四 …… 十月三日、昼
◆四 …… 十月三日、昼
ダニエルと少女は、肩を並べて、一緒に仕事をしていた。ダニエルが玉切りを、少女がその横で枝払いを担当する。
少女は、微熱とはいえ、つい昨夜まで熱を出して寝込んでいた。無理をするのは良くないからと、ダニエルは小屋で休んでいるよう諭したのだが、それでも少女が粘るので、結局、仕事場に連れて行くことにしたのだ。
「疲れないか?」
ダニエルが聞く。
「いいえ」
と、少女は首を振った。手に持った小振りの鉈が、太陽の光を反射して煌く。小さな身体の割には、意外と体力があるものだとダニエルは感心する。
(こうして誰かと一緒に仕事をするというのは、何年ぶりになるだろう)
ぎこちない手付きで鉈を扱う少女を横目で見ながら、共同作業と言うのも存外悪くない、と、ダニエルは柄にもないことを考えた。
思い起こせば、セリーヌと一緒に居た時は、二人で仕事をしたことなどなかった。言葉にこそしなかったが、彼女の外出を規制していた。いつも心のどこかに、騎士団に見付かりはしないかとの懸念があったからである。それがセリーヌにとってストレスとなり、あのような結末を招いたとは考えられないだろうか。
そうだとすれば、何とも愚かしい。この深い森の奥で、騎士団の目に留まる可能性が、どれほどあるというのだろう。そんなものは、隕石に当たって死にはしないかと思い煩うくらい、下らない取り越し苦労に違いなかった。長年この森で働いていたダニエルだが、今まで一度だって、騎士団と鉢合わせしたことなどなかったのだから。
仕事を手伝ったり、川で水汲みをしたり、小屋の周りを散策したり……何かにつけて外の空気を吸う。それが、このような閉塞的な生活で生じるフラストレーションを解消する、唯一無二の手段なのかもしれない。
ダニエルは仕事の手を休め、空を見上げる。太陽が、丁度頭上の位置で輝いて、正午を知らせていた。
「そろそろ休憩して、昼にしようか」
「はいっ! ……そうしましょう」
はしゃいだ声で返事をしてしまったのが恥ずかしかったのだろう。そうしましょう、の辺りから、声が小さくなる。
二人は仕事道具を置くと、木陰に腰を落ち着けた。ダニエルが、バッグから水筒とパンを取り出す。
「毎日、こういったお仕事をしているのですか?」
水筒の水を飲みながら、少女が聞いた。
「まあ、忘れた頃に休みは取るが……毎日と言えば、毎日だな」
「大変なんですね」
「それでも、随分楽になった。仕事が軌道に乗り、生活が安定してきたからな。本当に大変だったのは、最初の頃だった」
「最初の頃?」
「ああ。最初は、今住んでいる、あの小屋も無かった。屋根があるだけが取得といった安宿で寝泊りしては、木こりの仕事と小屋の建設を、並行して行っていた。当時は木こりとしても新参だったから、木材の卸し先にも、俺が営業に行かねばならなくて、目が回るくらい忙しかった」
「そうだったんですか……」
少女は何かを考えるような仕草をして、台車に目を向けた。台車には材木が隙間なく詰め込まれていた。
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