第5話
薄暗い洞窟を駆け抜ける影が1つ。
満身創痍、今にも命の糸が途切れそうな白の少女ソフィア:ミオを背負いイツキは出口を目指し全力で駆け抜ける。
「っはぁ…はぁ…死ぬな。死ぬな!ミオ!!」
しかし返答はない。彼女の体は驚くほど軽くなっていて。肉体のタイムリミットが近いのがイツキにとなんとなく分かる。
「誰か!誰かいねぇのかよ!誰かこの傷を治療してやれる奴は!」
ヤケクソで叫んでみたがやはり誰1人応えてくれはしなかった。
ーークソックソックソッ!!
ーーまだ助けて貰ったお礼もしてねぇし!バ◯ス教える約束も果たせてねぇ!
途端眼前が一気に明るくなる。
洞窟の出口だと確信したイツキは更にスピードを上げる。
「死なせたくねぇぇぇ!!」
イツキは腹の底から叫んだ。と同時に洞窟から脱出。すると途端。頭の中に声が聞こえてきた。
ーーやっと洞窟を出てくれたのよ。ちょっと痛いかもだけど我慢してね?
ーーな?!
途端。電気に近い痛みがイツキを襲うと同時にふっと体が浮く感覚を覚え、目を開けると。
幼女が立っていた。
年は小学生四年といったところか。あどけなさが残りまくってる顔に緑色の瞳。しかし顔立ちは揃っており、まさに将来有望株といったとこ。服装はこれまた白基調の生地に緑の葉っぱを散らしたようなデザイン。なんといっても目立つのが身長をゆうに超える長さでいて美しささえ感じさせる緑色の髪。その頭にシロツメクサの花冠のようなものを被っていてまるで天使のようだった。
すると幼女は口を開く。
「その子をミオを早く渡せ!」
途端幼女の声を答えるように地面から無数のツタが生え、イツキが背負っていたミオを引き寄せた。
「な、なにしてんだテメェ!ミオに、その子に何する気だ!お前!」
突然ミオを奪われたイツキは過剰に反応する。
「するにも何にも。治療しかないだろう?しかもこの深手。集中力がいるから話しかけないで。」
と言った幼女は薄緑色の光を手から放っていった。薄緑色の光は満身創痍のミオの体に次々と取り込まれていく。その度に外傷が治っていくのが見える。
「よかっ…た。」
安心してしまったのか、意思に争いフッと体の力が抜ける。そのままイツキ意識は遠のいていった。
「起きるのよ。起きなさい。ナツカワ イツキよ」
やけに賢者じみた声がイツキの精神に直接話しかけてくる
「んー…もう、五分。」
「ったくもう。おーきーなーさーいっ!」
その瞬間頬に強い衝撃を感じ、一気に覚醒、目覚める。寝てる場合じゃ無かったことを思い出す。
「ミオ!ミオは?」
寝ぼけた顔で慌てふためきながら幼女の肩に両手を乗せて聞く。
「峠は越えた。ミオはもう大丈夫よ。」
と。幼女は背後のベットに寝かせたミオを指す。ベットの中のミオは気持ちよさそうに寝ていた。どうやら本当のようだ。
そしていつの間にかイツキは白基調の服に身を包まれていた。
「あれ。俺?着替えた覚えは…ないぞ?」
「私が着せ替えた。」
と。幼女は真顔で言い切った。
「っっ?!ちょま!幼女に着替えさせられるとかどんな状況だよ!それに俺のその息子とかも!」
人差し指を唇にあて、なにかを思い出すようにユシルは言った。
「息子とやらが何を指しているのかわからないがあの貧相だった肉の棒のことか。あまりに貧相だったので刈り取っておいたよ。」
「俺の息子ぉお?」
イツキは幼女の前なのも忘れて股間に手をもっていく。あ、ある!刈り取られてはいなかった。
「冗談だよ。君の奇抜な服はミオの血で汚れてしまっていたからね。使いに洗いに行かせたよ。」
「冗談にもなってなかったぞ。幼女に刈り取られる息子とかどんな状況だよ…でもともかくだ。」
「あんたには感謝しなくちゃな。ありがとう。」
「いやいや。感謝するのはこっちのほうだよ。ミオを救ってくれてありがとう。」
幼女は微笑んでそう言った。幼女の微笑みは高原のそよ風のように優しく思えた。
「ナツカワ イツキ。これで私たちユシル教は君には返しても返しきれない恩が出来たわけだ。」
腕組みをしながらうんうんと頷く。
「そこでだ、ユシル教 教祖の名において君に最大限その恩に報いようじゃないか。」
「あんたがユシル様だったか。」
「ほう。名前までは名乗ってなかったのだがな。そういえばミオがちょっとばかし口に出していたようだが。」
ニヤッと妖艶な笑みを浮かべユシルは答える。
「本当になんでもいいんだな?」
イツキは慎重にユシルに聞いた。なぜならここで得られるものは今後の異世界での生活で基盤となるものだろうから。
「ああ。なんでもいいとも。この世界で一生遊んで暮らせる大金でも、この世界でのある程度の地位でも。私くらいになると大概のことは叶えてあげさせれる。」
