十 …… 十月四日、深夜
◆十 …… 十月四日、深夜
ベッドから、規則的な息遣いが聞こえてくる。少女はもう、眠りに就いたようだった。
(これは……決まりだろうな)
本人に直接の確認こそしていないが、今日までの経緯から考えて、少女とセリーヌは同一人物ではないと見て、間違いなさそうだった。
決定打となったのは、やはり林檎の一件である。
少女は、セリーヌがあんなにも嫌っていた林檎を見せられて、一切の動揺を示さなかった。それどころか、ダニエルが剥いた林檎を、美味しそうに食べていた。
戦々恐々としながら林檎を差し出すダニエルに対して、大きな声で『いただきます』などと言うので、逆にこちらが動揺してしまったくらいである。
ダニエルは、棚にずらりと並んだ彫刻群を、感慨深げに見た。
梟……雀……狐……兎……蝙蝠……それから、栗鼠。
これらの、森の動物たちをイメージした彫刻は、この一年間、暇を見付けては作り続けたものだった。
もし、いつの日かセリーヌが帰って来た時、棚を埋め尽くした彫刻を見て、少しでも心を癒してくれたならいいと、そう願ったのだ。
ダニエルは棚に近付いて、一つ一つ、彫刻を手に取った。あの日の朝、梟の彫刻を見せた時の、セリーヌの笑顔を思い出す。
「う……」
小さく、呻くような声がして、ダニエルはベッドに目を向ける。コンフォーターの中で、少女が体を動かした。
(……今度こそ、上手くやる。彼女に、自由で、平穏な暮らしを取り戻す)
ダニエルは決意する。そして、手にした彫刻を、そっと棚に戻す。
(と言っても、あまり気負い過ぎるのも良くない。俺の緊張が彼女にまで伝わって、窮屈な思いをさせてしまったら、元も子もないからな)
少女は眠りながらも、目に見えない誰かと会話でもしているように、もごもごと口許を震わせる。もしかしたら、夢を見ているのかもしれない。
「みゅう」
何事か呟いて、少女がまた体を動かした。コンフォーターが、肩から腰のあたりまで摺り落ちる。
(暇があれば、何かしら気分転換になりそうな提案をしてみるのも、いいかもしれないな)
ダニエルは少女にコンフォーターをかけ直して、椅子に座る。
(物を作ったり、外で遊んだり……他には、何かあるだろうか……)
考えつつ、ダニエルは眠りの海の中へ、ゆっくりと沈んでいった。
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