第45話 真相を求めて
あれは去年の夏のこと。その現場を最初に目撃したのは
転落した陽向君を見て救急車を呼んだのは慧ちゃんだ。そのまま病院まで付き添ったけど、家に帰された。だから病院に運ばれた陽向君がどうなったのか、私達は知らない。
私達は家族じゃないから詳しいことは教えてもらえなくて。陽向君は葬儀すら行われないままひっそりと、どこかに眠った。私達は陽向君がどこに埋められたのかも知らされていないし知ることが出来ないまま。
陽向君の保護者を見たことはない。住んでる場所だって、なかなか教えてくれなかった。慧ちゃんがスカイボードで陽向君を尾行した時は、トーキョーの研究所に帰ったらしくて。普通の子と違うってことしか、私達は知らない。
最近になって、どうやら陽向君はデザイナーベビーらしいってことを知った。そして、陽向君の心臓はおそらく、翔君の体の中にあるってことも。私も慧ちゃんを介して聞いたから何が正しいのかまでは分からないけど。
「ねぇ、響さん。響さんは幽霊っての、信じる?」
陽向君に思いを馳せていると、翔君の言葉で現実に引き戻された。だけどその会話はどこか現実味がなくて。思わず笑ってしまう。
幽霊なんて、昔の人が作り出した妄想じゃないの。死んでしまった身近な人を思うあまりに作り出した、悲しい妄想。今どき信じる人なんて、オカルトマニアくらいじゃないかな。
もし幽霊がいるなら、陽向君がいるはずだから。陽向君もおじさんもおばさんも幽霊として存在して、慧ちゃんを支えてくれるはずだから。真っ先に慧ちゃんの前に姿を現してくれるはずだから。
「どうしたの、急に?」
「いや、なんとなく。もし、陽向の幽霊がいたら、響さんはどう思うのかなって。ただ気になっただけ」
陽向君が幽霊として目の前にいたら私は……どうして死んだのか、知りたいな。翔君のために死ぬ必要があったなら、どうしてスカイボードに乗って死んだのかな。他にも死に方なんてたくさんあったよね。
心臓移植のために死ぬんだったら、脳死になるんだったら。スカイボードから転落しなくても良かったと思うの。痛いだろうし、頭じゃないところを打ったら脳死にならないし、下手したら……即死しちゃうよね。
死ぬ手段としてスカイボードを選んだのはどうして。飛べないはずのスカイボードに乗って、開かないパラシュートを背負って。あの日、陽向君はどうしたかったのかな。何を伝えたかったのかな。それを、教えて欲しい。
「陽向に聞きたいこと、ある?」
「……たくさん、あるよ」
「そんなに?」
「うん。一年以上気付けなかった、陽向君の不自然な死に方について、色々聞きたいよ。『結果的に慧ちゃんを苦しめてなにをしたかったの?』って、問い詰めたいよ?」
陽向君が目の前で落ちたことで、慧ちゃんはたくさん苦しんだ。陽向君の死を自分のせいにした。陽向君が死んだことで、スカイボードで空を飛ぶことがそれまで以上に怖くなった。苦しいのに泣くことも吐き出すことも出来ずに、一人で苦しんでた。
何か理由があったのかもしれない。だけど、話せないのに、その意図が伝わるはずないんだよ。せめて遺書か何か残してくれればよかったのに。目の前で転落死した。それが、私達の知るただ一つの事実なんだから。
「……だってよ?」
翔君が何も無いところに向かって、ボソリと小さな声で呼びかける。まるで、そこに陽向君の幽霊がいるかのように。そんなはずないのに。陽向君がこの世にいるはず、ないのに。
「翔君?」
「あ、いや、ただの独り言。気にしないで」
「本当に? 何か隠してそうだなー」
「そんなことないって。あ、俺、砂月さんに呼ばれてたの忘れてた。サンドムーンに行ってきます」
奇妙な独り言と違和感を残して、翔君は逃げるように家を飛び出していく。だけど焦った態度と困惑した顔が物語る。さっきの「幽霊」の話も、独り言も、偶然したものじゃない。翔君は私達に何かを隠してる。
ねぇ、陽向君。もし本当にここにいるなら、姿を見せてよ。私と慧ちゃんの前に現れて、話しかけてよ。慧ちゃんに今一番必要なのは、私でも他の誰でもなくて、陽向君の言葉だから。きっとね、他の誰よりも陽向君の言葉が一番、慧ちゃんに響くと思うんだ。
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