第28話 メラメラ前半戦

 佐々木さんを中心に双方のチームが顔を合わせる。


「これで文句はないわよね~?」

「は、はい!」


 二軍のキャプテンさんは力強く返事した。

 むしろ闘志が燃えている!

 うちらを完膚なきまでに叩き潰すんだろうなぁ~。


「ところでぇ~、大京大学女子二軍チームの勝利条件はぁ~?」

「えっ?」

「まさかぁ~。海東さんより多く点を取ったら勝ち! だなんて、言わないわよねぇ~?」

 この人の怖さにも慣れてきちゃった。


「海東さんに完封! なおかつ私たちは二十点以上取ります!!」


 む! あからさまに言われるとちょっとムカつく!

 麗人先輩やワイルド、おしとやかまで眼が険しくなった。


「それじゃあ~十九点以下、もしくは海東さんが一点でも入れたら、たとえ試合には勝っても勝負に負けたでいいわよねぇ~?」

「かまいません! もとよりそのつもりです!!」


 不退転の決意だな。

 将来の日本代表を前に半端なことは言えないもんね。 


「ハイ決まり! じゃあ海東さんはこちらへ~」

 話が終わった頃合いを見て、おじさま達三人が佐々木さんへと近づいてきた。


「あ、あの~佐々木様」

「はい? なんでしょう?」


「じつはうちら三人、4級ですが審判のライセンスを持っていまして……」

「もしよろしければ、お手伝いいたしますが」

「一年の方々もその方が試合に集中できますので」 


 佐々木さんの顔から満面の笑みが浮かぶ。

「本当ですかぁ~! 助かりますぅ! よろしくお願いします!」

「いえいえ、同じボールを蹴る競技者として当然です!」


 なんかかっこいい台詞。


『『よろしくお願いします』』  

 両チーム、審判のおじさまにお辞儀をするけど……。


「きったねぇぞこの飲んだくれ! 抜け駆けしやがって!」

「生きてピッチから出られると思うなよ!」

「あとでかかあに言いつけてやるからな!」


 おじさま達の罵声に、審判の方も負けじと


「やぁかましい!」

「悔しかったらおめ~らもライセンス取りやがれ!」

「てめぇらのスマホの中身を、おっかぁにぶちまけてやるぞ!」


 なんかおじさま達が仲間割れを始めちゃった。

 ヲイ、同じボールを蹴る競技者じゃないのかよ……。


 佐々木さんを中心に海東チームのミーティング。

 ウォーミングアップを見ただけで、佐々木さんはうちらを二つに分けた。


 麗人、お嬢先輩、ワイルド、そしてゴレイロのコイツのAグループ。


「申し訳ないけどぉ、Aグループは前半後半出ずっぱりでお願いねぇ。十九点までは取られていいからプレー中は緩急つけて倒れないようにね」

「「「「はい!」」」」


 そしておしとやか、不思議、私のBグループに対しては


「むしろキーウーマンはあなたたち。小刻みに交代させるしノーマークだから、どんどんシュートを放ってもいいわよ。それであなたたちにマークが付いたら、Aグループのみんなで足下をすくって頂戴」

「「「はいっ!」」」


「大京大のメンバーはどのようになっているんですか?」

 不思議の質問に

「ん~メンバー表見たらぁ~おそらく前半二年を七人、後半一年七人でメンバーを総入れ替えするみたいね。前半持ちこたえればなんとかなりそうだからぁ、頑張ってねぇ~」

『はいっ!』


 将来の日本代表がおっしゃるから信じちゃうけど、口調からしてちょっと不安。

 いかんいかん! 弱気になってどうする!

 ハンドボール部との練習試合でも、向こうは前半後半でガラッとメンバーを代えたんだ!


”ピピー!”

「ピッチに集合してください!」


 うちらのポジションはビフォにワイルド。

 アラはお嬢先輩とBグループの誰か。

 そして司令塔であるフィクソは麗人先輩。

 ゴレイロはもちろんコイツ。

 我らBグループの先陣はおしとやか。頼むぞ!


 コイントスでマイボール! いいぞいいぞ!

”ピー!”

 蹴るのはワイルドか。ゆっくりと……えっ! 後ろからフィクソの麗人先輩が!


”ズバァ!”

 電光石火! 光芒一閃こうぼういっせん

 麗人先輩のロングシュートがゴールへ一直線!


「くっ!」

”バシッ!”

 ゴレイロに弾かれた! 惜しい! さすが二軍でも大京大。


「あららぁ~のんきにシュートラインを空けちゃうなんて、うちのメンバーなぁにやっているのかしらねぇ~。全員減点ね」

 佐々木さんの厳しい言葉は、うちらにとっては有利な証。いいぞいいぞ!


 あとで聞いたけど、二軍の人は普段は芝のピッチで練習しているから、こうしたフローリングの床には慣れていないそうな。

「体育館はバスケやバレーが使うからね。むしろいい経験になったわ」

は、後の佐々木さん談。 


 先に一点を取れば試合に負けてもあの大京大との勝負に勝てるんだから、我が海東は怒濤の攻撃を仕掛ける。


「せいっ!」

 おしとやかの股下シュート!

