十 …… 十月四日、深夜

◆十 …… 十月四日、深夜


 蝋燭の灯りで手元を照らしながら、ダニエルは一心不乱に、右手に握った彫刻刀を動かしていた。

 木片が、あっという間に形を成していく。ダニエルがふっと息を吹きかけると、粉と化した木屑が一斉に宙を舞う。

 凛々しい眉に、円らな瞳。木屑の中から現れたそれは、梟の上半身だ。

 ダニエルは一段落ついたとばかり、手に付いた粉を払い、目を擦った。それから、棚に視線を向ける。置かれている梟の彫刻と目が合った。

(これで半分、と言ったところか。夜明けまでには仕上げてしまいたいが、あまり根を詰め過ぎても良くない。少しばかり、夜気にでも当たって休憩するとしよう)

 ダニエルは彫刻刀を机の上に置いて、椅子から立ち上がる。裏口に向かおうとした処で、ベッドから、かさりと布の擦れる音がした。少女が寝返りを打ったようだった。ダニエルは少女を起こさぬよう、極力足音を消して裏口へと歩いた。

 冷たい空気が小屋の中に入り込まないよう、早々に裏口を閉め、扉に寄りかかる。夜風がふわりと、全身を撫でていった。ダニエルは作業ですっかり熱くなった両手を開いて、風に晒す。

(思えば、今まで。これだけ時を忘れて、夢中になって作業に打ち込んだことはなかった)

 心地良い疲労感が、ダニエルを包む。久しく忘れていた何かを思い出したような、爽快な気分だった。

(外に出る前に見た、あの彫刻――さしたる理由もなく、手慰みにと作ったあれは、完成するまでに数日を要した)

 それなのに今度は、同じような彫刻を一晩で作ってしまう勢いだというのだから、当のダニエル自身も、その仕事ぶりには驚く他ない。

 どこかから、梟の鳴く声が聞こえた。


 ――早く続きを――


 ――私に愛すべき仲間を――


 もしかしたら、そのような催促をしているのかもしれない。そんなことを考えて、ダニエルは可笑しくなった。

(ようし、続きに取り掛かるとしようか)

 ダニエルは開いていた両手を握り締め、小屋に戻る。夜明けまでには、まだ大分時間がありそうだった。


――――※――――

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