第32話 とうとう決着!

 残り数分でおしとやかと交代。

「お……ねが……い……」

「まかせて!」


 不思議もおしとやかも、もう立てない。

 私で……決めてやる!


 みんなには悪いけど、できるだけ体力を温存しながらショルダーチャージ!

 そして、ボールが自コートへ持って行かれると、すぐにキックオフできるようハーフウェイラインへ。


 佐々木さんの叱責が効いたのか、大京大はゴレイロのアイツが棒立ちなのにシュートも手を抜かない!


”バシッ!”

”ピピーッ!”

「ゴール! 大京大……点!」


 もう何点入れられたかどうでもいい。

 一点を……入れるだけ!


 それでもみんなの疲労は明らかだ。

 キックオフ時の動きが遅い……。

 今にも倒れそう……。


 大京大一年にすぐさまボールを取られた……。


『あと一分よぉ~! あといっぷ~~ん! さぁ~! 作戦開始ぃ~!』


 ピッチを貫く佐々木さんの声!


 私以外、一瞬動きが止まった。

 大京大のメンバーは、佐々木さんが何か策を教えたのかと……。

 私以外の海東大メンバーは、佐々木さんの言葉の意味がわからず……。


 自コートにボールが行ったら休息する作戦だけど、私はゴールへ向かってドリブルしている一年向けて駆けだした!


 佐々木さんの添削と、これまでの毒舌。

 あと一分を知らせる大きなかけ声。

 そして、”作戦開始”の合図。

 さらに、これまでの休息作戦を無視して、ボールを奪おうと私が一気に近づいてくる。


 それにより、ドリブルしている一年も、ほんのわずか動揺して脚が鈍い。

 そこを狙う!


(味方を騙すにはまず敵からやで~!)


 アイツの言葉が思い出される。

 私とアイツの作戦は、他の海東大メンバーには知らされていないから……。


 ごめんなさい!

 でも、私のゴールで許して!


 追いついた! 

 ショルダーチャージ!


”ガッ!”

 浅い!

 でも、体をよろめかせた。


「くっ!」

”ビシッ!”


 苦し紛れのシュート!

 でも弱い!


”バシッ!”


 アイツがキャッチした!

 

 さぁ! 作戦開始だぁ!!


「これが最後やぁ! キャプテンさんたのんまっせぇ~!」


 アイツも余裕がないのか、オネエ言葉じゃない。


”ビシッ!”


 ハーフウェイライン中央に立つ、麗人先輩に向けた最後の尾びれキック!

 ”へろへろ~”っと、力のないボールがピッチ上を飛んでいく。


 私とコイツ以外のみんなが麗人先輩へと駆けだした。

 身構える麗人先輩。


 ボールはそのまま麗人先輩へ……じゃない!


”ククククッ!”


 急いでハーフウェイラインの左サイドに戻った、私の方へ曲がった!


”バシッ!”


 よし! うまくボールをキープした!


「しまったぁ!!」


 海東大のキャプテンさんの声と同時に、私はタッチラインギリギリをドリブルで駆け出した。


 ― ※ ―


 ハーフタイム。女子トイレの個室にて。


「それで、私は何をすればいいの?」

「簡単なことや。ネエチャンがビシィッ! とシュートを決めるんや!」


「……はああぁ!? い、いや、それができれば苦労は……そもそも私、シュートどころか縦パスすらうまくできないんだよ」


「むしろそれが武器になるんや。実はネエチャンの蹴ったボールはな……」

「……うん」


「ゴレイロを避ける、大リーグボール三号なんや!」


「……フットサルは野球じゃないんだけど」

「昭和の魔球を知っているとは、さすがはネエチャンや!」

「もう一回ピンタしてさしあげましょうか?」


「まぁまぁ、手っ取り早く言うと、ネエチャンの縦パスやシュートはうまく足の甲に当たらず、なかなかまっすぐに飛ばないんや」


「……そんな感じはしたけど……だったらなおさら!」


「それでも練習で疲れて、力が抜けたときに蹴ったシュートはな、ホンマのブレ球シュートになったんやぁ! コレは実際シュートを受けたワイだけが知っていることやで!」


「いきなりそんなこと言われても……私にできるの?」


「大丈夫や! ネエチャンの球を知っているワイだから止められたけど、特に大京大のような、ボールの縫い目まで見える一流のゴレイロであればあるほど、実際見たら度肝を抜かれるでぇ!」


「……わかった! やってみる!」


「しかし、この手が通用するのは一度だけ。なおかつネエチャンがフラフラで最後の一本しかシュートを打てれないほど疲れないと意味ないんや。それまでに誰かが点を入れてくれればいいんやが……。やるとしたら試合終了ギリギリやな」


「わかった。こちらから何かしら合図を出すから、その時はボールを私に頂戴!」


「よっしゃ! ほないくでぇ~!」


 ― ※ ―


 私にショルダーチャージしたり、ボールを奪おうとするアラはいない。

 そりゃそうだ。今までシュート打つどころか、縦パスすらしていなかったんだから。


 数合わせ。よくてチャージ要因のアラとして見られていたのだから。


 もっとも、佐々木さんには見破られちゃったけどね。


 麗人先輩はじめ、みんなもゴール前へ集まって……。

 あれ? そこ、私のシュートコースだよ。

 なんでぇ!? シュートしたら誰かに当たっちゃう!?


