第4話


謎の襲撃者は壁を壊した直後、間髪入れずに攻撃を繰り返した。



「リオ〜ザリオーザリオ〜ザァァ!!」


魔法?、だろうか…謎の襲撃者が言葉を唱えると同時に眼前一杯の火球が生み出され、それは鳥のような形に変化し少女。いや、ミオに一斉に迫る。先ほどの壁崩れも恐らくはこの魔法だろう。威力は抜群。魔法初心者のイツキからみても明らかにヤバイ状態だ。


しかしミオは顔色1つ変えず静かに


「メロウ」


そう呟くとそれに反応したかのように大気が揺れ無数の矢が生み出された。生み出された矢たちは少女の弓を引くような動きに従い引かれ。放つような動きで放たれた。水矢は不起訴に動く火の鳥一匹一匹を確実に仕留めてゆく。



「貴方。魔法の練度が低いのよ。」



ミオがそう言うと水矢はそれに答えるように手数が増え始める。瞬く間に水矢は火鳥を一掃していった。



「……」



謎の襲撃者は暫く自分の手を見て黙っていた。が、すぐに攻撃に転じ、先ほどの3倍くらいだろうか、その量の火鳥を生み出す。





水矢と火鳥が衝突するたびに発生する爆発と突風、水蒸気に目を細めながらイツキは思う。



ーーーすげぇ。すげえすげえすげえ!


ーーー魔法とか画面の中だけの話だけだったけどこう目の前でみると迫力とかヤベェな。となるとやっぱアレだな。



この時点ではもう手遅れだったのかもしれない。否。この世界に来てしまったからにはそれも仕方がないと言えよう。そしてイツキは拳を前に突き出して自信満々声高らかに伝説の魔法を唱えた。



「バ○ス!!」



しかしなにもおこらなかった。それもそのはず。ここは異世界。ム○カたちが生きたあの世界とは違うのである。しかも発動条件も揃ってないような気もする。でもまぁそれは置いといて。イツキの渾身のバ○スをよそに本物の魔法使い同士の争いは白熱していって..?



「ちょっと!バ○スってなに?バ○スって。」



ミオはびっくりした顔をしながら聞いてくる。まったくびっくりした顔も悠莉とそっくりだ。



イツキの渾身のバルスで戦闘が中止したようだった。両者戦闘態勢のままこちらを見てくる。


「ごめんごめん。つい言いたくなってさ。発動しなかったのはちょいと残念だけど。この魔法発動条件が難しくってさ、でも発動したらそりゃもう凄い威力で。敵なんか一瞬で崩れ去るくらいの魔法なんだぜ」



「え!そうなんだ!まだ私の知らない魔法があるなんて。この勝負が片付いたら教えて、ね?」



と。ミオは軽く微笑してみせる。気持ちがふっと軽くなるのをイツキは感じた。


ーーったく、どこまでも似やがって。



「あぁ。わかった!約束だ。ただ俺は今戦力になれそうにねぇ。それを踏まえた上でこの強そうな襲撃者さんしっかり倒してね!」



「まかせて!」



ミオは敵を見ながら手を頭に持っていき、敬礼のようなポーズをとった。そして..



「 すぐに。終わらせるから 」



瞬間。イツキの背中に寒気が走った。否。冷たかった。冷たく感じた。尖った氷のような冷たさがその言葉には詰まっていた。しかし緋色の目は今の冷たさとは真逆。復讐の炎を燃やしていた。



「ヘイム教2番隊隊長<聡明>ソフィア:ミオの名において貴方を鎮めましょう。」



そう言った彼女の声は冷たく。それでいて安心させられるような声だった。



「レイア教ォ〜第15箱°回禄°アザエル行くよぉ〜」



瞬間。貼られた糸が切れたように魔法使い同士の攻防が再開された。アザエルの手には炎で作られた槍が握られていた。その槍が振られるたびに散る火の粉が鳥となりミオに向かっていく。しかしミオの周りには青のバリアのようなものが張られその攻撃を完璧に防いでいた。しかも水矢は継続中。水矢があらかたの火の鳥を落とし。たまたま避けられたのを青のバリアが防ぐという完璧なシステムとなったいた。最初は互角だったのだが、のちのち優勢はミオに傾いていき。一矢、二矢とアザエルの体に当たっていき、徐々にアザエルを追い詰める。このまま行けばミオの勝利は確実であろう…




しかし。アザエルは痛みに苦しむどころか笑っている。


ーーまさか!なにか企んで…


「ミオ!」


そして不気味に口角を上げ詠唱した。



「 ディナトォォス・リォォォザァァァ!! 」



男の周りに立ち込める炎の大きさがその技の強大さを物語っていた。



「危ない!!」



イツキはとっさにミオに声をかけた。が、ミオはこちらに意識をむけている。いつの間にか青の盾は消え、そしてキリキリとこちらをねらって矢を引いていた。



「ちょいちょいちょいちょい!たんまたんま!俺だぞ俺!今しがたミオと約束を交わした俺ですよ?」



「どこまでも卑怯なやつね。」



その声とその目は本物だった。アザエルに向いていたはずの怒りが憎しみが。今は何故か俺に向いている。



ーーこれはヤバイ本気でやばい切実にやばい。これって死亡フラグビンビンに立っちまってるじゃねーかよおお!




