくない出来映えであった。


 イスナを陥れようとした犯人は、結局表に出てくることはなかった。

 その代わり、魔力の類似性を一目で見抜いたコウタによって、犯人はしばらく悪夢にうなされることになる。



 ――街を出ようとしたコウタの服を、ぐいっとつかむ手があった。

「こら。どこに行くつもりなのよ」

「エナの言う通りです。ひどいですよ、コウタさん」

 振り返ると、聖剣と聖杖の少女が揃って頬をふくらませていた。

「まだあのときのお礼も済んでないんだからね。勝手に旅に出るのは許さないわよ」

「そうです。それに、あれほどの技術と魔力をお持ちなんですから、活かさないともったいないです。


 どういうことだい? と、コウタが問うと、二人は一転して笑みを浮かべた。


 嬉しそうな。

 照れくさそうな。

 誇らしそうな。

 そんな、とても魅力的な笑顔。


「エナから聞きました。コウタさん、学園に興味がおありなんですね。喜んで頂けると嬉しいのですが」


 せーの、と二人が息を合わせる。

 

「ようこそ! メガロア高等魔法学園へ!」



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