第20話 へろへろフットサル(中)
うちの大学の女子フットサル部は、元々は女子サッカー部の補欠の人が立ち上げた部みたい。
《名前は”部”だけどさ、大学からはあくまで同好会扱いなんだ((^_^;)テヘッ!)》
だから部員もサッカー部との掛け持ち、いやサッカー部の方が優先され、体組成計で測ったあの部室も、実は女子サッカー部のものだそうな。
《ちゃんと許可はもらっているぜ! (^_^)v》
今までは陸上トラックの内側にあるサッカー場の端っこで練習していたけど、ちゃんとした練習試合がしたいってことで、他校と合同で専用のグラウンドを借りたみたいだ。
《専用のグラウンドなんてあるんだ?》
《ああ、サッカーに比べてそんなに広くない場所でもできるからね。借りたところには二つのピッチ、つまりコートがあるんだ》
《ボールが隣のコートへ飛んでいかない?》
《四方を金網で囲んであるから大丈夫さ》
《へー》
でも女子サッカー部の方の練習試合と重なっちゃって、ほとんどのメンバーはそっちへかり出されちゃった。
んで残ったのが、最初からフットサル目当てに入部した二年の先輩とワイルドだけになったそうな。
こっちの都合で試合中止になったら相手に悪いし、何よりキャンセル料がもったいない。
《そもそもフットサルって何人でやるの?》
《ピッチに出られるのは五人までだけど、今回は五対五でやることになった。相手チームのメンバーも試合に出たいからね。あと交代要員は九人までいいぜ》
《うちらが出てもいいの?》
《フットサルの先輩に話したらとりあえずオッケーもらった。なにより先輩も試合がしたいしね》
《ボロ負けにならない?》
《相手チームも多少は手加減すると思うし、なにより先輩のツテで、元陸上部の二年の先輩を呼んでくるから、少しは安心していいぜ(^_^)v》
《うちら三人は何をすればいいの?》
《交代でアラ(サイド)をやってくれればいいよ》
「……というわけなんだけど」
「オッケーやで!」
「いいの? 先輩やワイルドはともかく、うちらは素人だから簡単にボール取られちゃって、どんどんシュート打たれるよ?」
「困っているおなごがいるのに助けないのは、シュモクザメの名折れや! まかせときや!」
大丈夫かな?
―― ※ ――
授業が終わってすぐさま家へ帰る私。
「おう、まっとったで!」
高校の体操服であるハーフパンツとシャツ、その他諸々が詰まったリュックを担ぎ、
「ちょっ、ネェチャン」
有無を言わさずコイツを、一番大きいスポーツバッグに押し込んだ。
「乱暴やな。別に空を飛んでもええやろ?」
「大学じゃ人目につくからちょっと我慢して」
再び大学に足を運ぶが、あれ? コイツこんなに重かったっけ? それに背、いや、体長も伸びたのかな?
集合場所の学食へ行くと、すでに先輩達とワイルドがいた。
「す、すいません、ハァハァ……遅れちゃって。あ、初めまして! よろしくお願いします!」
両膝に手をつきながら挨拶する私に向かって、凛とした声が届けられた。
「ハッハッハッ! あわてんぼさんだね。そんなにフットサルをやりたいのかい? あ、初めまして。この度は参加してくれてありがとう。うれしいよ」
顔を上げると、ワイルドのウルフカットより横と後ろの髪が短い、男性のツーブロックって言うんだっけ? 歌劇団のトップ、男装の麗人のような方がいらっしゃいました。
「初めまして。こちらこそよろしくね。私もフットサルは初めてですので、気楽にやりましょう」
今度はおしとやかよりもおしとやか、いや、邪気がないお嬢様のような、失礼かな? 歌劇団の姫役のような女性が
「ところで、例のゴレイロをやってくれる”人”は?」
麗人先輩の問いかけに、私はスポーツバッグをテーブルの上に置くと、ゆっくりとファスナーを開いた。
「ごきげんよう。お姉様方」
コイツが胸びれをあげて、いつぞやのカミナリがあった時のような挨拶する。
「!」
「!!」
言葉が出ない二人。まぁそうだよね。
「な、なんて見事な筋肉美なんだ……。ワイルドが太鼓判を押すわけだ」
「しなやかで美しい筋肉ですね。元陸上部の私から見ても、短距離の瞬発力と長距離の耐久力を併せ持った、正に理想の筋肉……」
お姉様、いや先輩方はコイツの体を見て息を呑んでいる。
「だろ? この鋭さと粘りを併せ持った日本刀のような筋肉は、ゴレイロにはもってこいだろ!」
先輩に向かってため口&親指を立てるワイルド。
ごく普通の会話だけど何かがおかしい。どこか違和感を感じるのは私だけかな?
そこへ聞こえてくる足音と挨拶。
「遅れて申し訳ありません」
「すいません諸先輩方。おしとやかのコス……いやユニフォームの仕立てに手間取ってしまいました」
足早にやってきたおしとやかと不思議が、二人に挨拶をする。
おしとやかはともかく、不思議がまともな言葉を話しているのも、何か違和感が……。
一つ引っかかる単語の切れ端が垣間見えたけど、スルーしておこう。
「こちらこそ無理言ってすまないね。”あの”茶華道部の部員なら《鋼のメンタル》を持ってそうだから期待しているよ」
「あらやだ……おたわむれを」
麗人先輩の挨拶に、おしとやかのほほが薄く紅に染まっているのは気のせいかな。
お嬢先輩は不思議に向かって
「よろしくね。まさかサブカル部の子が来てくれるとは思ってもみなかったわ」
「いえいえ。たまには”実技”を行うのも、キャラになりきるのに必要ですから」
う~ん、不思議の不思議じゃない話し方に脳みそが揺らされる感じだ。
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