そう思った瞬間ミオの手から張りに張られた水矢が放たれる。その矢はイツキの顔めがけて一直線。直線は脳天を貫いて


ーーってあれ??


直後。背後で水蒸気が爆発した。どうやら狙いは俺ではなく俺の背後に迫っていた火鳥のようだった。役目を終えた水矢がボロボロと消えていくのが見える。


ーーとりあえずだとりあえず。俺が狙われてなくてよかった事にお茶を一杯飲んでから落ち着いて..って!!そんな場合じゃねぇ!!



「よかった。イツキ。怪我はない?」


ミオが心配そうにこっちを見ている。迫っている魔法には気がついていない様子だ。



「ミオ!!危ねぇ!前!前!」


「え??っつ!!」



時すでに遅し。この状況にはこの言葉が一番合う。これが普通の火鳥ならば問題はなかったであろう。しかしミオが振り向いた時にはすでに迎撃不可能な位置まで火の怪鳥は迫っていた。明らかにスピードと勢いが違う。これがアザエルの切り札か、もうダメだと思ったがさすがはミオ。とっさに火の怪鳥と自分との間に薄く見えたが水のバリアを張り体を屈め、衝撃に備える。


瞬間。イツキを襲ったのは激しい爆風と熱気、それらは徐々に周りに飛び火していった。どちらの魔法が勝ったのか。結果だけ見れば一目瞭然だった。


辺りはひどく爆発の影響で砂塵が立ち込めていて視界はほぼゼロ。しかしイツキは躊躇なく砂塵の中へ、止まるわけにはいかなかった。気がかりなのは爆発の中心にいた少女。ミオである。


「つっ。ミオ。ミオ!無事か?ミオ!」


少女の名前を呼ぶ。先程まで赤の他人だった事はすっかり忘れ、名前で呼ぶ。しかし返答はない。その代わりに酷く粘つくこえでアザエルが叫ぶ。


「ヒャヒャ〜ゲヒャヒャヒャァ〜!」


「ヘイム教のぉ〜<聡明>たるのもがぁ〜?油断でボカーン?これほど滑稽なことがありますかぁ〜?」


酷く不愉快な声、と思えば急にトーンを変え、温かみと深みのある声でそう言った。


「とならば私が回禄し尽くしてあげましょう。」



アザエルが言い終わるのとイツキがそこへ着いたのはほぼ同時だった。

眼下には一杯に咲いた彼岸花、広がる花たちの中心には一輪の白百合の花、綺麗だ。イツキはそう思った。




しかし、全てが見間違いであったことに気がつく。辺り一面に咲く彼岸花はおびただしい量の血液、そして一輪の白百合は苦しそうに倒れこむミオの体があった。



「あ、あ。ミ、ミオ?」



「イ、イツ..キ? だ、だいじょう ぶ?」



さっきの一撃で体力を大分やられたようだった。一言一言絞り出すようにミオが言葉を紡ぐ。



「俺は!俺のことなんか!そんなことよりミオ!お前体が、喉が...」



大丈夫なのか。この言葉がでてこない。それもそうだ。ミオの状況を見ればどちらか一目でわかるからだ。



「おやぁ?聡明さぁん?虫の息みたいですねぇ〜?トドメを刺して差し上げましょう〜」



「アザエルっっ!」


ミオを襲った火の怪鳥。それを放った張本人。沸々と湧き上がった怒りをそのまま言葉にして吐き出す。



「あぁ。フィア〜ナ様に愛されし加護の所有者よ。貴方は愛さ〜れてこの世に生まれてきた。なら〜ばぁ?その恩レイア教の元で働きレイア教に報いレイア教の元で死ぬべきじゃあないだろ〜かっ!」



なんとまぁ。場違いもいいところで。慈愛に満ちた表情でイツキに諭す。しかし慈愛に満ちているのは表情だけで目に宿る狂気までは隠せていない。


「さぁ〜?そこに倒れている<聡明>を〜差し出しっ!貴方は私と一緒に来るのだぁよ…」



瞬間。狂気がイツキの恐怖を支配する。



ー怖い。

ーー怖い。

ーーー怖い。


得体の知らない恐怖。まるで心臓を握られているかのような感覚に陥った。アザエルがイツキに与える恐怖はもはや選択の余地を奪うかのようだった。いや、奪われた。イツキはミオを渡しアザエルに付いていくしか無くなり。..



