十四 …… 十月五日、深夜

◆十四 …… 十月五日、深夜


 ダニエルは溜め息をついて、彫刻刀を膝の上に置いた。目を擦り、額に人差し指を、米神に親指を押し付ける。窓の外は、うっすらと白み始めていた。

(連日の徹夜は、身体に堪えるな)

 首を動かし、肩を回す。関節が音を立てて軋んだ。

 昨夜に続いて今夜も、作業に没頭している内、夜が明けてしまった。

(我ながら呆れる。まったく、どうしてこうも集中できるものか)

 自嘲気味に心中で呟くが、考えるまでもなく、その答えは明らかだった。

 今までのダニエルは、一人だったから。いかに素晴らしい彫刻作品を作ったとしても、誰の目にも触れない。彫刻は、ダニエルの自己満足の域を出ない。

 しかし、今は違う。ダニエルは今一度目を擦ると、ベッドに横たわる少女に目を向けた。

(俺は、一人ではない)

 その一事が、ダニエルを後押しする。ダニエルが作り出した彫刻が、少女の心に影響を与えている――それが純粋に嬉しかった。

 だからこうして、ダニエルは毎晩、寝る間も惜しんで作業を続けることができる。

(さあ、もう少しだ)

 ダニエルは、膝の上に置いていた彫刻刀を握り直す。

(もう少しで完成する……)

 とは言え、積み重なった寝不足も祟り、眠気は限界を迎えていた。口元を押えて、大欠伸を一つする。涙腺が緩み、視界が滲んだ。

 彫刻刀を握ったままで、手が膝に落ちる。ダニエルはそのまま、うつらうつらと舟を漕ぎ始めた。


――――※――――

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