今度は自身で生やしたのであろう木のツルに乗り、人差し指を絡ませながら自信ありげに答える。
「それじゃあ容赦無く貪欲に自分の欲望に正直に言わせてもらう。」
出来る限りの悪い顔でニヤッとして言った。
「ああ、どんときたまえ。」
イツキが作り出した謎の空気にごくっと唾を飲み込み、ユシルは覚悟を決める。
「ここ、ユシル教に俺を入れてくれ。」
ポカーンとした顔をユシルは向けてくる。その顔は3秒ほど続き、
「ああ。ごめんごめん。あまりに君の答えに欲がなさすぎて失念していたよ。」
「まぁミオと同じとこに居させて下さいって言った方が早いけどな。それにまずは不安定な俺の生活基盤を固めようって魂胆も悪くねぇんじゃねーと思うんだけど。」
安定した生活基盤。これが、俺に今最も必要なのは明白。それに、何故か悠莉とは無関係とは思えないミオから離れる訳にはいかなかった。
イツキがそう言うとユシルはますます疑問が深まったと言う顔をしていた。
「いいのかい?私たちは元より君をユシル教へ勧誘するつもりだった。それを君からとは正に願ったり叶ったりなのだが…」
「ああ。それで大丈夫だ。あとできれば好きな時に好きなタイミングでお前に質問出来る権利?魔法?が欲しい。」
おそらくこれくらいはできるだろう。と思いダメ元で聞いてみる。
「これまた欲のない要求だな。金銀財宝も不可能ではないと伝えたはずなのだがな。しかし約束は約束だ、お前の要求。許可しよう。」
ーー出来るのかよ…凄えなおいおい。
そういうとユシルは指でちょいちょいと下の方を指した。
「私より下になるのよ。」
とぴょんぴょん跳ねながら頭を掴もうとするユシルだがしかし全然届かない。
「お前って意外と可愛いんだな。」
そう無意識にユシルに言うとユシルの白い顔は茹でタコのように真っ赤になっていった。
「うるさいのよ。」
次の瞬間ツタで一気に身長を伸ばしイツキの頭に張り手を一撃。
ーー結構痛え。
「可愛くねぇなおい!」
と。ユシルは叩いたばかりのイツキの頭にミオを直したのと同じような光を当てだした。ふんわり暖かく心地よい感覚が全身をつつむ。
「お前がからかうのが悪いのだろう?これでも一応神なのよ。」
「え?神様なの?この世界の?」
本物であれば異世界生活イージーモード突入である。
俯いたままイツキは質問する。
「正確には神に近い力を持った人間。そっちの方が正しいな。」
「え?お前人間なの?」
「人間だよ。人間。ただし、半分だけだけどね。神に近づくために神を半分この身に取り込んだ。」
「それじゃあ、お前はなんでさっき神を名乗ったんだ?」
「前任の神たちが全員消え去ったから。私はその神たちの代役をこなしているんだよ。」
と。言い終わると同時にユシルはイツキの頭を優しく叩く。
「これで交信の魔法は組み終えた。これで念じるだけでいつでも私と頭のなかで話せるだろう。」
両手を腰につけフンスと鼻を鳴らし自信満々にユシルは言う。こう見ると本物の小学生だよな。
「あぁ、感謝するよ、ユシル。今後ともどうぞ宜しくって感じだな。」
「ああ。君とは長い付き合いになりそうだ。」
そう言うとユシルはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「ああ。そうそう、君の部屋は手配しておくから後で使者をつかわそう。それまで私の城ヨトゥンヘイム内でゆっくりしててくれたまえ。」
「ああ。存分に探検させてもらうよ。」
イツキはそう言うとベットに横たわるミオを一目みてから部屋を出た。
部屋を出るとそこには長い廊下が続いていた。辺りを照らす火こそはないが、薄暗く周りの壁が光っていて普通に明るい。
ーーーとりあえずと。ミオは無事、俺の生活もしばらく安定、か。初日としては上出来だといえよう。
ーーしかし、神は全員消え去った?少し気になるな。落ち着いたら調べる必要があるな。
と。物思いにふけっていると。
「あぶないあぶないあぶなーい!!そこの君!どーいーてー!!」
眼前には目一杯の火鳥、ではなくて書類が迫っていた。魔法なのだろうか。すさまじい量の書類が空を舞いこっちに迫ってきている。しかしもう遅い。
「ふげっ!!」
一際大きな書類の塊がイツキの頭部を直撃する。
ーーったく、俺今日何度、頭に衝撃を受ければ済むんだ??
「げっ!だ!だいじょうぶ?」
と猫耳をつけた書類の犯人がこちらを覗いてくる
ーー猫耳?ま、まさかこの世界に獣人が!?
そう思った瞬間。ブツリと意識が切れる音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます