第30話 イケイケ後半戦!
「じゃあみんな、後半の作戦を説明する。……できれば、使いたくなかったけど」
「……先輩! まさか!?」
麗人先輩の言葉に、珍しくワイルドが動揺している?
「後半は……」
麗人先輩の作戦に私たちは目を丸くする。
「ところで海東さんは、何か策でもあるのぉ?」
佐々木さんが首を突っ込んできた。
麗人先輩がちょっと微笑んだ。
「期待してください!」
「期待しているわぁ」
前半最初のメンバー、麗人、お嬢先輩、ワイルドにおしとやか、そしてゴレイロのコイツがピッチに戻っていく。
自コートの中心に集まって最後の打ち合わせ。
ここまで来たら一点を入れるしかない!
対する大京大メンバーは、やっぱりキャプテンとゴレイロ以外メンバーチェンジだ。
一年生も混じっているけど、あれ? うちら相手に緊張している??
「あららぁ~。一点も入れられてはいけない状況で馬鹿正直に一年を使うなんてねぇ~。せめて二十点取るまでそのまま
「なんでそうしなかったんですか?」
不思議の問いに佐々木さんは
「一年にも試合経験を積ませると言ってたけどぉ~、もしかしたら海東さんが一年生を四人も使っているからぁ~、ムキになって張り合ったかもねぇ~」
そうだ。たとえ二軍とはいえ、前半、大京大は全員二年生。
勝負の世界は非情だけど、このまま二十点以上得点して、なおかつ完封しても、全員二年生なら”大人げない”と、大京大の名に傷が付く……かも?
かたや我が海東大は、二年生は麗人先輩とお嬢先輩だけ。
ワイルド、おしとやか、不思議、そして私の四人は一年生。
さらにワイルド以外は素人に産毛が生えた程度だ。
ちらっとゴールに目を向けるけど……アイツに関しては、今は考えないでおこう。
いわゆる”舐めプ”、舐めたプレイなのか、あるいは大京大のプライドかどうかわからないけど、わざわざこっちが有利な展開にしてくれたんだ。
「それに一年たちの顔つき。あの様子じゃかなりプレッシャーを掛けられたみたいねぇ~」
”ピピーーッ!”
大京大のキックオフで後半戦開始!
いくら混成チームとはいえそこは大京大。動きにスピードもキレもある。
「あらぁ? 海東さんの動きが遅いわねぇ? みんな大丈夫? 疲労が抜けていないのぉ!?」
佐々木さんが心配しているウチに
”ビシッ!”
”スパーン!”
「え? ゴレイロのティモちゃんも棒立ちでシュート入れられたぁ?」
『ゴール! 大京大 15点!』
「ど、どうなって……ははぁ、そういうことぉ……」
さすが佐々木さん。
ワンプレーでうちらの作戦を見破ったようだ。
「いくぞ!」
麗人先輩のかけ声に、みんなセンターラインへ戻ってうちらの攻撃……。
”ピピーーッ!”
“チョン”
ワイルドがドリブルした瞬間!
「「「うわああぁぁぁ!」」」
大声を上げながら、ワイルドを守るようにあとの三人が走って行く!
「速攻だ! ゴールを固めろ!」
大京大キャプテンさんが叫ぶ。
でも素人の私が言うのもなんだけど、一点のプレッシャーなのか一年の人の動きが固い?
「なるほどねぇ〜。面白そう!」
佐々木さんの“私は全てお見通しよ”の顔に、不思議と私の目が向く。
「混成チームの初っぱなを突くのはセオリーだけど、それだけじゃないみたいね……」
私たちは餌を欲しがる雛鳥みたいに、佐々木さんの次の言葉を待っていた。
「ああやってワザと点を入れさせれば、次のプレイで海東さんにボールとピッチの半分が手に入る。さらにディフェンスしたり、無理にボールを奪って無駄に体力を消耗する必要はない……」
的を射るとはこういうことを言うんだな。
「しかも海東さんは二十点どころか百点入れられようがお構いなし! 一点さえ入れればいいんだからねぇ〜!」
まさに肉を切らせて骨を断つ!
「うちの子たち、海東さんの術中にまんまとハマってしまったわねぇ。点を入れると相手にボールが渡ってしまう。だからと言って手を抜くわけにもいかない。我が大京大が同好会相手に時間稼ぎなんてみっともないっとぉ……」
あれ? 大京大のキャプテンも、なんか動きが……。
「まったく……今頃気がついたのね。二十点以上と完封、勝利条件なんてどっちか一つでよかったんだけど、あの子達、自分で自分の首を絞めたのね」
いやいや、そうさせたのは貴女のどす黒いオーラでしょうに……。
「まっ、自分で言ったんだから、自分たちで何とかしてもらいましょう」
佐々木さんは二軍と我が海東、両方見比べながら微笑んでいた。
それにしても麗人先輩、綺麗な顔してえげつない作戦を考えたな。
もっとも、そうさせたのは大京大のキャプテンが自爆したせいだけどね。
「……それ以外のプレッシャーもありますよ」
不思議が意地悪な笑みでつぶやいた。
「あら? 何かしら?」
佐々木さんの言葉は疑問形だけど、顔は答えを知っていた。
「天下の大京大が、素人同然の海東から点を恵んでもらってますもんね……」
やっぱりこやつは腹黒だった。
「フッフン。わかっているじゃない。私は大好きよ。守備を捨てた、こんな一点突破の攻撃方法は……。それに、相手を疲弊させ動揺させる作戦もね」
佐々木さんの顔が今までで一番妖しく微笑んだ。
その美しさに鳥肌が立っちゃう!
そうだよね。
一点も入れられてはいけないプレッシャーがあるし、天下の大京大が同好会風情から点を恵んでもらっている!
だからといって、力の抜いたプレイをするわけにはいかない。
大京大のエースストライカー、そして将来の日本代表が添削しているんだから。
二軍メンバーの心中たるや、私でも察してしまう。
だけど素人が天下の大京大に同情なんておこがましい!
「いけ~!」
「押せ押せ~!」
私と不思議の声援も思わず熱が入る。
”ガシッ!”
”ドンッ!”
あのおしとやかですら、ボールをもらったり相手のピッチ内でボールを取られると、果敢にショルダーチャージをかけている!
「なんかおしとやか……気合いというか殺気立ってない?」
不思議がちょっとニヤけた。
「ああ、アイツにはちょっと“暗示”をかけておいた」
「暗示?」
「目の前にいるのは大京大の皮を被った、茶華道部の雌狐たちだと! だから日頃の鬱憤を思いっきりぶつけろとな!」
非道い暗示だけど、確かに顔つきが違う。
アレでは”おしとやか”ではなく”おてんば”だ。
それに、チャージしているのは、私たちと同じ一年だけ。
キャプテンや他の二年は麗人先輩やワイルドに任せたってことか。
「……でも、そう簡単にいかないのが我が大京大なのよねぇ~」
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