第22話 ぼこぼこゴレイロ練習
向かう先は大学の陸上グラウンドだ。
トラックの内側のフィールドがサッカーコートになっていて、左右にはちゃんとゴールポストが鎮座している。
ピッチ内では女子サッカー部がすでに練習をしていた。
そして私たちの練習場所は、ゴールポストの裏側のわずかなスペース。
ん? 麗人先輩の元に数人の女子サッカー部員が? ああ、フットサル同好会の人か。
そのうちの一人が私たちに向かって軽く頭を下げた。
「フットサルに参加してくれてありがとう。練習場所がなくてすまない。フットサルのピッチでのプレーはぶっつけ本番になるけど、勝敗は気にしなくていいから、のびのびと楽しくプレーしてくれたらうれしいな」
その言葉に私たちは笑顔で返した。
まず最初は柔軟体操とランニングだ。陸上部の邪魔にならないよう、トラックよりさらに外側を、かけ声を掛けながらランニングする。
コイツはふわふわ浮いて、私たちの横について空を泳いでいる。
なるほど、これがハイブリッド浮遊? か。私たちのランニングに余裕でついてきているし、自動車のと同じで燃費がいいのかな?
その後、二手に分かれた。
お嬢先輩以下私たちは麗人先輩のグループで、グラウンドの隅っこで練習。
コイツとワイルドが一緒になって、ゴール裏でゴレイロの練習をするみたいだ。
ん? 陸上で使う旗を二本、サッカーゴールの後ろに置いた。
ああ、あれをフットサルのコートに見立てているのか。
意外と幅が狭いな。サッカーゴールの半分以下? アレならコイツでも何とかなりそうかな?
おっと麗人先輩がボールを準備し始めたぞ。
不思議が質問する
「いきなりボールに触ってもよろしいんですか? サッカーやフットサルにはボールに触る前にダッシュやステップのトレーニングすると聞きましたが?」
「トレーニングばかりじゃつまらないからね。まずはボールに慣れる意味で軽く蹴ってみようか」
二対三に別れてジグザグにボールを蹴ったり、等間隔に並べたコーンをスラロームしながらドリブルする。その都度、麗人先輩からアドバイスが入った。
「久しぶりに体を動かすのは気持ちいいですわ」
おしとやかがさわやかな笑顔と汗を振りまいている。
そんな中、お嬢先輩は元陸上部だけあって、ドリブルやボールさばきの動きが違っていた。
コイツはどうしているかな、と、サッカーゴールへ目をやると……。
「お願いしますわ!」
「そりゃぁ!」
”スポーン!””ボコーン!”
「あぁん!」
え!? ワイルドのシュートをまともに食らって、地面に墜落したぁ。
「ヘイヘイヘイヘイ! そんなことでホオジロの野郎に勝てるのかぁ!?」
ワイルドの挑発にコイツは歯を食いしばりながら
「くっ! こんなことぐらいで……私は負けませんわ。次! お願いします!」
「よく言った! せいっ!」
……なんだろう。往年の熱血スポーツドラマみたいなのは気のせいかな?
そんなこんなで今日の練習は終わった。
夕食時。
「アンタ大丈夫? ワイルドのシュートをまともに食らってたけど?」
「なぁに、あれくらい屁でもないわ。ネェチャン達と一緒で、まず体で覚えンとな」
「ふぅ~ん。まぁ無理しないでね」
そんで翌朝……。
「いたぁ~い。いたいのぉ~」
家中に響くコイツの泣き声。まぁ仕方ないか。
「ハイハイ、湿布貼るから動かないでね」
そういう私も全身筋肉痛だ。コイツに嫌みを言う気力もない。
家中に漂う湿布の匂い。う~ん、まるで老夫婦の家だな。
これからも湿布使いそうだから、あとでドラッグストアに行って多めに買っておこう。
こうして時間が空けばフットサル漬けの日々が始まった。
休講や講義がない時間は私たち三人はランニングやステップ、スクワット。
そしてコイツが家から飛んできて、ワイルドと一緒にゴレイロの練習が行われた。
そして、麗人先輩やお嬢先輩を交えた、ある日の合同練習。
麗人先輩、お嬢先輩、女子サッカー部のみならず、陸上部までもサッカーゴール裏のコイツとワイルドに注目していた。
何をやっているのか、ようやく気がついた私たち三人。
「あ、あれ、シュモクさんがやっているんですよね?」
「カナヅチのヤツ。いつの間にあんな”技”を……」
おしとやか、不思議、そして私も開いた口がふさがらない。
「行くぞ!」
「お願いしますわ!」
”スパーン!”
”ポコーン!”
ワイルドのシュートを華麗に尾びれで打ち返すコイツ。
そしてボールは……シュートが終わったワイルドの足下へと転がっていった。
ワイルドは続けてゴールの四隅へシュートを放つが、コイツはそれを胸びれや尾びれなんなくさばいたり叩いたりするだけではなく、シュートを打ったワイルドの足下へ寸分違わず転がしていった。
つまりワイルドは、コイツが蹴ったり叩いたボールを追いかけることなく、その場でひたすらシュートを放っているのだ!
「フゥ、こんなモンだな……ってぇ! なんでみんなこっち見ているのぉ!」
ワイルドが驚きの叫びをあげ
「あらあら、どうやら皆様方、わたくしの”演舞”の
コイツは唇の端をつり上げながら、妖しい笑みを浮かべていた。
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