ジャリッ…ドッ…ジャリッ。




不規則な音が背後から聞こえた。

それをとっかかりに恐怖のループから脱出する。



「っっ…はーっはーっ…ア、アザエルっ。ま、まちなさいっ!」



そこには白基調だったはずの服を自身の血で真っ赤に染めて立つ彼女。ミオの姿があった。左肩は外れているのだろうか。少女の肩にぶら下がるだけになっている。



「彼はっ…イツキ!イツキだけは絶対渡さないっ。」


ミオがそう言い放った瞬間。

身体にビリビリと衝撃が走った。


ーー情けねぇ。情けねぇ。情けねぇ!!


ーー恐怖に負けて。その上女の子に立ち上がらせるようなマネまでさせて。恥ずかしくねぇのかよ!!俺!!


「ほう〜まだ立ち上がる力があ〜?実に鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい〜」


「今度こそ身も!魂も!骨も!タマシイも!残らぬように回録してあげ〜ましょうっ!」


アザエルはそういうと人差し指をリオに向け、詠唱した



「ディナトースリオ〜ザ!!」


今度は落ち着いた声で、相手がいなくなるのを惜しむような声で。


「させるかよ。」


先ほどと同じ、怪鳥火の鳥魔法。威力も力もその目で目にした。しかしそれを全て分かった上でイツキはミオとアザエルの間に体をねじ込んだ。



「な?なにを??フィアーナに愛されし加護者よ!!そんな犬死に無駄死にはやめるのだぁよ!」



「確かに犬死にかもなぁ、しかもせっかく異世界転生でもらった二度目の命。ここで捨てんのにはちょっとばかし勿体無いかもな。」


アドレナリンドバドバ状態で精神だけ無敵モードのイツキは苦笑いして答える。



「でもこの子。ミオを見捨ててまで汚く生きようとは思わねぇ。」



と。背後のミオをイツキは穏やかな目で見つめた。リオを焼いた火鳥がもうすぐそばに迫ってきている…しかし後悔は不思議と無かった。


「自分を命を賭けて助けてくれた女の子1人守れなくて誰が男だよ!」


と、恐怖に勝つために半ば強制的に体を動かす。

今のイツキに出来るのは身を呈して盾になる事くらいだった。


しかし、背後で今にも消え入りそうな声で不完全ではあるが、確かに詠唱が聞こえてきた。


「ディ…ディナトースっ…メロウ!」



イツキの目の前に迫っていた怪鳥に生み出された青の猛獣が向かっていく。ミオの猛獣は青いライオンの姿を形どっていた。2つの暴獣はしばらくぶつかりあった後。激しく水蒸気をぶちまけ消えた。


ドシャッ…ミオが前向きに倒れた。今度こそ限界のようだった。


ーーえ?


「み、ミオ!おい!ミオ!」


ミオの体を何度も揺する。しかし緋色の眼は閉じたまま開けてはくれなかった。


「聡明の最後っ屁が貴方を救ったようだぁね。ああ〜良かった良かった良かったぁああ!?貴方を連れ帰らなければフィアーナ様に報いることはできないのだから〜」


ーーこの子は今さっき会ったばかりの俺を。命を張って救おうとしてくれた。その点俺は見てるだけ。何もできないままで、



ーー情けねぇ。ここで奮い立たなくて何が男だ。



イツキは覚悟を決めて。自分の血で真っ赤に染まったミオを抱く。かつて悠莉が自身にしてくれたように。優しく抱いた。


「おい。アザエルって言ったっけ?。」



「はい?」


なんともまぁアホらしい声でアザエルが返事をする。



「俺はお前には付いて行かねぇし、この少女。ミオも渡さねぇ…」




覚悟をハッキリと口にする。今度は恐怖に負けてしまわぬように、すると体の奥の方で何かが蠢き、そして直ぐにそれらは体を満たし外へと放たれた。



「何を言っているんだぁい?貴方は私に付いてくるのが正解で!聡明もここで回録し尽くすのが正解だよぉ?」




訳がわからないといった感じの顔を傾けながらアザエルは言う。



「邪魔するって言うんだったら。こっちも黙ってないぞ…?」



これまでの人生のなかで一番の怒りを、恨みを込めた声でイツキは言う。するとアザエルは暫く黙って自分の手を見つめていた。


長い沈黙であったが、イツキは一度も気を切る事は無かった。


すると途端アザエルが口を開く。


「ヒャヒャヒャ〜面白い!面白い!貴方のその得体の知れない自信は嘘ではないようですね!むしろ少し恐怖を感じているとでも言いましょう〜!ならばこの勝負。次へのお楽しみとしてっ。」


一度気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして


「今日のところは帰りましょう。私も少しばかり力を使いすぎました。<聡明>命を救われましたね?ゲヒビヒャャ」


といった直後。アザエルは闇の中へ消えていった。


「ミオ。お前は死なせねぇ。」


新たな決意を固め、イツキは風の音がなる方。洞窟の出口へミオを抱え歩き出した





















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る