第3話




「あんた。誰だ?」



イツキは恐る恐る聞く。?だらけの頭からやっとの事で出た言葉はそれくらいだった。


「え???」


白の少女はイツキの驚き様に驚いたのかわずかに首を傾げてこっちをみて。一瞬微笑んだ。



イツキの時間が止まる。否。止まったように思えた。

美しい少女が目の前に居た。髪は肩口までしか伸びていないが色は絹を溶かしたような純白。肌も初雪を思わせるように真っ白。寝てでもいたら死んでいるとも勘違いされるに違いないと思えるほど血の気がない。

しかし、その印象を一気に吹っ飛ばすのが双眸の瞳に宿る炎のように燃える緋色の瞳。服装も白基調で彼女の美しさをそのまま表現しているようだった。


それだけならよかったのだ、この子相当可愛いなくらいでで終われたのだが…



ーーなんで、なんでなんでなんで?悠莉と同じ顔してんだ?



確かに目の色や髪の色肌の色も。違う箇所は沢山あるが、一緒なのだ。顔、声、身長もこれくらいだったような気がする。



「お前は悠莉?なのか?」


そんなはずはないと頭では確信している。普通に考えてとあり得ない。だって悠莉はまだあっちで生きているのだ。だが、聞かずには居られなかった。



「うん。ちょっと貴方勘違いしてると思うの。混乱してるだろうからこれ飲んで少し落ち着いて?」


と、驚くほどあっさり軽く否定され、渡されたものはただの水だった。多分先ほど俺を目覚めさせてくれた水と同じものだろう。そして水袋の飲み口に口を付け、一口、二口。水が喉の渇きを潤してくれるたびに少し落ち着いてきた。



「ふぅ。取り乱して悪かった。君が一瞬、悠…いや、大切な人に見えて。」



「そうなの?でも私はそのユーリさん?じゃないわよ。残念だけど。それで体の方は大丈夫なの?」



頭の方は大丈夫じゃないと思われたようだ。



「ああ。なんとかな、おかげさまで。」



頭に着いた水滴を軽く払いながら言う。


「ふふ。よかった。」



軽く覗き込みながら少女はそう言った。



何がともあれ色々取り乱してしまったが第一村人発見だ。悠莉に激似なのは運命か、はたまた偶然か。


ーーとりあえずと。ここはまず情報収集だよな。



「1つ。質問いいか?」


と。身軽に聞いてみる。


ーーここで拒否られたらだいぶ躓くぞ…


と内心思いつつ…


「1つと言わずいくらでもどうぞ。」


まさかの大勝利!ともかくこの子から情報は得られそうだ。


「じゃあお言葉に甘えて。まずはと…加護ってなんだ?」


イツキは一番気がかりだった、重く怠そうな声が狂おしそうにいった加護。まずはこれを聞いてみた。


すると少女は一瞬驚きの表情をみせ、一旦沈黙。その後に


「ん。ごめん。ちょっとびっくりしちゃった。この世界で加護を知らない人なんかいないから。」


んんっ…と咳払いしてから少女は続ける。


「加護はね。生まれてくるときにその人に見合った能力が身について生まれてくるの。」


それで…と宙を見ながら続ける。


「でもそんな人はごくごく一部なの。だから貴方の口から加護って言葉がでたのと加護を知らないのにびっくりしちゃって。」


ごめんなさい。と彼女は続けた。


「ほうほう。と、言うことは加護は選ばれた人のみ。って訳か。」



一応。初期装備はあるなりにあるってことか。 イツキは最悪の最悪でなかったことに胸を撫で下ろす。


「で。貴方は何の加護に愛されたの?」


白の少女は興味ありげに視線を下げて聞いてくる。


「俺は・きょせい・だよ。なんでも相手に余裕があるって見せつけられるらしい!!」



すると白の少女はまたビックリした表情を浮かべる。


ーーほら!

やっぱきょせいって虚勢だったんだ!最弱じゃねぇか!


「はは。やっぱり弱いよな。俺の加護。」



ナツキは落胆した。そうなのだ、虚勢はこの世界でもしっかり虚勢であった。



「いや!いや!違うのよ!試しに聞いてみただけで。その。加護を人に正直に言うのは危ないっていうか、そんな人いないの。うん。その反応は本当の加護と見て間違いないわね。」



両手を前に出しながらぶんぶん顔と振り回して弁明する。


んんんっ…と咳払いをして白の少女が続ける。


「わたしの名前はソフィア。ソフィア:ミオ。ヘイム教2番隊総長<聡明>担当です」



同時に腰に手を回し。しっかり腰を折って礼をする。

まったく。礼をするにも様になるんだから怖いもんだ。



「あ。俺の名前はナツカワ イツキ。出身は…えっ、と…忘れた。」


東京。と言いかけたが通用しないなぁと思い。忘れたと言っておく。



「え。出身がわからないの?まさか。記憶も?」



「あぁ。何もかもわかんねぇ。でも大切な人だけは覚えてる。で、ここはどこで何なんだ?」



少女にはちょっと悪い気もするが、ここは記憶喪失にあやかろう。



「ユシル様の予言は本当だったのね。じゃあ貴方が魔女の迷子なのか。」


少女は納得したように言った。


「ちょっとまてまて!そのユシル?様が言った予言ってのはどんなのなんだ?」



「もーっ。人の話を聞かないのはあんまり関心しません!」



腕組みをしてため息をつきながら続ける。



「ユシル様はこう言ったの。 今日のお昼過ぎに南の洞窟にて力をもった魔女の迷子が現れると。それだけよ。」


ーー漠然としないが、他に人気の無いこの状況だとこの魔女の迷子とやらは俺で間違いないらしい。ともかくこのユシルとやら。なぜ俺が転生したことを知っているのかも気になる。ともかくだ。当分の目標はユシルって奴に話を聞く、でいいだろう。


mission1〜ユシルに会いに行こう〜

の始まりである。


「それじゃあ最後にもう1つ。ユシル様にはどこに行ったら会える?」


ともかく。この少女から場所を聞く、これが今の現状のベストのはず。


「驚いた!貴方が先に言ってくれるとは思わなかったもの。手間が省けて何よりね。さぁついて来て!」


そう言って少女は手を差し伸べる。もちろんこの手を取らない選択肢はない。


「それで?どこにいくんだ?」


「私たちの本拠地。世界樹神ユシルが作った木の神殿。ヨトゥンヘイムよ?」


白い少女が軽く微笑んで言う


「ははっ本当に悠莉にそっくりだな」


彼女に聞こえないようにイツキはそっと呟いた。

なんとかなりそうだな。とホッと胸を撫で下ろした瞬間。


「彼はっ!!わたさないよぉ??」


酷く粘つく声がしたと思った瞬間。爆音と共に壁が崩れた。現れたその男は全身を黒で固めたなんともまぁ白の彼女と真逆と言っていいくらいの服装をしている。胸には、宝箱に羽が生えたようなマークだ。

イツキはその男の目の奥に冷たいものを感じた。



「つっ..レイア教!!」


瞬間、彼女の緋色の瞳に激しい炎が宿るのがわかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る