第31話 ふらふら後半戦……

 佐々木さんの言葉通り、二軍といえど相手は天下の大京大。


 わざと点を入れさせて、ボールとピッチの半分を手に入れた我が海東大。

 怒濤の力押しで大京大のゴールを狙うも、大京大はオフェンスも一流ならディフェンスも一流。


 我が海東大の蟷螂とうろうの斧、同好会風情の姑息な作戦は力でねじ伏せられている。

 それでも臆するわけにはいかない!


(試合前、佐々木さんはああおっしゃったが、後半のメンバー交代は時間ではなくその都度指示するから、いつでも出られるようにしておいてくれ)


 麗人先輩の声を思い出し、不思議と私もアップを始める。

 五分も経たずに、お嬢先輩とおしとやかが、わたしたちとメンバーチェンジした。


(ベンチに下がったら声出しはしなくていい。少しでも体力を回復しておいてくれ)


 二人に関しては大丈夫だろう。スポーツ経験者だから。


 だからわたしたちも力をセーブせず、思いっきりぶつかっていった。

 そしてボールが自コートへ入ったら、すぐさま休憩タイム!


 自陣を相手チームが闊歩するのは屈辱だけど、そんなこと言ってられない!


”ズバッ!”


 一年がシュート!

 ……あれ? ちょっと弱い??


「いよっ!」

”パシッ!”


 えっ!? アイツ……胸びれでシュートを止めたぁ!

 そうか! わざわざへなちょこシュートで点をくれてやる義理はないんだ!


「あっららぁ~! フリーで止められるなんて、ばぁ~かっじゃないのぉ~!?」


 大京大メンバーの心臓をえぐり取りそうな佐々木さんの毒舌が、コート上に轟いていた。


「いくわよお姉様方!」

”ペチッ!”っと、尾びれのキックでボールはワイルドへ……


”クククッ!”

じゃない! トルネードなんとかだから麗人先輩だ!


「ナイスシュモクさん!」

「「「おおおおぉぉ~!」」」


 水を得たサメのように、わたしたちは麗人先輩をガードする。


「やらせるかぁ! 下がれぇ!」

「遅い!」


 麗人先輩の電光石火シュート!


”ガンッ!”


 ボールはゴールポストへ!

 でもまだボールは生きている!


 すぐさまワイルドが

「そりゃあ!」

とシュートを放ったけど、ゴレイロに止められてしまった。


「いい攻めよぉ! どんどんヤッちゃってぇ!」


 あれ? 一瞬、大京大の人たちが固まったぞ!?

 うちらを褒めていたし、特に怒られたわけでもないのに……?


 ……そうかぁ!

 この作戦、ひょっとしたら佐々木さんが入れ知恵したと思ったのかも?

 確かにこんな奇策、同好会風情が実行するどころか思いつくわけないもんね。


 「ゴール! 大京大 20点!」


 それでもあっという間に勝利条件の一つはクリアされてしまった。

 これを機にお嬢先輩とおしとやかが不思議と私にメンバーチェンジ。


「さぁ~て、とりあえず二十点取ったけどぉ~あの子たちどうするつもりかしらねぇ~?」


 佐々木さんの言葉の意味がわかる。

 大京大はこのまま三十点でも百点でも取って、なおかつうちらを完封するのか?

 ディフェンスに特化して、二十点のまま完封するのか?


「まぁ私が見ているんだし、楽な試合はさせないわよぉ~」


 そのお言葉、どっちのチームに向けておっしゃったんですか!?


 佐々木さんの思惑通り、大京大はオフェンスもディフェンスも手を抜かず、着々と点を重ね、うちらの攻撃も防いでいる……。


 私たちはこまめにメンバーチェンジしているけど、だからといって完全に回復しているわけではない……。


 とうとう麗人先輩の命令で、ワイルドさえもベンチに下がってしまった。


「……す、すいま……せん」

「謝る暇があったら休んで!」


 代わりにおしとやかが飛び出していった。


 ゴレイロはコイツ一人しかいないから仕方ないけど、麗人先輩はかたくなにベンチに下がらない。

 大京大のキャプテンも前半後半出ずっぱりだ。


 キャプテン同士の意地の張り合いかな?

 

 そして……無情に時計が進んでいく。

 歯を食いしばっているけど、みんなの目から……輝きが消えていく……。


 お嬢先輩と交代した不思議をベンチに寝かせる。

 おそらく私はおしとやかと交代。

 もう時間がない。

 次が最後のプレイだろう……。


「ここいらが限界かしらね。よくやったと褒めてあげたいけど……」

「まだ……終わっていません!」


 佐々木さんの言葉に怒ったわけではない。

 自分を奮い立たせるため!

 これから行う、アイツが指示した、作戦のため!


「あっらぁ~これは失礼。そういえば貴女だけ、いや、ゴレイロのティモちゃんも、目は死んでいないわねぇ~?」


 嬉々とした佐々木さんの声。


「……お願いがあります」


 佐々木さんはちょっと考え込んだけど


「いいわ。聞いてあげる。私を楽しませてくれるならね!」


 茶目っ気な声で了承してくれた。


「残り一分になったら、できるだけ大きな声で教えてくれませんか?」


「……それだけでいいの?」

「はい!」

「なぁ~んだ。私に何とかしてくれってお願いすると思ってたのにぃ~。つまんないのぉ~」


「私たちは……海東大の一軍です! 自分たちで何とかします!」


 大京大チームに私たちが一つだけまさっていること。

 それは、向こうは二軍で、こっちは一軍だぁ!


「フフン! いい心がけねぇ~。ちなみにぃ~海東さんのデータもついでに記録してあげているけどぉ~貴女だけ今まで一回もシュー……」


 佐々木さんの声が止まった。


「ひょっとしてぇ~何か企んでいるぅ~?」

「……期待して下さい」

「期待して、あ❤げ❤る❤」


 ”チュッ!”っと投げキッスをもらっちゃった!

 今の私には最高の励ましだ!

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