 もしかしてボールを寄越せってかぁ〜!?

 

 ええい! ままよ!


 ”ビシッ!”

 あ、この感じ!

 まっすぐ……飛ぶ!!


 でもこのままじゃ、みんなに当たって……。

 えっ!

 シュート打った瞬間、みんなが、一斉に左右にばらけた!


 そうか! 壁! ブラインド!

 ゴレイロを目隠ししてくれたんだ!


 反応が遅れたゴレイロは私のブレ球シュートに触ろうとするが、ボールはゴールの右斜め上ギリギリに!

 

 決まっ……。


 ”ガンッ!”


 ……えっ!?

 クロスバーに当たって……上に跳ね返って……。


 なん……で……。

 ブレた……から……?


 大京大のメンバーが一斉にボールを追いかける。


 私も……追いかけ……なきゃ!

 でも……脚が……動かない……。


 麗人先輩も……みんなも……。


 ゴレイロも追いかける。

 ボールを取られたら……終わっちゃう……。


 負けちゃうよぉ……。


『……ナイスアシストやで! ネエチャン!』


 えっ!?

 プレイヤーの膝下を縫うように、ピッチ上ギリギリを飛ぶアイツ!

 ボールの真下に来ると、


「そりゃ!」

”バァンッ!”


 尾びれを思いっきり叩きつけ、竜巻みたいに回転しながら天井へ向けて駆け上っていった!!


『刮目しぃ〜やぁ〜! これが、真・竜巻操打球術トルネード・ホーミング・メテオストライクやぁ!』


 ゴレイロもボールを取りに行ったから、ゴール前はがら空きだぁ!


「戻れぇ!」


 あちらのキャプテンさんが叫んだけど、遅い!

 アイツの真トルネードナンチャラなら!


 ”ガクン!”


 えっ? アイツの体が空中で止まった!?


「こなくそ!」


 ”ペチッ!”


 なんとか尾びれでキックしたけど、弱い!

 ゆっくり落ちていくアイツの体……。


 ええっ!? なんでぇ!?

 ああぁ! 超能力が切れたんだぁ!!


 脚! 動けぇ!!

 そして、落下地点へ向けて両手を前に出してヘッドスライディング!

 フローリングだからお腹で滑って……間に合う!


「フン!」

”ピタッ!”


 えっ? 一瞬、アイツの体が空中で止まった?

 その下を通り過ぎる私の体。


「ふぅ~」

 再び落下した先は……。


”ドスン!”

「ぐえ!」


 私の腕ではなくお尻の上に落ちたのであった……。

 そんなことよりボールは?


 "ヘロヘロ〜"っとゴールへ向かっていくけど、ゴール前で落ちちゃってポンポン跳ねている。


 この軌道じゃ、ゴールをそれてラインを超えちゃう……。


 ゴレイロはゴールに戻って、ボールを掴もうとしたら……。


"ポン……ポン……キュル!"


 えっ? ボールが回転して!

 ゴール向けて一直線に転がっていったぁ!?


「あれは!」

は、相手のキャプテン。


「まさか!?」

「つばめ返し!!」

は、おじさまたち。


「あららぁ〜盗まれちゃったぁ。ちょっとサービスしすぎたかなぁ」

は、もちろん佐々木さん。


 それでもゴレイロは懸命に足を伸ばす。


"チッ!"


 触った!

 ボールは!?


"ガン"

 ゴールポストに!

 ……でも!


"コロコロ〜"

 ゴール内に転がったぁ〜!?


"ピピーー!"

「ゴール! 海東大! 1点」


 ……入ったああぁぁぁ!!


"ピッ! ピッ! ピーーーー!"

「試合終了!!」


 ……ははは。

 やったぁ……。


 ……勝っちゃった。

 あの大京大に……。


 誰も声を出さない。


 大京大は負けて呆然として……。

 

 そして私たちは喜びより疲れで、溶けた雪だるまみたいにその場に崩れ落ちた。


 私も、こいつをお尻に乗せたまま、潰れたカエルみたいにうつ伏せで大の字になっている……。


 あ〜床が冷たくて気持ちいい……。


 ……てかいい加減、お尻の上から降りろよな。

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