十八 …… 十月六日、深夜
◆十八 …… 十月六日、深夜
風のない、静かな夜だった。蝋燭の燃える微かな音だけが小屋の中に響いている。そんな中、ダニエルは一人、机に頭を押し付けるような姿勢で考え込んでいた。
このまま、時間を浪費していても仕方がない。明日あたり、オディロンと接触しよう。そう決めたまでは良かったのだが、この期に及んで、仲介人となる第三者が思い当たらなかったのだ。
(酒場のマスターは……駄目か。そこそこ親しいつもりだが、信頼できるほどでもない。露店の主人も……駄目だな。それこそ、知り合いだというだけだ)
ダニエルは改めて、自分の人脈の乏しさに絶望した。思わず、自嘲的な苦笑が漏れる。
(これでは、いざと言う時、どこにも頼ることができないではないか――)
そう考えてから、いや、と思い直す。仮に、ダニエルが多方面に顔が効くような人間だったとしても、この状況下で頼れる人物を探すのは至難だろう。交遊関係が広い人間ほど、何があっても信頼できる一人、というのはいないのが世の常だ。どちらにしても、二人の生命を預けても大丈夫だと確信できるような、信頼できる人物など、そうそう見付かるわけがない。
(と、すれば……)
もしかすると、ダニエルの素性すら知らないような赤の他人に、偽名でも名乗り、金を手渡した上で、オディロンとの接触を依頼した方が危険は少ないのではないか。
(しかし、そうなると金がかかり過ぎる。国境監視員に払う賄賂も、リールでの当面の生活費用も必要で、それを確保できる見通しもまだ立っていない)
それに、曲がりなりにも『情報屋』のオディロンである。何かの拍子で、何者かが正体を隠して接触してきた事実を知られてしまい、何故そんなことをしたのか、と興味を持って、あれこれと詮索し始めたら……
どんな手を打つにせよ、不安要素は尽きない。思考は狂った羽虫のようにぐるぐると、同じ場所を飛び回る。これ以上考えても、良案は浮かびそうになかった。
(ともかく、明日だ。明日、町へ出て……それから、考えよう)
それだけ決めると、ダニエルは机に押し付けていた頭を上げて、椅子に深々と寄りかかった。首を下に向け、目を瞑る。
(俺は……この閉塞した状況を、打開することができるのだろうか)
漠然とした不安が、ダニエルを苛む。耳を澄ましても、物音一つしない静謐な夜だというのに、暫くは眠れそうもなかった。
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