第18話 ビクビク体重体組成計

 ――後日。大学の学食にて。

 恐る恐るワイルドに事の顛末てんまつを話すと

「ふぅ~ん」

 なんか私の体をじろじろ見ている。やっぱり……。

「よしわかった。んじゃついてきな!」

 ワイルドの後をついていく私……と、おしとやかと不思議。


「なんで二人がついてくるのよ!?」

「わたくしの体も、一度ちゃんと測った方がいいかな、と思いまして。ご相伴にあずからせてもらいますわ」

 おしとやかが両手を握り、体中に花を咲かせながら笑顔で答える。

 他人の不幸は花の蜜の味ってか?


「コスプレを作る為には、隅から隅まで拝見しないといけないからな」

 不思議がなぜか私に向かって親指を立てる。

 私用のなんのコスプレ衣装を作る気なんだ?


 再び行われた女子会……という名の、身体測定会!

 場所は、女子フットサル部の部室。

 ドアを開けると、六畳ほどの部屋の正面には白いカーテンが掛かった窓、両側の壁には細長いロッカーが並んでおり、冷蔵庫や背もたれのないベンチも置いてあった。


「ほい。これは体重体組成計っていって、体重から体脂肪にBMI、筋肉量まで測れるぜ!」

「「「おおお!」」」

 乙女の天敵ともいえる体重計だが、その近未来的な形はなぜか私たちを驚愕きょうがくさせた。

 なんのテレビショッピングだよ?


 身長を測られ、性別、年齢を入力する。

 とりあえずポケットに入っているスマホとかを取り出して、裸足になって恐る恐る足を乗せる。

 そして、出てくる数値をワイルドはメモする。


「ふぅ~ん。やっぱりな」

「な、なに? なにかおかしいの?」

 これ以上心臓に悪いことは言わないでくれ! 


「体脂肪率はそこそこだけど、筋肉量が結構あるんだ。筋肉は脂肪より重いからそれで体重が増えたんだよ」

「で、でも、この前言ったよね? 大学は体育の講義が少ないから体がなまるって?」


「なんだかんだで運動しているんじゃね? スーパーのバイトだって、ただレジを打っているわけじゃないんだろ?」

「確かに、牛乳や二リットルのペットボトルとかを商品出ししているし……」


「それ自体が一キロや二キロのダンベルだからね。あと、これは決定的なことなんだが……」

「な、なに……」

 おしとやかと不思議も耳をそば立てる。


「タンパク質、つまり肉食が増えると、筋肉がつくって事さ。もちろんそれにあった運動しなくちゃいけないけどね」

「肉食ってそんな……あっ!」

「シュモクさん!」

「カナヅチのせいか!」

 おしとやか、不思議の答えに、ワイルドがニヤケ顔で説明する。


「そうそう。あたしがフットサルに声かけたのも、この前の女子会で水着姿を見たからさ。適度な脂肪と適度な筋肉。長時間動き回るフットサルにピッタリってね」

 とりあえず原因がわかっただけでもホッとする。

 う~ん、いつの間にか調教、いや、肉体改造させられていたのは私の方だったか。


 ちなみに、あとの二人は……。

「……な!? なんでわたくしの体脂肪がこんなにも!?」

「仕方なかろう。茶華道部なんて座って茶と菓子を食べているだけ。さらに家に帰ったら雌狐共のイヤミのストレス発散の為に、スィーツをドカ食いしていれば、そうなるのがむしろ大自然の摂理だ」

 おしとやかの傷口に、不思議がさも見てきたように大自然の厳しさをすり込んだ。


 ちなみに不思議が一番体脂肪率が少なかった。その分筋肉量も一番少なかったが……。

「二次元の世界の住人はみんなスレンダーだからな。コスプレイヤーは筋肉も脂肪もできるだけ付けないのがいいんだ」

 これ見よがしに不思議が胸を張る。でも二次元の女性って、なぜか胸は三次元の女性よりあるんだよね。


「なに『Aカップこそ至高だ』との言葉もある。ちゃんとそういうキャラを選んでコスプレしているからな。カッカッカッカ!」

 天下の副将軍のような高笑いをしている。う~ん、開き直った女子は強い。


「……しますわ」

 ん? おしとやかの様子が?

「わたくしは今から! 二次元の世界へ旅立ちますわ!」

「よくいった! 我がサブカル同好会へようこそ! まずは形からだ。色とりどりの、いろいろなキャラのコスプレが君を待っているぞ!」


「ちょっと待てぇ! 人の部室で勧誘するんじゃねぇ!」

 ワイルドがワイルドな雄叫びを部室に轟かせた。

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