 力が弱いのから止められたけど、それでもおしとやかにマークが付いた。


「あの子のステップに股下を見極めてのシュート……へぇ、ハンドボールかぁ。おもしろくなりそう」

 シュート一発でおしとやかの素性を見破った佐々木さんは、妖しく微笑んだ。

 試合中の横顔はものすごくいろっぽい。


 床に慣れてきたのか、大京大チームが押してくる。

『いけぇ!』

 ボールがハーフウェイラインを超え、ビフォの人が一気に突進してきたぁ。


 ゴレイロのアイツは……え!? 突っ込んでくる!

「えいっ!」

 なんとか尾びれではじき返したボールはふわりとあがって……ダメだ! フィクソであるキャプテンさんへ。


”クククク!”

 え!? 曲がった!

 そうか、以前ワイルドと特訓した、あの曲がるボールかぁ!


 ボールはワイルドの足下へ落ちた。

「ナイスシュモク!」

「へぇ。出し惜しみしないのね。ま、大京大私たち相手じゃしょうがないか」


 これも後の佐々木さんの話だけど、うちらとの試合を決めたのも、動画サイトにあがってたコイツとワイルドの『竜巻操打球術トルネード・ホーミング・メテオストライク』の映像を観たからだって。


 どうりで佐々木さん、コイツとPKをやりたがっていたわけだ。

 佐々木さんほどの人なら自分と同じ技を使う人……サメを見たら、勝負を挑みたくなるもんね。


 しかし相手は二軍とはいえ、あの大京大。

 ゴレイロであるコイツの奮闘むなしく一点、二点、三点と点を入れられてしまう。


”ピピピピピ!”


 七分のタイマーが鳴って、不思議にメンバー交代。

 私はベンチに倒れ込むおしとやかのマッサージ係だ。


 向こうのメンバー交代はまだだ。

 さすが、体力が違う……。


 だからどうした!


 不思議はちょこまかと動いて、相手を翻弄する。

「彼女……何のスポーツをやっていたのかしら?」


 佐々木さんには言えない……。

 コミケや即売会とかの、人がごった返すイベントでつちかったった足さばきだなんて……言えるわけがない。


 向こうも床になれてきたのか四点、五点、六点、七点と入れられてしまう。

 そろそろ私の番だ。アップしないと。


「……二番のアラの人が、動きが鈍いわ。もしかしたら足を?」

 おしとやかのアドバイスだ。

「わかった!」


「あらあら、気づかれちゃったぁ。でもぉ、間近で見ているうちのメンバーも当然気がついているわよねぇ」

 ようやく大京大もメンバー交代。向こうの二番が交代で七番のゼッケンの人が入る。


「やっぱり交代しちゃったわね。慣れてないとはいえ前半途中で足を痛めるなんて彼女も減点ね。ウィークポイントが交代しちゃったけどぉ、どうするぅ?」


 佐々木さんの意地悪な質問に私も反撃する。


「……それが、どうかしましたか?」

「えっ?」


『私は、海東大女子フットサルチームの、一軍メンバーです!!』


 格好つけたわけじゃない。

 こう言わないと、将来の日本代表の前で啖呵を切らないと、逃げてしまいそうだったから……。


 不思議とタッチしてピッチに入ると

「!!」

 まるで暴風が吹き荒れているような試合の熱気!

 ワイルドも、おしとやかも、不思議も、そしてコイツも、この中で戦っていたの!?


 足が……動かない……。

 みんなの声が……聞こえない……。


「お姉さまぁ〜! 後ろは任せて!」


 コイツのキモい声だけが体に染み入るように聞こえてくる。

 声が……聞こえる……。

 足があがる。

 体が動く!


「わかった。背中はあんたに任せたから!」

「りょうかいですわぁ~!」


 私は股下シュートも打てなければちょこまかと走れない。

 でも、スーパーで荷下ろしして、品出しした体力はある!


 二リットルペットボトルが六本入った箱。

 それをパレットに山ほど積んだヤツをパレットトラックで運んだんだ!


 名門大京大だか知らないけど、しょせんは同じ人間、たかだか数十キロ!

 パレットに積んだペットボトルみたいに、何百キロもあるわけじゃない!


 二番と交代した七番の人がドリブルしながら突っ込んできた!

「パレットトラックを、なめるなぁ~!」


”ガンッ!”

 ショルダーチャージ!

 相手がよろめく。

 でもボールはキープしたまま。


 ダメか……。


「くそっ!」

 苦し紛れにシュートを放ったけど、ボールはあさっての方向へ。


「ナイスお姉さま! いい当たりでしたわ!」


 ボールを取るのは無理だけど、少しでもシュートやパスをずらす当たりをすれば、いける!

 それに、同じアラのお嬢先輩もよろよろだ。

 私がお嬢先輩の分まで!


 ……もしかして佐々木さん。これを見越してBグループの交代の順番を決めた?


 こっちが弱っているとみるや、怒濤の攻撃を仕掛けてきた。

 二年メンバーの内に点を取れるだけ取ろうという算段だ。


 せめて私だけでもショルダーチャージで防御するけど、その前にパスを回されて点を入れられてしまう。


”ピピー!”


『前半終了! 大京大14! 海東大0!』

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