第五章 華麗なる? サメ活

第14話 いないいない……シュモクザメ!

 大学に登校したら、すぐに休校掲示板に向かうのは、学生として当たり前のことだよね。

 だって、遅刻しそうになって慌てて教室に飛び込んだら、誰もいないなんて事があるから。

 けっ決して、過去の私の事じゃないんだからね!


(あ、休講だ。らっきぃ~!)

 バイトが休みの日の午後の休講は、ちょっと得した気分になる。

(さて、どうするかな?)

 午前の講義が終わり、四人で学食へ向かう。

 いつもの三人はそれぞれのサークルへ顔を出すみたい。


「たまには体を動かしたら? 高校と違って、大学には体育の講義が少ししかないから、体がなまっちゃうぜ」

 ワイルドがスポーツクラブのインストラクターのような勧誘をする。

 彼女はソフトボールからフットサルまで、いくつものサークルを掛け持ちしている。


「大丈夫だって、あたしが助っ人で呼ばれるぐらいだからぁ、他のメンバーの力量は推して知るべし!」

 でもね、何度も観戦しに行ったけどね、他のメンバーの方達より、下手くそにプレイできる自信はあるぞ!


「よろしければ、私たちのサークルへ顔を出しますか?」

 おしとやかが、にこやかな笑顔を向けてくれた。

 彼女は茶華道さかどう部で日々、茶筅ちゃせんや剣山を振り回しながら、己の肉体と魂を鍛えている。

 ……ちょっと、違ったかな?


「心を落ち着かせて茶と華と向き合ってこそ、見えてくるモノがありますよ」

 心なしか、おしとやかが持つはしに力がこもっているような……。

 不思議が言うには、茶華道部は他の部やサークルから、ハイソなお嬢様達が奏でるイヤミ、皮肉、嘲笑が渦巻く、『化かし合いの巣窟そうくつ』とよばれているそうな……。

 おお~。くわばらくわばら。


「新しい自分を発見したくはないか? なぁに、恥ずかしいのは最初だけだ」

 不思議が怪しい自己啓発のような勧誘をする。

 もちろん彼女はサブカル同好会の一員だ。

 バイトまでの時間つぶしにゲームをしにいくと、いつも私にコスプレさせようとする。

 アイツやみんなの前でエロエロ水着姿を披露したから、それぐらいべつにかまわないが、写真を撮ってサークルのSNSに載せると聞いて全力でお断りしている。

 実家の家族が見たら卒倒するかも……。


「べつにアニメにこだわる必要はない。ナースやバニーガールも立派なコスプレだ」

 それこそおしとやかがもらった、あやしい求人広告のお店だ。

 首に縄を付けてでも、実家に連れ戻されるかも……。


「いきなり縛りプレイとは……。だがそういう特殊な性癖は我がサークルの活動を超えている。学校に眼を付けられると、ウチのサークルが潰されてしまうし……。残念だが、個人で楽しんでくれたまえ」

 珍しく不思議が”真顔”で話している。

 いろいろと失った物が大きそうだけど、どうやらあきらめてくれそうだ。 


 結局、レポートの宿題をする為、家へ帰ることになった。

 夜にやってもいいけど、アイツはバラエティー見終わったらすぐ寝るし、キーボードの音って意外と響くんだよね。あとなんだかんだ掃除もしたいし。

 アイツが来てから休講で早く帰るのは、初めてじゃないかな……


「ただいま~」

 買い物をたずさえて玄関に入ると、いつもの馬鹿笑いは聞こえてこない。

 ……お昼寝中かな。

 これでも気を遣って静かに部屋に入るが……シャケの木箱で造ったベッドにいない。

 台所……お風呂場……トイレ……いない。


 ……ええっ!


 玄関の鍵は……閉めてあった!

 窓の鍵は……閉めてある!

 ……うそっ。

 そうだ宅配ボックス!

 ……空っぽ。

 私の頭の中も……空っぽ。


 ベッドに腰掛け、そのまま枕に向かって倒れ込む。

 ひょっとして……今までの出来事って……私だけの……夢?

 でも、朝ご飯はいつも通り一緒に食べたし……。


 そういえばお昼の学食では、みんなからアイツの話は出てこなかったな……。

 みんなの頭の中から、アイツの記憶が消えたのかなぁ?

 でも、部屋中に漂うアイツの生臭い匂いはそのままだ。


 そもそも、なんで私の宅配ボックスに入ってたんだろう?

 もしかしたら……考えたくない!

 妖精は死ぬと……体が消えるって……何かで読んだような。


 ……あれ? 鼻水が。……そうだよね。これって……鼻水だよね。

 スンッ! スンッ!

 おかしいな? いくら鼻をすすっても、これじゃあ……枕が濡れちゃうよ。


『こらあかん!』


 ん? あいつの声?

 ハハ……とうとう幻聴が……って、頭の後ろ、窓の外から聞こえたような?

 鼻をかんで窓を開け、右見て左見て、下を見る。

 そして上……。


「いよう姉ちゃん。今日もいい天気で」

 コバンザメのように腹をマンションの壁にくっつけているアイツがいた。

 いや、コバンザメって頭をくっつけるんだよね?

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