一 …… 十月一日、深夜
◆一 …… 十月一日、深夜
セリアは暗く深い森の中を、あてどもなく彷徨っていた。
露出された素足は小石や木の根で傷つき、ただ一着の衣服である黒いローブも、道なき道を歩く内、木の枝に切り裂かれて原型を留めていない。
素肌に直接降り注ぐ冷たい雨が、真綿で首を絞めるように、じわじわとセリアから体温を奪っていく。
セリアは薬師見習いとして、薬草作りを生業にして生活していたが、それが災いしたのか、魔女の疑いをかけられてしまい、教会に追われる身となった。
セリアは魔女である。そう密告したのは、薬草作りの師匠リュシーだった。セリアは偶然、リュシーとその恋人、騎士団長テオドールの会話を聞いてしまった。
セリアの存在が邪魔になった。そんな短絡的な理由で、リュシーとテオドールは秘密裏に、セリアを魔女として告発する準備を進めていた。
しかし、知ったところで、セリアには何もできない。己の無力を噛み締めながら、枕を涙で濡らす他ない。翌朝、セリアは仕事場に踏み入って来た騎士団に身柄を拘束された。
リュシーはあくまで他人事のような、冷ややかな目でセリアを見つめていた。怨みや憎しみといった感情よりも、身近にいる大人に裏切られた衝撃の方が大きくて、暫くは茫然自失として、何も考えられなかった。
セリアは身包みを剥がれ、汚い檻に閉じ込められ、起訴から判決まで予定調和の、一方的な裁判にかけられた。
結論ありきの議論なのは最初から解っていたことだから、主文が読み上げられる時も緊張したりはしなかった。
処刑場へ連行される途中、セリアは隙を見て逃げ出した。そしてそのまま、森に身を隠した。
行くあてはない。どこにもない。半日近く森を歩き続けたセリアの精神的、肉体的疲労は限界を迎えつつあった。
ついにセリアは力尽き、一本の大樹の根元に、崩れ落ちるようにして座り込んだ。
拷問の果てに死に、魔女として死体を晒し者にされるよりも、森の中で餓えて死に、土に還る方が余程いい――朦朧とする意識の中、セリアはそんなことを考えていた。
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