第6話

「つっ…」


引っ掻かれたような痛みを額に感じ、イツキは目覚める。額には葉っぱの形をしたおそらく絆創膏であろうものが傷に貼り付けてある。


「この世界にも絆創膏みたいなものがあるとはな。それに、あの猫耳女っ」


この世界にも絆創膏があったことに感謝し、同時に気絶の直前に見えた、おそらくイツキの異世界での3度目の気絶の犯人の猫耳女を恨む。


「この世界に神様が存在していた時から居るんじゃないかって考えてたけど。モロだな。想像通りでびっくりするな。」


ーーまぁ、獣っ気が強過ぎたら強過ぎたでなんか嫌だけどな。


と、くだらない思考を巡らせ、ふと周りに気配る。


「俺がさっきまで寝てたのは、ベット、でその近くには簡易テーブルか?そして視線の前方にはドアらしきもの。そして後ろには本棚か?それらしきものが置いてある。」


ーーこれらの状況と、今までの俺の記憶を合わせて考えるに…


「俺の部屋か?」


途端、結論を出したイツキの背中に悪寒。いや、イツキの中に他人の存在が無理やり混入してきた。


ーーせーかいっ!よくできました。


ーーこの声!ユシルか!


ーーどう?今の感覚?


声越しにニヤニヤしてるのが伝わって来る。


ーーお世辞にも気持ちいいですなんて言えねぇな。自分の存在が掻き回させてる感じで気持ち悪い。


ーーまぁいずれそれも心地よく感じる時がくるさ。


ーー来たらいいな。


絶対こねぇな…と思いながらイツキは答える。

と、ふと視線を枕元に移すとそこに綺麗に洗濯して畳んで置いてある制服が目に入り、自分の部屋であると言うことに確信が持てた。


ーーともかく君には私の威圧が通じなかったからね。少し悔しかったからいい気分だ。


ーーまるでお通じが良くなったような声でいいやがるな。


ーー私の威圧は加護持ちでも多少は通じるんだ。それを君は全く感じてないようだったし。


今度は悔しさが声越しに聞こえてくる。実はに感情豊かな奴かもな、とイツキは思う。


ーーユシルに威圧とか出てたっけ?


ーー君が特別なのか、それとも途轍もなく鈍感なのか。はたまた不明だが私の見解をいわせてもらうと後者だと思うんだが。


ーーなんか俺の評価低くねぇ?


ーー冗談だよ。じょーだん。それより!この部屋の構造すごいでしょ。これ私が力を使って作ったんだ。大事に使ってね!


大事に使ってね!だけキャラが違えよ。と思ったが、


ーーああ。わかってる。ちゃんと感謝してるよ。後はと、気持ち悪いけど、俺の中にお前の存在を受け入れればいつでもお前と話せるってわけか。


ーーうん。それで間違いないよ。存在を受け入れるっていうのはいわゆる慣れだし。君なら早く順応出来るだろうよ。君が私を欲したとき。必ず答えることを約束しよう。


ーーああ。なにからなにまで丁寧にありがとうな。


ーー礼には及ばないさ。言ったろ、君には返しきれない恩があるってね。あ。夕食の時間になったら使いを送るから、それまでゆっくりしててね。別に外に出てもいいけどさっきみたいな気絶は無しで頼むよ。


