第8章 飛べない鳥は鋭く瞬く
☆慧
第37話 追憶者
砂月の首元、深緑色のマフラーの下から落ちたロケットペンダント。ちぎれた鎖も、金属製のロケット部分も見覚えがあって。嫌な予感がしたんだ。
「ごめんなさい。
砂月の言葉が頭の中で繰り返される。でも砂月。謝る必要なんてない。砂月が悪くないって、僕は知ってるよ。だって、そんなの、ただの結果論だもん。
砂月は「西の方のすごーい一族の末裔」で。トーキョーに来るために、父ちゃんが守った人で。父ちゃんが砂月を守って死んだのは、任務のせいだって、僕はわかってるから。なのに――。
「……それ、どういうこと?」
問いかける僕の声は、思ったより震えてて弱々しくて。アナログ時計の針がチクタクと動く音に、呆気なくかき消されてしまう。こんな冷たく言うはずじゃなかったのに。
床に落ちたロケットペンダント。拾いあげれば、ロケットの部分から僕の写真が出てきて。その写真もロケットペンダントも、間違いなく父ちゃんの物で。
砂月の話を聞きながらも、僕は父ちゃんに思いを
☆
父ちゃんも母ちゃんも護衛官だ。偉い人の身を守るのが仕事。体を張って人を守るから、いつ死ぬかわからない。母ちゃんはたまにしか仕事にいかないけど、父ちゃんはしょっちゅう仕事に行く。
そんな父ちゃんはいつも、首にロケットペンダントをかけていた。ロケットの部分には僕の写真が入ってる。僕の写真を入れただけのそれを、父ちゃんは「お守り」って言って、いつだって持ち歩いていた。
紙媒体の写真も、金属製のロケットペンダントも。トーキョーではあまり見ない、旧時代由来の物。護衛官の仕事で西の方に行った時に見つけたんだと、父ちゃんは言っていたっけ。
キョートとかいう西の都市で見つけたという、カメラという物。スマホに内蔵されたカメラとは比べ物にならないくらい大きいそれは、黒い直方体のボディをしていて。ボディの中央に大きなレンズを持っていた。
「慧。笑って笑って」
「いきなりなんだにゃ」
「いいからいいから。このレンズに向かって笑ってよ」
「えー」
「ほら、スカイボードも一緒でいいから」
「うー」
「慧ー。写真撮るよー。ほら、笑って笑って。スマーイル!」
「言い方変えても変わんないにゃ!」
キョートで買ってきたカメラという物を僕に向けて、笑うように言ってきた父ちゃん。仕方なくスカイボードを片手に笑うと、カシャリと虚しい音が鳴って、眩い光が僕を襲う。
護衛官は偉い人を守るのが仕事。トーキョーとキョートの間を移動することも多くて。父ちゃんも母ちゃんも、家を空けることが多い。それでも僕は、二人が帰ってくるって知ってたから、我慢して待ってた。
父ちゃんはスカイボードと銃を身につけていた。ある時はスカイボードに乗りながら、ある時は歩きながら。必要なら銃を発砲する。そうやって色んな人を守る姿が、誰よりも好きだったんだ。
スカイボードを教えてくれたのは父ちゃんだ。僕がスカイボードを始めたのも、スカイボードに乗るのも、全部全部父ちゃんがきっかけだ。僕は、父ちゃんみたいになりたかった。それだけだったから。
ねぇ、父ちゃん。僕、少しは父ちゃんに近づけたかな。響のこと、護衛官だった父ちゃんほどとはいかないけど、守れてるかな。
砂月が父ちゃんの死んだ日のことを教えてくれた。僕も覚えてるよ、父ちゃんと母ちゃんの死を知らされた日のこと。砂月は知らないかもしれないね。
あの日が、父ちゃんと母ちゃんの死を知らされた日が。僕の二番目の転機だったんだ――。
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