第33話 ヨロヨロ試合終了 そして!

 ピッチ上に転がる我が海東大と呆然と佇む大京大。

 審判のおじさまたちもどうすればいいかオロオロしていた。


”パンパンパン!”

「なにをしているの一年! ぼけっとしてないで海東さんに手を貸してあげなさい!!」


 手を叩きながら佐々木さんが叱責すると、あわてて一年の人が肩を貸して立たせてくれた。


「大丈夫ですか?」

「あ……ありがとう……ございます」


 ちなみにお尻の上に乗っていたコイツは、ゾンビのように近づいてきたおしとやかと不思議が持ち上げてくれた。


 シュモクザメなんて、初見でどう持ったらいいかわからないもんね。


 ハーフウェイラインに並ぶ両チーム。

「え~大京大学三十九点、海東学院大学一点で……」


 三十九点も入れられたのか……。

 まぁ、後半はほとんどフリーだったし。


「あの~佐々木様、どうすれば……?」

「試合前に決めたルールでお願いします」

「はい。ゴホン! では試合では大京大学の勝ち。そして……」


 ”ゴクリ”と思わず喉を鳴らしちゃった。


「勝負においては、海東学院大学の勝ちとします!」


『『ありがとうございましたぁ!』』


”パチパチパチパチパチ!”

 おじさまたち、佐々木さん、そして、大京大の方たちからも拍手をもらっちゃった。


”パチパチパチパチ!”

 

 私たちもお返しに拍手をする。

 ああ~。なんかいいなぁ~。この感じ~。


 しかし、そんな穏やかな時は一瞬で終わった……。

 佐々木さんのお言葉で……。


「海東さんには申し訳ないけど、もうちょっとここにいて頂戴」


 なんだろう?


「さぁ~て、二軍あんたたちの敗因は……それこそ腐るほどあるけど、そんなの私にはど~でもいいことよねぇ~」


 やっぱり怖いよこの御方。


「私が聞きたいのは海東さんの勝因! 二軍の中でわかる人はいるのかしらぁ~?」


 辛辣だなぁ~。

 試合が終わったばかりで、敗因ではなく相手チームの勝因を語らせるなんて。

 しかも私たちがまだ目の前で立っているのに……。


「……ま、言えるわけないか。答えを言っちゃうと、あんたたちが二軍で、海東さんが一軍メンバーだからよ」


 あれ?

 どこかで聞いたような?


「海東さんの……六番の子かしら? 私に啖呵切ったわねぇ。

『私たちは海東の一軍メンバー』

って……」


 それ私だぁ!


「そのあとも

『一軍だから自分たちで何とかします』

って。後半になってからいろいろな作戦で私を楽しませてくれたわぁ」


 いや、別に佐々木さんを楽しませるために作戦立てたわけじゃないですけど……。


「作戦はともかく、この中で自分は一軍、大京の名を背負って試合に挑んだ人間は……いるわけないわね。だから負けたのよ」


 そうだね。

 ピッチに立てば一軍も二軍も関係ない……なんてかっこいいこと考えちゃう。


「……というわけで、今から私が紅組、二軍が白組の紅白戦を開始しまぁ~す」


 へっ!?

 

「あの、佐々木先輩。ピッチを借りている時間が……」

「ああ、こんなこともあろうかと、ここへ来たときに延長をお願いしておいたわ。もちろん私の自腹で❤」


 血の気がひいている二軍の方々。


「それでは一旦解散! ちゃんと休憩しておくのよ! あ、一年はコート清掃お願いね」


 ゾンビのようにベンチへ戻る二軍の方々。


 私たちもベンチに戻って休んでいると、一年の方たちが体育館用モップで床を拭いている。

 あ、私たちも手伝わないと……。


「海東さんは休んでくださって結構です。私たちが使いますので……」

「ありがとうございます。お言葉に甘えます」


 でも紅組は佐々木さんだけだけど、どうするんだろう……。

 あれ? 佐々木さんが金網の向こうのおじさまに向かって何か話している?


「あのぉ~実はぁ~お願いがあるんですけどぉ~」

 人差し指を唇に当てて、猫なで声にジャージの前をちょっと開けてかがんでいる。

 なんか、あざとすぎるな。


「このあとぉ~、二軍と紅白戦を行うんですけどぉ~、紅組は私一人ですのでぇ~、もしよろしければぁ~、”助っ人”をお願いできませんかぁ~」


 一瞬、おじさまたちは固まるけど


『うおおぉぉぉ~!』

 な、なんか雄叫びを上げ始めたぞ!


 不思議が深刻な顔をして

「どうやら佐々木さんにとってはこっちがメインで我々は……二軍の露払いのようだったな」


 おしとやかも頬を膨らませながら

「ええ、認めざるをえませんわね……」


 サブカル同好会と茶華道部が本気で悔しがっている。

 それだけ本気で戦った証なんだね。


 お嬢先輩がなだめる。

「まぁまぁ、それでもあの大京大に一矢報いたからをよしとしましょう」


 そしてコイツは湿布貼り直して、再びミイラになってベンチの上で

「ホンマ佐々木のネエチャンは、煮ても焼いても喰えないアブラムツみたいやで~」

 

 そしておじさまたちは喜々としてはしゃでいる。

「まさか佐々木様と一緒のピッチに立てるとは!」

「おい! ちゃんと俺様の雄姿を記録しておけよ!」

「そこのスケベ親父! どさくさに紛れて佐々木様のお体に触るんじゃねぇぞ!」


 そんなセクハラ発言にも佐々木さんは

「そんなにわたしの体に触りたいんですかぁ~? それならぁ~二軍の方の助っ人になればぁ~チャージでもなんでも触り放題ですよぉ~」


 てかそれって

「わたくしに触れるモノなら触ってごらんなさい! オホホホホ!」

って意味なんじゃ?

 

 あれ? おじさまたちが急に静かになったぞ。

「い、いや、佐々木様を敵に回すのは……」

「二軍さん達の足手まといになるのもあれですし……」


 さすが女神の下僕。

 佐々木さんにかすりもしないことがわかっていらっしゃる。


 あれ? 麗人先輩とワイルドが佐々木さんに……。

「佐々木さん。私たちも参加していいですか?」

「ええいいわよ。なら、おじさまたちと交代で……」


「いえ、二軍の方たちと一緒に、佐々木さんに挑みたいんです!」

「お願いします!」


 頭を下げる麗人先輩とワイルドを見た佐々木さん。

 一瞬、その唇の端がつり上がるのを、私は見逃さなかった。


「ええ~いいわよぉ~。かかっていらっしゃい~。ピッチの上でボールと一緒に”転がして”あげるわぁ~」


 世界を征服……いや、相手にする魔女のような佐々木さんの声に、思わず鳥肌が立っちゃった。


「なるほど。”モノホンの魔女”はああいう感じなんだな。コスプレの参考にするとしよう」

 不思議が顎に指を当てて唸っていた。

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