一 …… 十月一日、深夜
◆一 …… 十月一日、深夜
セリーヌは暗く深い森の中を、あてどもなく彷徨っていた。
露出された素足は小石や木の根で傷つき、ただ一着の衣服である黒いローブも、雨の中を歩く内、水を大量に含んで、鉛のように重い。
素肌に張り付いたローブが、真綿で首を絞めるように、じわじわとセリーヌから体温を奪っていく。
セリーヌは薬師見習いとして、薬草作りを生業として生活していたが、それが災いしたのか、魔女の疑いをかけられてしまい、教会に追われる身となった。
セリーヌは魔女である。そう密告したのが誰であったのかは、今となっては知る由もないし、知りたいとも思わなかった。
心当たりだけなら、山ほどある。言葉が話せないセリーヌは、いつだって、人々から奇異の視線を向けられていたのだから。
(もしかしたら……私は数少ない『本物』の魔女だったのかもしれない)
セリーヌは歩くのを止め、立ち止まる。目の前には、一本の大樹が聳え立っていた。
(だから、こうして、魔女として死ぬのがお似合いなのかも)
大樹に凭れ掛りながら、つい、そんなことを考えてしまう。
何の前触れもなく、その場所の、一年後の未来が視えてしまう異能。勝手気侭に不幸を予告して、肝心な時には何の役にも立たない異能――これが魔女の呪われた力でないのなら、一体何だというのだろう。
雨が、身体に沁み込んでくる。寒気と眠気が一遍に襲ってきて、セリーヌは目を閉じる。
(この大樹の懐を、最期の場所にしよう)
セリーヌはそう覚悟を決めた。もう歩くのにも疲れた頃だから、丁度いい。
大樹の根に、ソファの肘掛けのように両腕を置いて、項垂れる。眠るように、安らかに逝けることを祈りつつ、セリーヌは意識を手放した。
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