ーーいや。もう気絶はこりごりだ。夕食まで部屋でゆっくりさせてもらうとするよ。


ーーそうか。それじゃあ。また夕食の時に。


と自分の中からユシルの存在が抜けるのが分かり、普段の自分に戻る感覚を覚えた。


「ふぅ…」


再びベットに横になったイツキはまた思考を巡らせる。


「まず転生初日に関しては完璧じゃねーか。衣食住は安定したし、現時点でおそらくこの世界の神、に近い存在と好きな時に話せる力も手にしたし。」


満足気な顔でイツキは天井へ両腕を上げ、閉じたり開いたりを繰り返す。


「でも今日の状況は正直ヤバかった。一言で表すなら不幸中の幸いって言ったところか。」


繰り返していた手を閉じたままにしてイツキは思考を巡らせる。


「まずは不幸。両親、親友や色々な人。それになんといっても悠莉との別れだ。」


未だに異世界転生したと実感が湧かない。今にでも外に出れば家に帰れそうな感覚がイツキにはあった。


「そして幸い。これはまず日本語が通じたこと。異世界で日本語があるなんて根本的におかしいから、あの、怠けた声の主が多分合わせてくれたんだと思う。」


怠けた声の主。こいつから貰った加護・きょせい・貰った瞬間は最弱の能力だと思ったが。


「そしてもう1つの幸いは加護の・きょせい・だな。思えば今日は二回発動したと考えていい。まずは厨二病衝動を抑えきれずにやってしまったバ○ス。これによって争ってた2人は攻撃を辞め、こっちに意識を置いてきた。そして二回目は満身創痍のミオを抱いてアザエルに対峙したときか、この二回の発動状況から考えてスイッチとなるのは」


あれだ、一度目は自信満々、二度目は明確な覚悟を持って。


「強い気持ちが相手に向いていた時、か?」


たとえ、虚勢だけの能力だとしても彼女を守れたんだ。能力をくれた怠けた声の主には感謝しよう。


「この加護。使いようによっちゃぁ、捨てたもんじゃねぇな。」


とイツキが自らの加護の活用法を模索していた時。


コン、コン。と前方のドアから音がなった。


ーーもう夕食か。案外早かったな。


「どうぞー?」


イツキがそう言うとドアがゆっくり開いていって一人が入ってくる。フードを被り、顔を隠していたがイツキにはそれが誰かすぐにわかった。


「ミ、ミオ?だ、大丈夫?なのか?」


そう言われるとフードを外し、白の髪をなびかせる。


「うん…」


こくん。というジェスチャーと同時に彼女が言葉を発する。


「よかった。君に何かあったらどうしようかと思ってたよ。」


と、素直な気持ちを素直な言葉で述べる。


「なんで初めて会った人の事なんか命懸けで守ったりするの?」


暗い表情で、不思議そうに聞いてくる。


「それは君が初めて会った俺なんかを命賭けて守ってくれたからだよ。」


あたりまえだろ?と続けると、ミオは少しずつ息を乱し、嗚咽を含み、目に涙を浮かべた


「ちょ!ミオ?ミオ?どっか痛む?やっぱ傷が治ってなかったのか。ユシルめ、手抜きなんかしやがってっ」


「ちがうのっ。ちがうのっ。私、ただ嬉しくて、だから涙がでてきちゃって。。」


ぐすっ。と途中で言いながらもミオは言葉を一言一言紡いでいく。


「私のこと恨んでないの?」


瞬間、イツキの頭に?マークが浮かぶ。


「恨むところも要所も一切ねーよ?第一、君も俺も!自分の足で立って歩けてる。それで十分。まさに終わり良ければすべて良しって感じだろ?」


ーーどこまでお人好しなんだよ。むしろ助けられた方なのに。


ミオは一瞬考えるようなジェスチャーを取ると納得したような動きの後続けた。


「私なんかに助けられて嫌じゃないの?」


「なにを言ってるのか分からないけど、君が俺を命賭けて守ってくれた。だから俺も君という人間を死ぬ気で守れたんだ。だからその過程がどうであれお互い救われた。だから君には、ミオには感謝してる。」


「感謝だなんてそんな。私全然イツキの迷惑になることしかやってないのに。」


「そんなことないさ。君がいなかったら俺は今頃あのイカれた目をした奴らに連れていかれてたさ。だからさ。ミオが責任感じたりする必要は一切ない。あのさ!初めて見た時から思ってたんだけどさ」


「なに?」


「笑顔!笑顔が素敵だよ。泣いてる顔なんて似合いやしねぇ。」


と、イツキはミオの頬を伝う涙を手で拭いながら言った。しばらくしてミオの顔から涙は止まりその代わりに口角が優しく上がっていって…


「うん!」


と言うとミオは優しく微笑んでくれた。その笑顔に悠莉を重ねてしまったが。こいつはミオ、ミオだ。そう思わせてくれる笑顔だった。

それだけでイツキは異世界に来た意味さえ満たされた気持ちになった。











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