第24話 わらわら親善試合 後半戦
ん? ピッチに入るとお嬢先輩がみんなを集めたぞ?
「いいみんな。前半戦でわかったけど、向こうはボールに目が慣れていないわ。だから最初の五分は押して押して押しまくるよ! フォーメーションは……」
お嬢先輩がなんか燃えている!
ハーフタイムに相手チームが麗人先輩を引き留めたからだろうか?
『いい? わかった!?』
「「「「はいっ!」」」」
”ピピー!”
うちのキックオフ。
ボールの前に立つおしとやかが一気に進むと思いきや
”チョコン!”
ほんのわずか横へ蹴ると、後ろからお嬢先輩が一気に突っ込んできた!
「やらせるか!」
相手チームはお嬢先輩に向かってきたけど
”ポン!”
お嬢先輩は相手コートに入り込んだおしとやかに向かって、川に向かって石を投げる水切りのように、床すれすれのボールを蹴る。
虚を突かれたハンドボール部のゴール前ががら空きになり、まだ相手コートの真ん中辺りにもかかわらず
「えいっ!」
おしとやかは果敢にもシュートを放つ!
二回、三回とピッチ上を跳ねるボールは、ゴレイロがキャッチすると思いきや、やっぱり目が慣れていないのか
『戻れ!』
「遅いですね」
さすが元陸上部。お嬢先輩が一気にボールに向かって突進し、その左右斜め後ろを私と不思議がガードする。
ゴレイロが体勢を立て直す前に
「せいっ!」
お嬢先輩の放ったサイドキックによるシュートは、ゴレイロの脇をすり抜け、ゴールへと吸い込まれていった。
”ピピピー! ゴール!”
『いやったぁ!』
歓声を上げる私たち! しかしそれをかき消すように
『女子ハンドボールチーム。タイムアウトを申請します!』
えっ!? もう? なんでだろう?
「みんな! 少しでも休んで!」
戸惑う私たちであったが、お嬢先輩の声に気を取り直す。
そして水分を取りながら、自然とお嬢先輩の元へと集まっていった。
「……このタイムアウトは流れを止める為ね。そしてタイムアウトが終わったらおそらくボールに慣れる為、積極的に攻撃してこないと思うわ。だからどんどんプレッシャーを掛けていってね」
「さすがです。そこまで読んでいるなんて」
不思議が目を見開いて驚くも
「麗人からね、相手が取るであろう作戦のことはだいたい聞いておいたからよ」
”ピピー!”
「タイムアウト終了!」
コイツが再び野太いオネエ声で
『いいアンタ達! 尾びれ巻いて逃げたら料亭で女体盛りの刑よ!』
『『『『はいっ!』』』』
気合い一つでも、海のモノに
料亭で女体盛りの刑……それに返事をする私たちも
案の定、相手チームはパス回しを行い、それをおしとやかが時折ダッシュしながらプレッシャーを与える。
私や不思議もセンターライン辺りまで出てきて、無理にボールを奪うまではしないが、お邪魔虫に徹する。
それでもなかなかボールは奪えず、たとえ奪ってもあちらは鉄壁の防御でおしとやかやお嬢先輩のシュートを防いでしまう。
奇をてらって私や不思議もシュートを放つが当然入るわけでもなく、かえってあちらにボールを与えてしまう結果になる。
「十分経過~」
女子ハンドボール部員の声が聞こえる。
あと十分だ。それまで守りきれば……。
またシュートだ!
「えいっ!」
”ポコ~ン!”
それでもゴレイロのアイツはオネェ声を発しながら、胸びれや尾びれで相手側のシュートをはじき飛ばしている。
普段はエロエロシュモクザメなのに、今日に限って頼りになるなぁ。
”ポンポンポン”とアイツがはじき飛ばしたボールが相手チームのフィクソに渡ると
『速攻!』
”えっ!?”
号令一閃! ゴレイロ以外のメンバーが一気に突進してきた。
「戻って!」
お嬢先輩の声に慌ててみんな戻る。
ゴール前はしっちゃかめっちゃかの乱戦だ!
体のぶつかり合いの圧は前半メンバーと段違いだ。
後で聞いたけど、後半はハンドボールのレギュラーメンバーだった。
(これがワイルドの言っていた力押しか!)
お嬢先輩は相手を華麗にかわしながらボールに近づくけど、おしとやか、不思議、そして私ははじき飛ばされてしまった。
(やばい! がら空き!)
相手のビフォのシュートがゴールを襲う!
”くっ!”
乱戦になって反応が遅れたのか、アイツは体を張って、お腹にボールを当てて防ぐのが精一杯だった。
ゴール前を転々とするボールに、相手のフィクソが体ごとボールをゴールに押し込んだ!
”ピピピーーー! ゴ~~~ル!”
麗人先輩の笛の音が無情に響く。
喜ぶ相手チーム。沸き立つ観客。
逆に、私たちはため息と肩を落とす。
「タイムアウトです」
息も絶え絶えに水筒を持ち、お嬢先輩の周りに集まる私たち。
「呼吸を整えながら聞いて、いよいよ相手は力押しで来たわ。これからは一点を守るために攻撃はロングのみで、あとはボールを外に出したり相手コートへ押し出すプレーに徹底して」
「「「「はい!」」」」
「そしてシュモクさん。相手の攻撃が激しくなるから、今まで以上に厳しくなるけどがんばって!」
「ご安心を。わたくしも本気を出しますわ」
”おおっ”と空気が震えた。
そしてプレー再開。
ボールが渡ったらロングシュートで攻め、奪われたら守りに徹する私たち。
アイツもゴール前をあちこち飛び回りながら、ボールをはじき飛ばしている。
だけど。
”ピピピーーー! ゴ~~~ル!”
残り時間一分切ったところ、怒涛の力押しシュートで、ボールは無情にもゴールに吸い込まれていった。
これ以上点を奪われてはと、残り時間はひたすら相手コートへボールを蹴っていた。
そして
”ピピピーーー! 試合終了~!”
“終わったぁ”とお嬢先輩以外、その場にへたり込む私たち。
観客からは惜しみない拍手と歓声。
『『ありがとうございました』』
最後の礼の後、女子ハンドボールチームからは暖かい握手をプレゼントされた。
「お疲れ様。よくやったね」
麗人先輩は微笑みと暖かい言葉をかけてくれた。そして
「正直、ダブルスコアで負けると思ったけど、同点とは恐れ入ったぜ」
ワイルドが……。先輩方、味方に裏切り者がいますけど。
女子サッカー部の部室で着替え終わると麗人先輩が締めの言葉をおっしゃった。
「今日はお疲れ様」
『お疲れ様でした!』
「反省会は後日行うとして、今日明日はゆっくり休んでくれ。試合までは今まで通りの練習でいいけど、決して無理しないように」
『はいっ!』
そしてワイルドがなにやら焦げ茶色のスティック袋を、みんなに配っている。
「これは? ココア味?」
「プロテインさ。今日の夜と明日の朝夜に牛乳と混ぜて飲んでくれ。筋肉を付けたり疲労回復にも効果があるぜ」
「わたくしたちが飲んでも大丈夫ですの?」
おしとやかが怪訝な顔で袋を眺めている。
「アレルギーとかなければ大丈夫さ。一概には言えないけど、ダイエットや美容にも効果があるぜ」
「飲みます!」
おいおい! おしとやかの脂肪、いや、眼が燃えだしたぞ。
「それでは解散!」
『お疲れ様でした!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます