第21話 へろへろフットサル(下)
そこからはフットサルの簡単な説明が始まった。
コイツにも聞こえるようにバッグのファスナーは開けたままだよ。
・試合は約一ヶ月後。
・場所は倉庫を改装した屋内フットサル場。地面が人工芝と体育館のような床の二面があって、今回は体育館の床の方を借りたそうな。
「人工芝は人気があるけど、専用のシューズが必要なんだ。結果的にはこっちでよかったよ」
は麗人先輩談。
・今回の試合のメンバーは五人。《ダイアモンド》と呼ばれる菱形のフォーメーションを取るそうな
・菱形の先端のビフォ(フォワード)はワイルド。
・アラ(サイド)の二人は片方はお嬢先輩、もう片方はあたしら三人が交代で出る。
・そしてフィクソ(バックス)は麗人先輩。
「ワイルドには悪いですけど、麗人先輩がビフォの方がよろしいのでは?」
おしとやかがまともな質問をすると、麗人先輩はさわやかな笑顔で答える。
「サッカーと違ってフィクソは司令塔の役割もするんだよ。もちろんここぞの時は前へ出てパワープレイで押し込むけどね」
・そんでゴレイロ(ゴールキーパー)はコイツだ。
・時間は前半二十分、後半二十分。
・タイムアウトは前半後半一回ずつ可能。
・そして今日から練習するのだけど、麗人先輩、お嬢先輩、ワイルドはともかく、私はバイトがあるし、おしとやかと不思議もそれぞれの部活があるから、来られる時に来てくれればいいと。
ある程度覚えたら、講義と講義の空いている時間を練習時間にしようかな。
「レガース(すね当て)は、先輩から使っていいって許可をもらってあるから自由に使っていいよ。屋内でやるから試合前はちゃんとスニーカーを洗っておくようにね。あとは練習しながら説明するよ。口より体に覚えさせた方がいいからね」
麗人先輩の締めの言葉に、一同部室へと向かった。
「女子サッカー部は練習に出ているから、ゆっくり着替えていいよ」
予備のユニフォームはお嬢先輩が着るから、私は高校の体操服を……。
「おい、これを着ろ」
不思議がユニフォームそっくりな青いシャツを差し出してきた。
隅々まで眺めてみると、え!? ちゃんと胸元には大学名
『
『
「これは?」
「ユニフォームの”コスプレ”だ。同じ色の生地がなくて多少色が違うが、なぁに、よく見なければ気がつかないだろう」
「「「「おおお!」」」」
先輩方とワイルド、そして私が発する驚きの四重奏だ。
不思議とおしとやかもユニフォームのコスプレを手に持っている……そうか、少し遅れてきたのはこのせいだったのか。
「どうせ戦うなら同じような服で戦った方がいいだろう? チームプレイだからな」
「あ、ありがとう」
コスプレユニフォームに袖を通すと、なんだろう? 目から鼻水が……。
コスプレがこんなに感動を与えるモノだったなんて……。
「なにぶんスポーツシャツと違ってただの布きれをつなぎ合わせたコスプレだ。一応下にはシャツを着ておけ。でないと破れた時
『いやあぁぁ~~ん!』
な光景をさらけ出すことになるぞ」
え!? 今の色っぽい声はどこから聞こえてきたの??
そんなこんなでいそいそと着替える私たち。
当然コイツはバッグの中から、鼻の下と目尻を下げながらのぞいていた……。
「お姉様方のお体も素敵ですわ。思わず見とれてしまいますぅ」
と、声は乙女っぽいがその成分は親父加齢汁100%な声を吐き出していた。
私たちは眼中にないのかよ! い、いや、見て欲しい意味じゃないけどね。
着替えの終わった不思議が私のスポーツバッグをのぞき込んだ。
「ヲイ、いつまでもカバンの中で引きこもっているんじゃない。着付けをしてやるからとっとと出てこい」
「え!? まさかコイツの分のコスプレも?」
「当たり前だろ。ゴレイロになるんだからな。ある程度重装備なヤツをつくっておいた」
「「「「おおおお!」」」」
感嘆の四重奏が部室にこだまする。
んで、できあがったのは……。
尾びれには、鍋つかみをつなぎ合わせた靴下。
尾っぽには、片方をぶった切って縫い合わせた黒のレギンス。こうやってみると、コイツの足、いや尾っぽってかなり太いな?
そして、重ねた段ボールを曲げてビニールテープで補強したレガーズ。
裏地にはクッション素材付き。もちろん前後に取り付けるのだ。
さらに、うちらと同じコスプレユニフォーム、シュモクザメバージョン!
胸からお腹にかけてクッション素材が裏地で縫い付けてあって、背びれ部分もちゃんと空いているぜ!
さらにさらに胸びれには、こちらも鍋つかみを改造した手袋。
「こんなモンだな」
「「「「「おおおおお」」」」」
「す、すばらしいですぅ不思議さん。これならダイオウイカの”クソ野郎”も、一発でイカソーメン特盛りにして差し上げますわぁ。オホホホホホ!」
コラコラ、ある名詞の時だけ素に戻るんじゃない。
ん? 不思議の顔が……。何か物足りなさそう?
「どうしたの? どこか変?」
まぁ、コスプレどころか、シュモクザメがゴレイロをすること自体おかしいのだけどね。
「い、いや、今日は練習だからな。”とっておき”は本番までとっておこう」
ヲイ。まだこれ以上コスプレさせる気かよ?
「準備はいい? それじゃあ行こうか!」
「「「「「「はい!」」」」」」
麗人先輩のかけ声に、コイツを入れた私たち六人は返事返す。
そして……。
「行くわよアンタ達! ついてこられないヤツはウツボのエサにしてやるからね!!」
「「「「「「おう!!」」」」」」
コイツの野太いおねぇ熱血声に、私たち六人の気合いのハーモニーが、部室に轟いたのであった。
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